お座敷童子編01-06『寵愛』
side 吉祥天
神経をヤスリで削るような拷問じみた儀式になる筈が、あっさりと終わってしまった。
だが吉祥天にはその理由がわからない。
儀式が成功したということは確信している。
吉祥天の加護は間違いなく伊織に届いた。
「何が起こったんじゃ?」
吉祥天は混乱した。
「うはははははは。」
宇迦之御魂神は腹を抱えて笑った。
少女は・・・もう『一回休み』した。
「成功じゃよな?」
「うひひひひひひ。」
「おい、宇迦ちゃん、正気に戻るのじゃ。」
「いや、狂った訳じゃ、ふふ、ないからね。あー、面白かったー。」
「結局何が起きたんじゃ?」
「人間ごときの魂がさ、邪神?の魂をぶちのめした。」
「はぁ?なんじゃそれは。」
「『俺の宝物に触んじゃねぇ、ぶっとばすぞ。』とかいってさ。
ぶはははははは。あー、思い出すだけで笑いが止まらないよー。」
「それは伊織が?」
「そうそう。まぁ、本人は記憶してないけどね。」
「左様か。ふふ、愛されておるではないか。善哉。」
「うん、彼女が報われるなら僕も嬉しいよ。」
「じゃが、伊織の魂にはまだ憑いておるぞ?」
「伊織の精神が顕在化したのは儀式の影響だからさ。
だいぶ弱らせてくれたのは僥倖だけど、時間稼ぎ以上のものではないね。
しかし、意味がわからないほど強靭だね、伊織は。」
「夜行じゃからでは済まんか?」
「んー、わかんない。
ていうか、今さらなんだけどさ。」
「どうしたのじゃ?」
「ついてる加護ちがくない?
君の加護だから僕にはよく見えないんだけど。
えらく強いような・・・」
「どれ・・・ぶふぉっ!」
「ぶふぉ、だって!あはは!」
「わ、笑うでない!
『恩寵』がつくはずだったんじゃが、『寵愛』になっておるわ。」
「ふーん、興味深いね、どうなってるの?」
「さて・・・あの二人の相性が良かったということでよかろうて。
それ以上は無粋であろ。」
「ああーー、なんて僕好みの結末なんだろう。
いやいや、これはまだ第一部に過ぎないんだよ!
僕は二人を讃えるよ!
さぁ、お吉ちゃん。一緒に人間賛歌を唄おう!」
「はいはい、お座りお座り。」
「という訳で僕は帰るよ。」
「いきなりじゃの。」
「早速だけど第二部の準備をはじめたくてさ。うずうずしてる。」
「ふふ、承知した。ではまたの。」
「またねー。」
宇迦ちゃんを見送ると、急に部屋の温度が下がったような錯覚を覚えた。
静まり返った室内がきっとそう思わせたのだろう。
寂しさが込み上げてきたのも、きっと錯覚だ。
吉祥天は静かにその場を去った。
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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