蛇の足跡
俺は選ばれた高校二年生だ。
なぜ選ばれているのかと言うと、
「あなたは選ばれました異世界へ行っていただきます」
女神が言う。
「これで三六度目だな。だいたい平熱くらいだ」
「そ、そんなに選ばれてたんですか?!」
女神が驚いているが、同じ基準で取捨選択をしていれば、自ずと自分にお鉢が回ってきてしまうだけだ。
「御託はいいから、さっさと異世界へ飛ばしてくれ。すぐに済ませて帰りたいからな」
「わかりました。説明は省いて召喚された世界へと行っていただきます」
女神は杖を振って光の粉を撒いて異世界への入口を作る。
俺は当たり前のように入った。
目を開けるとそこは、どこかの国の城の広間だった。
「おお、勇者よ。よくぞ来てくれた。召喚は成功したぞ」
王様らしき風体の男が近づいてくる。
「おまえが王か。俺の用件は何だ?」
「なんと、せっかちな勇者だの。せめて歓迎の宴を催したいのだが」
「その必要はない。用件を済ませたらさっさと帰るつもりだ」
「つまらんのう。まあ、勇者がそういうのだから仕方ないの。実はこの国は魔王に脅かされておっての」
「また魔王か。どこの世界も魔王に攻め立てられて大変だな」
「いや、攻められてはおらぬ」
「ん?じゃあどうして俺を呼んだ?」
「魔王に住み着かれて困っておる」
「住み着いてるだけか?」
「そうじゃ。近隣の村で迷惑をかけておる」
「どんな迷惑なんだ?」
「いいことをするの。村人が困っていると助けたり、荒れた城壁のレンガ積みを手伝ったりしておる」
「それのどこが迷惑なんだ。別に問題ないではないか」
「魔王に助けられたと知られたら、みなから侮蔑されてしまうじゃろ。ホントいい迷惑なのだ」
「この世界の摂理に反するわけか。それは問題なのかもしれないな」
「そうじゃ。魔王は魔王らしくしてもらわないと困る。人助けなぞ、もっての外なのだ」
「だいたい事情は察した。その魔王に注意しに行けば良いのだな」
「いや、退治してほしい」
「そこまでする必要を感じないが」
「魔王を退治しなければ、この国は滅びる運命にある。魔王なんかと共にいたら天の逆鱗に触れてしまう。そこのところをわかってほしい」
「それもこの世界の摂理か。わかった。退治しにいってやる」
「本当に助かる。魔王退治に際して、我が国の宝を用意させてもらった。是非、勇者に使ってほしい」
「なんだ、それは?」
「これはの、聖剣『ただの棒きれ』だ」
「何かの聞き間違いか?ただの棒きれと言った気がしたが」
「何も間違いはないぞ。伝説の勇者はこれで魔王を退治して、我が国に代々伝わっておる、紛れもない聖剣だ」
「ただの棒きれでどう倒したんだ?前の勇者は」
「たしか素手のタイマンで魔王に勝って、魔王のおしりをこの聖剣でペンペンしたのだ」
「それは、素手のほうが聖剣ではないのか?」
「素手は素手でしかない。聖剣はただの棒きれで合っておる」
「それではこの棒きれでどう戦えと言うんだ?」
「それは素手で闘って勝ってから、魔王のおしりをペンペンするしかないの」
「そんなものはいらん。他に武器はないのか?」
「武器かの。そういえば魔槍があったが、それを使うならやはり勇者らしく聖剣を使ってほしいのだが」
「魔槍にする。それはどういう武器なんだ?」
「敵が現れたら、本人が何もせずとも勝手に攻撃してくれるな」
「かなり便利な武器そうだな。それでいい。持ってきてくれ」
「仕方ないの。用意しておく。それともし勇者に何かあったら困るから、これを持っていってほしい」
「なんだ、それは?」
「これはの魔石の純度を上げて、搾って抽出した液を固めて作った、何でも治す飴玉だ」
「ほう、それは助かるな」
「三つしかないから、注意して使ってくれ。どういう風に使うかというと、例えば」
そう言うと、王は飴玉を一つ頬張った。
「ペロペロ。わしは不治の病に侵されておったが、これでもう治ってしまった。すごいだろ」
「すごいかどうか、いまいちわからない上に、一つ減ったんだが」
「まあ、細かいこと言うでない。残りの二つでも足りるはず」
などと会話しているうちに、魔槍が届いた。
「魔槍もきたことだし、これから魔王を退治にしに行く。どこへ行けば良い?」
「これに地図がある。目印のところに魔王が住んでいるから、そこへ行ってほしい」
俺は地図を手渡されると、こんなところにいてもしょうがないから、すぐに部屋を出た。
通路の角のところまで来ると、
「ばあ」
といきなり少女が現れた。
ブスリと魔槍が反応して少女をぶっ刺した。少女はその場で倒れた。
「うう、勇者さまの愛が痛い」
「俺は何もしてないぞ。魔槍が反応しただけだ。いきなりでてくるほうが悪い。敵判定されたな」
「わたくしはこの国の姫です。勇者さまに一目お会いしたいと思い、駆けつけましたが、勇者さまの愛がこんなに重いなんて。わたくし幸せです」
倒れている姫は涙を流して、幸せを噛み締めているようだった。
「バカなこと言ってないで早く部下を呼んで手当してもらえ。そろそろ死ぬぞ」
「いいのです。死してなお愛してくださる勇者さまのためならば、この命いつ尽き果てても悔いはありません」
おバカ姫にはなにを言っても通じないようなので、仕方なく飴玉を姫の口に入れる。
「ペロペロ。なんだか傷が癒えていくようですわ」
「何でも治すというのは本当だったか。しかし、飴玉があと一つになってしまったな」
おバカ姫のことは放っておいて、魔王退治に向かうことにする。
目的地に到着したが、人っ子一人いない。みな魔王の迷惑を恐れて逃げ出したのかもしれなかった。
とりあえず、辺りを捜索してみる。すると家の角で
「ばあ」
とおバカ姫と同じ登場をした大男が魔槍にブスリとぶっ刺されて倒れた。
「おい、大丈夫か。いきなり出てくると魔槍に敵判定されるぞ」
「うう、魔王一生の不覚である」
「おまえ、魔王だったのか。それにしては不用意な登場だったな」
「生まれてこのかた、このような死に方をするとは思ってもみなかった」
「知能がおバカ姫と変わらない以上、他の死に方なんてしないだろ」
「おバカ姫と一緒にされるとは情けない。うう」
魔王は悔し泣きを始めた。
「仕方のないやつだ。別に悪いことをしたわけでもないから、これを食え」
飴玉を倒れている魔王の口に入れる。
「ペロペロ。なんだこれは?傷がどんどん癒えていくぞ」
「これは何でも癒やす飴玉だ。安心しろ、もう大丈夫だぞ」
「助けてもらった上、飴玉までくれるとは。勇者にしてはよくできた奴だ。気に入った」
「なんか順序がおかしい気もするが、俺は普通によくできた人間だからな」
「そんなおまえにこれをやろう」
「なんだこれは?」
「これは魔王の缶バッジだ」
「いらん」
「人から頂いたものに失礼なことを言うな。これでも世界に一つしかない貴重な品物だ」
「こんなものもらっても、使い道なんてないぞ。いらんものくれたな」
「そんなことないぞ。これを欲しがるやつなんて腐るほどいるのだ」
「そういうものか。だったらもらっておこう。じゃあ元気でな」
俺は魔王に別れを告げて城へと戻った。
「おお、勇者よ、首尾はどうであった?」
俺は一部始終を王に報告した。
「魔王は倒した。だが、可哀想だったから助けてやったら、これをもらったぞ」
「なんと、それは魔王を倒さないともらえないという、魔王の缶バッジではないか!」
「王が驚いているところを見ると、貴重なのは本当だったようだな」
「勇者よ、そ、それをわしにくれないか?」
「それは構わないが、魔王のことはどうする?」
「魔王なんてどうでもいいわい。それより缶バッジじゃ」
「世界の摂理よりも缶バッジのが大事だったか。この世の理とは儚いな」
「うひょおお、喉から手が出るほど欲しかったのじゃ」
「それでは目的も済んだことだし、そろそろ元の世界へ戻ることにする」
「そうか。名残惜しいの」
「俺はそうでもない。こんなところ早く出て元いた生活に戻りたい」
「勇者の活躍をみなに知らせてからでも遅くはないのじゃないか」
「違うな。俺は蛇の足跡のようなものだ。元々この世界には存在しないが、痕跡だけは残していく存在だ」
「そういう考え方もあるのか。おお、そうじゃった。宇宙の理が一つ残っていた」
「なんだそれは?」
「勇者よ、愛しておる」
「俺もだ」
こうして俺の異世界の冒険はまた一つ終わることとなった。
次はもっとましな冒険になってほしいものだ。
ご一読いただきありがとうございました。こちらは宣伝用小説三作品を読んでいただいたお礼の一品となります。気を楽にして、頭を空っぽにして読めます。リンの言葉の方にもちらほら来ていただきありがとうございました。感想などもいただき感謝し放題です。では、また機会がありましたら、どこかで。