お座敷童子編01-04『何度でも』
side 少女
ある日のこと。
吉祥天が伊織を『祝福』した。
伊織の体調は悪化が緩やかになった。
吉祥天は満足げに頷いた。
ある日のこと。
伊織は十五才になった。
少女は十二のまま。
毎年ひとつ、差が開く。
少女は悲しくなった。
私も十五にならないかな。
ずっと伊織と一緒がいいな。
少女は吉祥天に祈った。
ある日のこと。
少女は庭を眺めていた。
庭で不如帰が唄ってる。
ちょっと音痴だ。
でもたくさん練習したら、きっと上手になる。
たくさんお祈りをしたら、きっと元気になる。
今日も少女は吉祥天に祈った。
ある日のこと。
「童、おるかえ?」
「吉祥天様。ご機嫌よいでございますか?」
「ほっほっほ。励んでおるようじゃな。
じゃが、『ご機嫌麗しゅうございますか?』とするほうが美くはないかえ?」
「難しいです。」
ある日のこと。
『お座敷童子ず』の面々は少女が名前を貰った経緯を聞いた。
全会一致でドイツ語のかっこいい名前が採用された。
今までの名前はぽいっとするらしい。
少女はほんとにいいのかなと思った。
『アイン』は伊織は偉い人だという。
偉い人とお話するときはちゃんとしないとダメとも。
少女はちゃんとお話できるようになろうと決意した。
ちゃんとおしゃべりできたら伊織はびっくりするかな?
少女はやる気に満ちた。
ある日のこと。
「時間はあるのじゃ。ゆるりと学ぶがよかろ。」
「伊織をびっくりさせたいのです。」
「善き善き。どれ、今日も伊織の様子を見せてやろうか。」
「ありがとうございます、吉祥天様。」
吉祥天様たまにふらっと少女の屋敷に訪れては伊織の様子を見せた。
同じことができるようになりたいな。
少女は吉祥天に祈った。
「どうじゃ?ちっとはよいかの?」
「はい、この間よりは元気みたいです。」
いつもぶっきらぼうな吉祥天だが、とても優しい人だと少女は思った。
いつか吉祥天様のようになりたいな。
そう思うほどに。
ある日のこと。
「宇迦ちゃんとの仕事が忙しくての。
あまり顔を出せぬのじゃ。
許してたもれ。」
うかちゃんって誰だろう。
かわいい名前だね、うかちゃん。
少女はかっこいい名前だけど、かわいい名前もいいなと思った。
ある日のこと。
アインから少女に念話が届いた。
アインはのんびり屋さんだ。
そんなアインがひどく焦っていた。
伊織様、御危篤、峠、明日まで。
少女はそんなことを言われた気がした。
頭も耳も目もぐちゃぐちゃでよくわからなくなった。
今度は覚悟はいらなかった。
気づく前に少女は屋敷を飛び出していた。
伊織、伊織、伊織、伊織、伊織。
頭の中は伊織しかいなかった。
たくさん転んだし、鼻から血も出てきたし、頭も割れそうに痛いし、
きっとまた『一回休み』するだろうけど、会いたいよ。
会いたいんだ。
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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