臨機応変に生きましょう
「えー、死んでもド田舎かよ萎えたー」
彼女が転生し、異世界の地に降り立って最初に放った言葉である。
どうやら森の中にある広場のような場所らしく、周囲は大木で覆われていた。
自分が死んで日本ではないどこかの村に飛ばされたことは理解していた彼女は、ただただ広がる緑に途方に暮れた。
彼女の足元にあるのはチョークか何かで描かれた消えかけの歪な魔法陣のようなもの。
「え、なにこれかわいー!」
「うわスマホ無くなってんじゃんだるー
撮りたかったのにー」
どうやら魔法陣に散りばめられたハートに見えなくもない模様が気にいったようだった。
▽ ようこそ ナカノ レイナ 様
▽ まずは ステータス を表示します
再び聴こえた、いや、脳内に響いた例の声。
そして再び現れたホログラムの画面。
「うわ、これどうなってんのまじで!どっから出てんの!」
「え、触れんじゃんうける」
取扱説明書は読まずにとりあえず直感で動かしてみるタイプの彼女は今回も例の如く未知の触れる画面を一心不乱に操作し始めた。
表示されている項目は
▽ スキル
▽ 詳細
▽ 名前設定 (変更不可)
というものだった。
とりあえず、一番上の ▽ スキル を選択する。
▽ デコレーション Lv. 1/99 未覚醒
触れた対象を思いのままにデコレーションする。
原型を変えることはできない。
自分の意志がない限り解除されない。
また、対象は触れた際に触覚で感知できるものに限る。
「デコレーションだってギャルすぎうけるー!」
「なんかバリテンション上がってきた!!
自由にデコれるとか天才すぎ!!!!!」
「待ってなんか2個あるラッキー!!」
一言発する度コロコロ変わる表情と声色は彼女の純粋な好奇心を感じさせた。
間髪入れずに画面を下から上になぞり、2つめのスキルの全容を表示させる。
弾む指先は、きれいに磨き切りそろえられ淡いピンク色のベースにゴテゴテのハートのパーツが乗せられた自慢のネイルによって彩られている。
▽ 鑑定 Lv. 1/99 未覚醒
触れた対象を解析鑑定し、結果を可視化する。
多重鑑定可能。
鑑定結果は自分のみ把握可能。
先程のスキルとは打って変わって難しい漢字の並ぶ画面に彼女は頭を__________
「あーね、あれでしょ?
ぐー〇るってことでしょ?」
__________全く悩ませていなかった。
彼女、割と勉強ができるタイプのギャルなのである。
「あ、もしかしてさー、
これもデコれたりするのかなー?」
そう言って彼女がもう一度画面に触れると、先程まで鑑定のスキル詳細が綴られていた部分が眩い光で覆われる。
数秒後、光が霧散すると共に上書きで新たな文字が加えられた。
▽ ぐー〇る Lv. 1/99 未覚醒
気になったことを検索して結果をうちだけ見られる。
何回でもできる。
「ほら絶対こっちの方がわかりやすいじゃんねー!」
彼女、臨機応変な対応ができるタイプのギャルなのである。
「まってメイク秒で終わる神???」
「えっ、これ崩れないってこと???
このスキル私の味方すぎる愛してる」
毎朝外出予定の数時間前に起床して髪、顔、服、その他諸々に時間をかける日々とはおさらばである。
しかし、このスキルの真髄は彼女の見つけた活用方法とは別の所にあった。
▽スキル : デコレーション は彼女固有のスキルであり唯一無二と言える。
さらに注目すべきは「思うままに」という部分である。
そう、彼女はあらゆるものを「デコレーション」という名目で「思うままに」生み出せてしまうのである。
「原型は変えられない」という発動条件があるにしても、原型となるものが存在しさえすればいいのだ。
使い方によっては無敵と言っても過言ではない、チートスキルであるということに当の彼女は____
「え、これまじ使えんじゃん
チートじゃね?」
_______気づいていた。
再三にわたり言うが、彼女は勉強ができるタイプのギャルなのである。
▽ デコレーション Lv. 3/99 未覚醒
ピコンという音と共に画面の表示が切り替わり、デコレーションのレベルが上がったことを知らせた。
使えば使うほどレベルが上がっていく仕様らしい。
今回は
〇画面の文字変更
〇フルメイク
(最近はオレンジメイクが個人的ブーム)
によって2つレベルが上がったのだった。
日々のメイクでレベルが上がることの素晴らしさに彼女のテンションが本日最高を記録したのは言うまでもない。
続いて彼女が目をつけたのは
▽ 詳細
の項目だった。
先程より豪華になった(早速デコった)ネイルで詳と細の間あたりをタップする。
▽ 名前
未定
▽ 属性
光
▽ スキル
デコレーション
鑑定→ぐー〇る
▽ 称号
転生者+召喚者→招かれし救世主
文明の利器を得たギャルの行動は早く、そして躊躇がない。
飲み込みが早く何にでも順応して受け止めるのがギャルの明るさたる所以である。
早速画面全体を鑑定し、それをそのままデコレーションしていく。
彼女、これでも転生後1時間も経っていない。
装飾後の画面は以下の通りである。
▽ 名前
転生完了後、名前を決めていないため未定
ステータス画面から設定可能
▽ 属性
光 : 火・水属性に耐性あり
▽ スキル
デコレーション・ぐー〇る
▽ 称号
招かれし救世主
転生者を対象とする特殊な魔法陣によって召喚された者が得る称号。
通常何かしらの障害から民を救う目的で描かれるものであり、多くの魔力を消費する代償に問題解決に適した者が選ばれる。
新たに多くの情報が追加されたそれは、彼女がこの世界に転生した意味を理解するのには充分なものだった。
「つまりあれっしょ?
まじピンチだからなんとかできそーな私が選ばれて来たってことー?」
「なんかマッチングアプリで趣味が合うからマッチングしました的な?
なんかそんな感じ的な?」
彼女を呼び出したという魔法陣は青白く光っているように見えた。
砂埃によってすっかり風化してしまっていたそれは、もう長いこと救世主を求めて仕事を全うしていたらしい。
足元に光る無数の線で描かれた紋様を、数秒じっと眺める。
次の瞬間、顔を空に向けた彼女の瞳は陽の光とは別のキラキラとした輝きを放った。
「困ってる人いるなら助けるでしょ!
とーぜん!」
「近所のボランティア活動とか、ろくに参加してなかったから逆に楽しみかもー」
再三にわたって言うが、彼女はポジティブの塊なのである。