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お座敷童子編01-08『はじめてのおでかけ』

side 吉祥天 (in 少女)


少女の中の吉祥天は暖かい陽光を浴びながら歩いていた。


(座敷童子が外を歩いておるのを見咎(みとが)められれば面倒なことになりそうじゃな。)


「オン・マカ・シュリエイ・ソワカ」


『真言』を唱え、自身に『認識阻害』の術式を付与する。


「うむ、これでよかろ。」


(しかし、歩幅がこまい(・・・)せいか、遅々として進まぬな。

まぁ、これも善哉(よきかな)。)


吉祥天はよちよち歩く。


(この足で伊織の元へ走ったのじゃな。

大変じゃったろう・・・)


歩くだけでもこの調子だ。

走ることがいかに大事であるのかは想像に(かた)くない。

まして座敷童子は外では文字通り生命を削られる。

その苦痛は吉祥天には想像し得ないものだった。


(ふん、妾が報われるようにしてくれるわ。)


実のところ先の大規模術式が完成した時点で吉祥天の目的は果たされていた。

つまりこの(からだ)で為さねば成らぬ事は何もない。

「すわ、事件か!」と慌てふためいた『天部』の者が知れば烈火の(ごと)く怒り狂うだろう。

尤も、吉祥天には柳に風(・・・)だが。


吉祥天の目的は少女の『一回休み』の期間を短くすることだけだった。

ただそれだけの為に全身全霊を(もっ)て事に当たった。

そこに後悔はない。


(ふん、別に寂しゅうてやった訳ではないわ。

主として尻を拭うてやっただけじゃ。)


誰にともなく言い訳をしながら、吉祥天はよちよち歩く。

ふと目線を上げると、(ようよ)う目的地が見えてきた。

少女の屋敷とは比べるべくもない、まるで城塞だった。

吉祥天は躊躇(ためら)うことなく中に入る。

門番の小天狗は呑気に欠伸(あくび)をしている。


(ここも変わらんの。)


迷路のような廊下を迷うことなくよちよち歩く。

途中、少女と瓜二つの童とすれ違う。


(あれは座敷童子じゃの。)


座敷童子が基本的に家から出ることが出来ないことは広く知られている。

だが原則的に『一家に一台』ならぬ『一家に一人』であることはあまり知られていない。

そもそも、座敷童子は非常にレア(・・)な存在であり、そうそう顔を会わせる機会がないというのも大きな理由だろう。

ともあれ、一方的な形ではあるものの、レアとレアは邂逅(かいこう)した。


(この屋敷の座敷童子は確か・・・アインであったか。)


アインは自身と同じぐらいの大きさのウサギ人間?のぬいぐるみを、片手でずるずると引きずりながら歩いている。

目がとろんとして、こくりこくり(・・・・・・)と船を漕いでいる。

今にも眠りそうな雰囲気だ。


(自由じゃのう。)


方向性、個体差こそあれ、基本的に座敷童子は奔放だ。

もっと率直に言えば自身の欲望に忠実なのだ。

その集中力は非常に狭く、そして非常に深い。


アインは怠惰だ。

周囲の目など一切気に留めない、筋金入りの怠惰である。


吉祥天が宿る少女は怠惰とは対極にある。

だが伊織へと向ける感情は非常に狭く、そして非常に深い。

似ていないようで似ている、それが吉祥天による座敷童子達への評価だった。


吉祥天は館の主を目印によちよち歩いていたが、不意に目印(・・)が動いた。

同時に周囲の気配も慌ただしく動き回る。


(ほぅ、この距離で気づくかえ。

排除しようとする様子もなし。

あれは・・・ほっほ、妾を『毘沙門堂』に迎え入れると申すか。

今代の夜行は(わきま)えておるの、善哉(よきかな)。)


ならば、と。

吉祥天はたださえ遅い歩みをさらに緩め、美しく咲くソメイヨシノを鑑賞する。

先触れなく訪れた者なりの、僅かばかりの気遣いであった。

______

ちゃむだよ? >_(:3」∠)_

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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