お座敷童子編01-03 『宇迦ちゃんとノルン』
ーーー『宇迦ちゃん、こう見えて偉いんだよ?』
side 宇迦之御魂神
当初、吉祥天からの呼び出しは宇迦が想像した中でも最悪の部類だった。
だが幸いなことに解決の道筋はうっすらとではあるが見えている。
「はろー、宇迦ちゃんだよ?」
「これは宇迦之御魂神様。
ご無沙汰しております、ノルンです。」
「ノルンちゃんはもう少し宇迦ちゃんと仲良くしてくれてもいいと思うんだー。」
「こちらこそ仲良くさせて頂きたいと常々。」
「他人行儀ー。ほら、宇迦ちゃんって呼ぼうよー。」
「では、せめて宇迦様でお許しください。」
「しょうがないなー、今日のところはそれでいいよ?」
『運命の女神』は『西』主神の一柱だ。
対して『宇迦之御魂神』、別名『稲荷神』は伏見稲荷大社の主祭神である。
信仰という面においては宇迦のほうが格上といえる。
だがそれはあくまで一面的なものであり、総合的には若干ながらノルンのほうが上ともいえる。
なかなかに面倒な業界だった。
「差し支えなければご用件をお聞かせ願います。」
「あいあい。そっちのルシファーが顕現するかも。」
交渉を有利にするべく、宇迦は初手から爆弾を放り込んだ。
「・・・御冗談を。」
「いやー、割と高い確率であり得ると思うよ?」
「詳しくお聞かせ下さい。」
『ルシファー』はノルンを含めた『西』の神々にとって怨敵ともいえる相手だ。
話を聞かないという選択肢はありえない。
宇迦は伊織の状態について包み隠さず説明した。
「概ね理解できました。」
「さっすがノルンちゃん。」
「しかしなぜそこでルシファーが関わってくるのでしょう。」
「宇迦ちゃんは天津甕星ニアリーイコール『ルシファー』説を推しまーす。」
「それはまた随分とぶっ飛んだ、失礼。
随分と突飛な発想ではありませんか?」
「あはは、宇迦ちゃんは魂のぷろふぇっそなるなんだよ?
舐めてもらっちゃ困っちゃうなー。
聖属性と呪属性の融合って、そっちの十八番でしょ?」
「十八番かどうかはわかりませんが、堕天した者の傾向ではありますね。」
「宇迦ちゃんは堕天使の魂を何個か解析したことあるんだー。
一番上のでせいぜい伯爵級なんだけどね。」
「はい。」
「伊織君の魂に引っ付いてるのは伯爵なんてレベルじゃないね。
これは断言できるよ。
それを踏まえると日本だと天津甕星ぐらいしか該当しないんだよ。
そして宇迦ちゃんの見立てでは天津甕星にしては強すぎる。
ま、こっちは断言はできないんだけど、天津甕星に偽装したルシファーじゃないかなーって。」
「なるほど・・・放置するには危険すぎますね。」
「それに天津甕星は金星を司るんだー。ほらー、金星だよ金星。」
「ルシファーの別名『明けの明星』ですか。」
「そそ。復活前に始末をつけちゃえば正解は闇の中かもしれないけどさー。」
「やりましょう。僅かでも可能性があるなら徹底的に潰すべきです。『西』を代表して全面的な協力をお約束します。」
「おっけー。助かるよー。」
「ですが封印が目的ならこの段階でわざわざご連絡頂くことでもありませんよね?
『東』の方々の、それこそ『十八番で』すから。」
「察しがいいノルンちゃんは大好きだよー。
尤も、封印してもいずれ解けちゃうでしょ?だからさ、いっそ融合しちゃおうかと思って。」
「対象者は人間では?」
「元人間ならできるんじゃない?」
「・・・」
魂を融合させたとしても対象者が死んでしまえば元の木阿弥だ。
ならば対象者にドーピングして死ななくすればいいのでは?
宇迦ちゃんの提案にノルンは絶句した。
「・・・可能なのですか?」
「ノルンちゃんが手伝ってくれれば余裕余裕。
しかも対象は夜行だし。」
「え、対象者はあの夜行ですか!」
「まあまあ、ノルンちゃんの夜行嫌いはわかるよ。
だけどさ、ここはなんとか呑んで欲しいなー。」
「いえ、苦手なだけで嫌いという訳では・・・」
「あはは、そうゆーことにしておくよ。」
「夜行・・・いや、まさか。」
「どしたの?」
「こちら話で恐縮ですが、惑星『モイラ』に派遣する『マナジェネレータ』の適合者が夜行の者だったもので。」
「すごい偶然だねー。名前は?」
「少々お待ちを・・・えー、夜行伊織です。」
「わお、ビンゴだよノルンちゃん。」
「なんてこと・・・こちらとしても死なせる訳にはいきませんね・・・。」
「はは。さっきは偶然って言ったけどさー、これどうよノルンちゃん。」
「必然を疑いたくもなりますね。」
「誰かが仕組んだ?」
「ルシファー本人であれば、あるいは。」
「どうする?やっぱ封印する?」
「いえ、マナジェネレータの候補が他にいないので遺憾ながら・・・。」
「そかそか。じゃ、方針決定だね!」
「ええ、こちらのほうでも夜行伊織を最重要保護対象に指定します。
寿命を迎える直前に確保するということでよろしいですか?」
「よろしいですよー。ギリギリまで見極めよう。
彼の魂を再構築するときには宇迦ちゃんも手を貸すよ。」
「魂のぷろふぇっそなるである宇迦様が直々にご指導くださるのであれば頼もしいですね。
こちらも全力を尽くします。」
「あいあい、それじゃまたそのときに。しーゆー。」
「See You later , Uka.」
ノルンとの交渉が巧く纏まり、宇迦はご満悦だった。
最後にノルンが敬称を省略してくれたことにもご満悦た。
大好物のおいなりさんを頬張りながら、吉祥天への念話を飛ばす。
「はろー、宇迦ちゃんだよー。」
「吉祥じゃ、早かったの。」
「うん、話はさくっとまとまったよ。予定どおり。」
「さすがは宇迦ちゃんじゃの。して、妾にできることはあるかの。」
「んー、伊織君に『目』を張り付けて欲しい。
それから、可能であれば長生きさせて欲しいな。」
「その心は?」
「邪神の正体をギリギリまで見極めたいからね。
とにかく後手に回ることだけは避けないと。」
「なるほど、しかし長生きとは・・・妾には向いておらぬと思うのじゃが。」
「彼に加護を与えてくれない?僕の加護はほら、今回は向いてないからさ。」
「得心したわ。幸運を高めて死の選択肢を遠ざけるという訳じゃな?」
「そそ。」
「よかろう、早速授けるとしようかの。」
「あいあい、いてらー。」
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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