もう二度とないと思っていたトキメキ1
「ごめんなさい!私、君の事は嫌いじゃないけど、そういうのじゃないの」
その日は偶然にも放課後に2人だけだった。
テスト期間で皆早々に教室から出て行き、次の日のテストに向けて付け焼き刃を研ぎ澄ましている。
俺もそうしないと点数がヤバい事になるのは日を見るよりも明らかで、さっさと帰ろうとしていたのに、ナツメさんが困った様子だったのだ。
だから柄にもなく「手伝おうか」なんてカッコつけて。「いいのありがとう!」って笑顔で言われたもんだから探し物を手伝っていたらみるみる時間は過ぎて、見つかった時には夜も近かった。
教室から始まり、全ての廊下を下を見ながら歩いて下駄箱へ行き、もう一度見落としがないか同じルートを探す。
結局はナツメさんの鞄の中にあった。
そんなナツメさんは誰とでも明るく打ち解けて、何時でもみんなの中心だった。俺とも普通に喋って、たわいも無いことで笑って。
でもそれは彼女の中の当たり前で、俺は別に特別なんかじゃなかった。
その日どうやって帰ったかは覚えていないし、次の日も昨日の事は無かったんじゃないかってくらい普通だった。
避けることも気まずくなることも無く普通だった。
距離感が一切前後して無い事にとても怖かった覚えがある。
それは遠い昔の出来事で、もうどういう経緯で告白に至ったかなんて覚えて……無いわけないだろうが!
今でも夢に見るし、何なら今その夢見て跳ね上がったわ!
夢だと分かっていてもバクバクと未だに心臓が痛い。
寝落ちしてた。
サブスクの映画を見ていたはずなのに、何一つ覚えちゃいない。
特段やることも無いし、したいことも無い。
だから映画を見ていたのに、それすらも満足に見終えることが出来もしない。
最近のテレビは優秀だ。
操作が無いと勝手に切れるんだから。
だから、その優秀さが今は少し憎かった。
何が悲しくて真っ暗なテレビに映る目つきの悪い男を朝一番に見たいかよ。