もう二度とないと思っていたトキメキ4
「えっと、黒澤、さん。だよね?」
グイッと女子の顔が近くに来ると、その、なんだ。体に悪いので仰け反りながら、距離をとる。
「そうです。高井戸翔君だよね?ねぇ、たーすーけーてー!!」
距離を取ったぶん詰めてくる。サッカーならいいディフェンダーになれる。
しかも、耳元で大声を出されるから、キーンとなって耳を抑える。
大丈夫、まだ舞える。
「君はそんなこと言う人じゃないと思ってたし、なによりなんで俺」
これみよがしに耳を抑えながら、邪険にしつつ尋ねる。
「何があっても私に損失がなさそうだから」
ケロリと言ってのける。その眼に悪意がない。
おい、コノヤロウ。いつもの面は作り物だったか。
なんだか、ショックすら受けない。
どこかで人はこんなものだと理解出来ていたからかもしれない。
うん、やっぱり人付き合いは無理だ。
「君の事なんてどうでも良くって」
良くない。箱を掴むような仕草をして、その箱を乱暴に後ろに放り投げる。
それ、俺の尊厳だったりしない?大丈夫?
確信に変わった。
「私ね……」
「あ、え?自分語りはいる感じ?」
俺がなんの了承も、返事も何もしてないのに、相談相手みたいな体になって、しおらしく話し始めてしまった。
さすがに聞き直したけど、おおよそ教室で見ることの無いSSRな睨みつけを喰らう。
口をつぐんでしまった。なんというか迫力が怖い。
殴り合いとかなら勝てるんだろうけど、なんか、そういう類じゃない凄みを感じる。
「わ、た、し、ね!?」
首をすぼめ掌を向けて続けてくださいとジェスチャーで伝える。一言でも話そうものなら殴りかかってきそうだ。