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辻漢方堂

作者: 仙 岳美


シトシトと

 その隅迄も

   暗く観る

    診察室は

     オカルト映画


登場人物兼語り

 

 古日辻 明 (こひつじ めい)二十五歳


とそんな感じな心持ちで丸椅子に座る私は、その対面している医者や、その後ろに立つ女性の看護師の顔もどこか暗く感じえた。

 

「どこも悪く無いですね、この時期によくある、気象のせいですよ、お風呂によく浸かり、適度に運動もしてください」


「あの~ お薬は」


「症状が続くようでしたら、詳しく検査してから出しますので、また来て下さい」


そう内科医に見放された様な口調であしらわれ、足を洗っているかの様な土砂崩れが起きそうな程のドシャブリな雨の中、傘を差しトボトボと道の脇にカエルなどを見ながら歩く帰り道、私は思った。

『梅雨の時期なんて、いっそうの事、空から素麺のつゆでも降ってきてくれないかしら、それなら万々歳だわ、ほんと日本語って紛らわしい』

とか、

やさぐれ気分に成りながら曇り空を見上げると、

[辻漢方薬堂]と言う屋号が描かれた金縁金文字で下地が黒い木の横看板が目の視界に映った、その漢方薬局はいつも駅に向かう時に前を通過する、そのたびに、心中は小馬鹿にしていたが、今回は底なし沼みたいな現状から、俗に言うところの、藁にもすがる気持ちになり、その目の前の店に寄って帰る事にした。


 その店の中は、その臭いだけで喉が渇く様に濃い生薬臭が漂い。光景は、少し怖く、天井からは、鹿の角や、何かの生物の干物、球根の様な野菜も吊るされており、そしてコンクリ床のあちらこちらにその開いたくちから茶色い草や根が見えるズタ袋が乱雑に積まれていた。

隅には、ビニール袋を被せた熊の剥製や学校の理科室などによく置いてある人体模型が追いやられる様に置いてあった。

そして奥に色々な生薬が収められていると思われる、囲碁盤の様な木棚を背にし佇む老人がカウンター越しに私の事を見ていた。

目が合うとその老人は私に手招きした。 

その老人は浮世絵に描かれている仙人の様に、長く伸びた真っ白な眉毛や髭を蓄えていた。

その貫禄から推測し、この人なら私の病気を治せると期待し、悩める症状を詳しく話した。


「角掻く鹿近」


ひと通り私の嘆きが終わると。

その老人は店の奥に行き、戻ると私に手のひらを差し出し。

「ならば、これを飲みなさい」

と、その手の上には一つのカプセル薬が乗っていた。

そのカプセルは透明で中には虫の蛹の様な、いや明らかに虫に見える蛹が液体と共に封じられていた。

「こ、これは!?」

「女王蜂の蛹だよ、秦の始皇帝や西太后も呑んでいた霊薬さ、その力を身体に宿せば、巣が繁栄する様に貴方の身体も蘇る」

手に取り、よく見るとその蛹は小さく拍動し、こちらを見て笑っている様にも見える。

「やだ~、この子、生きてる……」

「そうだよ、女王様は蜂の世界では不老不死に値する、神に選ばれた虫さ、そして蜂は世界の繁栄を神に託された虫でもある」

「一回だけ飲めば良いの?」

「一回で大丈夫だよ」

「で、おいくらかしら」

「一万で良いよ、少し高いかな」

私は、いえいえとする感じに手を振り、頷き、財布からお金を出し渡した。

「今此処で飲んでいきなさい、皇帝液もサービスするよ」

と店主は、レジ横のガラス張りの冷蔵庫から黒い栄養剤の小瓶を取り出し。

バリバリと蓋を回し緩め、私に手渡しニッコリとしたスマイルもくれた。

私はゴックリとその蛹カプセルをその栄養剤で胃に流し込み、その漢方薬局店を後にした。


 起きると相変わらずに頭も身体も重だるく、そして何やら目眩もする。

どうやら上手く騙されたかなと思ったけど、それはすぐに違うこと気づいた。

その日の夕方の買い物帰り、その夢に見た、漢方堂に寄ると店内は夢に見た光景とは当然に違く、トイレットペーパーや玉葱などの野菜や、インスタントコーヒー、喉飴、お菓子なども置いてある、小さいスーパーの様な感じだった。

その奥に仙人店主も当然にいなく、代わりに見かけが初老の白衣を着たメガネ男性が立っていた。


その店内に客は私しか居なく、すぐに私の診察が始まった。

その店主は、私に舌を出させながら、親指であかんべをさせ、脈を取り、カウンター横の壁際に置かれた細く少し硬い白いベットに寝かせ、お腹の辺りをやや強めに押し。

「代謝の不全ですね、効く漢方あるのでお出ししますよ」

と出してくれた漢方薬と天然水造りと表記してある美味しそうな豆腐も目についたのでついでに一丁買い、その日は帰路に着いた。


その後、私の体調は気づくと治っていた。

ただこの梅雨の時期になると内科医の診断は当たっていた見たいで、体調が崩れるので、また、そのお店に漢方薬を買いに行く。

そしてある日、その店の裏側に見覚えのあるガラス張りの冷蔵庫を見つけた。

その冷蔵庫は錆び錆びで、もう何年も使われてないようだった。

その中には黒い小瓶も転がっていた。

私はその瓶を家に持ち帰り、時折りたまたま目にし積んできた花を一輪差し、手を合わせていたりする。


 [終]

作成に辺り利用した題材


題材・夢

 それは寝る時に見る夢、その仕組みは完全には解明されてはいない、何故なら見る夢を選択及び調整はできないからである。故に夢を人外の存在が人との交信ツールに使用すると称える、UFOや仙人の存在を信じてやまない少数な学者の意見を完全に否定する事は出来ない。

例を一つあげると、あの悲劇のタイタニック船が沈没をする夢を見て、乗船を止まり、その難を逃れた人の話しなどが有名である。


題材・辻

 それは道の交差する地点とその周辺。古来からそこは辻と言われ不吉な事が起きる場所と伝えられている。ただしそこは、超常現象の発生源にもなり得る可能性が秘めた場所でもある。

それが良い事なら奇跡と評価される。


題材・処方箋

 必要とする真のそれに行き着くには、天の助けを借りたくなる程に長く困難な旅路に成り得る場合もある。


題材・漢方薬

 それは先人達がこの世に残してくれた霊薬。専門店以外でも保険適用で処方してもらえる事ができる。ただ専門医の方が診断は、より的確に思える。その困っている症状に効く薬を知り得る事ができるのならば、少々のお金も先行投資と思えば安い様にも思える。なにもともあれ人間は身体が資本であるのであるから。

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