とりま、転生する。
中野麗奈は走っていた。
風になっているとはこういうことを言うのだと近くにいた野鳥が二度見した(気がする)程度には全力で走っていた。
朝5時に起きてセットした髪をなびかせて爆走しながら
「風えっぐ前髪死んだ萎えたタクりてー」
などと(なかなかの声量で)ぼやく。
制服が可能にする最大限の露出によって陽に照らされた白い肌。
光をキラキラと反射させる金色の髪。
大きく目が強調された得意のギャルメイク。
彼女が住む緑溢れる田舎には馴染む要素は無く、それ故の輝きと魅力を纏っていた。
長くて細い足が描くストロークは陸上部さながらのものだ。
彼女は今、留年と進級の狭間に立たされていた。
あと1回でも欠席した場合、歳が1つ下の後輩と2回目の修学旅行に行く羽目になる。
彼女としてはできるだけ早くこの田舎を出て自分の好みが理解される地へと飛び立ちたいと切に願っていたため、ここで留年を食らうのは避けたいところだった。
素行不良や校則違反は得意のフレンドリー攻撃を校長にネチネチ食らわせて不問にしてもらっていた。
実際勉強ができないわけでもなかったために残す進級への課題は出席日数だけとなった。
今学期もあと1週間。
この1週間を耐え抜けば留年の影とはしばしのお別れとなる。
「巻き取れた最悪!!!1回止まって巻き直したいんですけど!!!」
悲痛な叫びは田の脇を流れる用水路の水音に溶けていった。
それでも無我夢中で走り続ける。
ついにもう少しで学校直通のバスの乗り場に着くというところまで辿り着いた。
そこで彼女の意識は途絶えた。
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ホログラムの様な仕様の画面に表示された文字の意味を中野麗奈は未だ理解できずにいた。
そこに表示されていたのは、自分の顔写真(学生証についているものなのでビジュアルが悪く本人は嫌い)と『死因 : 転倒による頭部外傷及び脳機能の低下』という文面だった。
______え、まじ?うち死んだん?
______えー萎えたーってか転んで死ぬってばかじゃね?うける
お気づきかもしれないが、彼女はポジティブの塊なのである。
ちなみに、彼女の負の感情を動かすヒエラルキーは
登校 < 命 < ノーメイク外出
となっている。
しばらくすると画面の表示が切り替わった。
それは人工的な女性とも男性ともとれない音声によって淡々と読み上げられると共に、画面には新たに『Please select』という文字が表示され、点滅し始めた。
レ イ ナ さんは
▽ 転生ルート
の対象者です。
転生先は
▽ ○×%△村の長
です。
▽ 転生ルート
を選択しますか?
______え、なに?ってか暗くね?
あたり一面暗闇に包まれていて、光は例の画面のみ。
足元を見ても、地面どころか自分の体すら目視できないほどの暗さ。
体は自立しているものの、地面に立っているという感覚がない。
まるで光の無い宇宙空間に漂っているようなのである。
▽ 外部からの干渉を確認しました。
▽ 召喚者
の対象になりました。
突如先程よりも遥かに大きな声が響き、大きく肩が跳ねる。
______びびった何まじでここどこ?うちのスマホどこ?
こちらも先程より遥かに大きな声の独り言を零すものの、それに応える者はいない。
▽ 座標を確認しました。
これより強制的に
▽ 転生ルート
へと移行します。
______いや、むずい話わかんないってもっとわかりやすk
突如として空間全体に閃光が走り視界が歪み、足先から徐々に感覚が無くなっていった。