お座敷童子編01-12『旦那様御降臨』
side 彩葉
『皇』との会談結果を伝えるため、彩葉は吉祥天を訪問していた。
そして彩葉は思わぬ事態に頭を抱えることになる。
「嫌じゃ、嫌じゃ、『天部』は嫌じゃ。」
「この度の『皇』の判断は、神々と人族の契約に基づく妥当なものでございます。
吉祥天様に受け入れて戴けないのであれば、当家としては心より遺憾ではございますが吉祥天様を受け入れることは叶いません。」
「どうしても?」
「誠に遺憾ながら。」
ぐぬぬと悶える吉祥天ではあるがその姿は幼い子供だ。
わかってはいるのだが、彩葉は心苦しい気持ちを押さえられないでいた。
そして、つい。
「僭越ながら、ご夫君であらせられる毘沙門天様にお言葉添えを賜ってはいかがでしょう。
毘沙門天様は『十二天』と記憶しておりましたが・・・」
『十二天』は『天部』を代表する神々だ。
名前の末尾に『天』を冠する天界の住人は『天』に所属する。
そして『天部』とは『天』から輩出された、下界で言うところの警察組織だ。
蛇足ながら一部の例外として『金剛力士』なども『天』に所属する。
また、『神格』の序列としては『如来』>『菩薩』>『明王』>『天』となっている。
「旦那様か・・・」
「ご不安でしょうか。」
「いや、不安も不満などないぞ。ただ、迷惑は掛けたくないというか・・・」
なんとも人間くさい理由に彩葉は驚きながらも吉祥天に対する意識を少しだけ修正する。
「人の子の戯れ言で恐縮ですが、愛する妻に頼られることを嬉しく思うことはあれど、迷惑とは思わないのではありませんか?」
「うむ、そうじゃな、うむ。よう言うてくれた。」
「恐縮にございます。」
「では早速呼ぶとしよう。」
「えっ、ちょっと、まっ」
吉祥天はひょいと立ち上がり、唐突に神威を解放し、毘沙門天とのパスを繋いだ。
すると間をおかず、一瞬にして毘沙門天が顕現した。
人や妖による召喚とは何もかもの次元が違う、まさに神の御技だった。
百歩譲ってまだそれはいい。
だがよりによって吉祥天はそれを依り代の身で行ったのだ。
それは不遜にも「もしかしたら人にも可能性じゃ?」と思わせるもので、彩葉は大きく目を見開いた。
そしてなんとか、鋼の精神を以て数秒掛けて再起動した。
だがとても運が悪いことに毘沙門天と目が合ってしまう。
「ぅぁ・・・」
全身の毛穴からゾワリと何かが抜け出す感覚に全身が震えて涙が溢れた。
そして鳥肌のように一瞬で収まるものではなく、ただただ震え続けた。
あわや過呼吸に陥りそうになったところで。
「 オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ」
毘沙門天が真言を紡ぐと室内の空気が一変し、彩葉の震えは落ち着いた。
「迷惑を掛けた。人の子よ。」
野太くも平坦でいて重々しい声が自分に対するものと気づいた彩葉は慌てて立ち上がろうとするも、膝が笑ってしまい、ストンとその場に腰を落とした。
「そのままでよい。我は過度な礼は好まぬ。
吉祥、娘を癒せ。」
「よかろ。
オン・マカ・シュリエイ・ソワカ」
吉祥天から黄金色の光が迸り、彩葉を優しく包む。
温かい光に心地よさを感じるうちに、彩葉の体調は回復した。
「御手数をお掛けして申し訳ございませんでした、吉祥天様。
心より御礼申し上げます。」
「否、謝罪も礼も不要。
吉祥、うぬは何故に我を『強制召喚』したのだ。」
吉祥天への謝罪と礼は毘沙門天が横合いからにべもなく拒絶した。
少々面喰らいはしたものの、彩葉はとりあえず状況の推移を見守ることにした。
「旦那様にお願いができたのじゃ。」
「それはよい。そのお願いは我の『目』でも足りたのではないか?」
「む、そういわれると、そうかもしれんし、そうじゃないかもしれんの。」
吉祥天の目がわかりやすく泳いでいる。
「拳骨を与えたいところではある。
だが、その躰では意味がない。
あとでしっかりと与えるので覚悟しておくように。」
「我は一目だけでも旦那様にお会いしたかったのじゃ。」
「そうか。ならば許す。
次は『目』を喚ぶように。」
「わかったのじゃ。」
「現界に良い影響はない。故に我は天界へ帰還する。
すぐに『目』飛ばす。しばし待て。
オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ」
毘沙門天は返事を聞くこともなく一瞬で消えた。
吉祥天と毘沙門天やりとりを見て、彩葉はなんだかとても微妙な気分になった。
(私もいずれ結婚したらああなるのかな・・・)
宣言通り、毘沙門天の『目』はすぐにやってきた。
「待たせたな。我に願いとは?」
毘沙門天は『短気』というよりも、『無駄』を嫌う性格のように彩葉には思えた。
『無駄』を憎悪しているほどに。
「妾を、いや妾の分体を『夜行』で預かって欲しいのじゃ。」
「その娘は夜行か。道理である。」
「それでじゃな・・・『天部』の許可が欲しいのじゃ。」
「取ればよい。」
「旦那様に取って欲しいのじゃ。」
「我にか?構わぬ・・・いや待て、まずは『起請文』を見せよ。」
「うむ、これじゃ。」
朝一で届けられた起請文に毘沙門天が目を通す。
「吉祥、我を謀ったか?」
「何のことじゃ??」
「吉祥天様ご自身で『天部』から正式に許可を頂くこと。
そう記してある。
即ち、代理は認められぬ。」
「なぁっ!」
これは彩葉も見落としていた。
だがその意図が読めない。
「嫌じゃ、嫌じゃ、天部は嫌じゃ。」
全身全霊でいやいやする幼女を見ながら彩葉は考える。
『皇一麿』は吉祥天と天部の確執を知っていたのだろう。
(嫌がらせ?)
だが『皇一麿』ともあろうものがそんな小さいことするだろうか。
(あ、和解させたい?)
「僭越ながら、発言をお許しいただけますか?」
「よい。好きにせよ。」
「ありがとうございます。
皇は『吉祥天様』と『天部』の確執を憂いており、御両者で直接お話して頂くことで和解されることを望んでいるのではないでしょうか?
先の文言では『毘沙門天様』を交えてお話しされる分には内容に抵触しません。
恐らく『毘沙門天様』に両者を取り持って頂ければ可能ではないか、そう考えたのだと思います。
推測に推測重ねた愚考あることは重々承知しておりますが、心の片隅に留めていただけましたら幸いございます。」
「見事。よくぞ申した。
『吉祥』と『天部』の確執には我も頭を痛めている。
よい機会だ。皇の思惑に乗ろう。よいな、吉祥。」
「むぅ・・・わかったのじゃ。」
「娘、いや夜行彩葉殿。」
「は・・・はい!」
「此度は色々と迷惑をかけた。
残念ながら今後も吉祥は迷惑をかけるだろう・・・」
声色は平坦なのだが、毘沙門天の忸怩たる思いが伝わってくる。
心中をお察しするのは果たして不敬にあたるのだろうか。
「我は天部の一員。よって天部として力になることはできぬ。
だが四天王の多聞天として個人的に眷属衆の力を貸し与えよう。
其の方の『百鬼夜行』に組み込むがいい。」
「た、大変有り難いお話で、是非ともお受けしたい所存ですが・・・
近々、幻妖界で『大戦』が起こる可能性を否定できません。」
さすがに弟のために引き金を引くとは言えない。
「神々と人族の契約に妖は含まれない。
よって問題ない。
それに、だ。」
毘沙門天が言い淀むのは余程のことかと、彩葉は少し身構える。
「我が眷属である『夜叉衆』と『羅刹衆』の者共は飽くなき闘争を求める。
『百鬼夜行』は奴等にとっても都合がよいのだ。」
「・・・左様でございますか。
それでは有り難く御力をお借りいたします。」
「うむ。其の方の『百鬼夜行』の術式に手を加える。
『陣』を出してみよ。」
「はい、すぐに用意いたします。」
(発動中の他人の術式に直接手を加えるなんて聞いたこともないわ!)
彩葉テンションは爆上がりだ。
彩葉は勢いよく立ち上がり、即座に『百鬼夜行』を待機状態で発動する。
これなら血も不要だ。
彩葉の体から妖気が立ち上る。
そして彩葉はテンションそのままに一息で魔方陣が展開した。
「これでよろしゅうございますか?」
「ほー、人の子にしては展開速度が恐ろしく速いのう。
たいしたもんじゃ、天晴れ天晴れ。」
「魔力操作も魔力量も常人の比ではないな。
オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ
・・・うむ。
『夜叉衆』と『羅刹衆』を加えた。こき使って構わぬ。」
「はい、慢心せぬよう心して御力をお借りいたします。」
「しかし其の方、護衛が足りぬな。
最近仕えるようになった元人族も貸そう。
女子であるし、使い勝手はよかろう。」
彩葉の正式な護衛は鬼一しかいない。
例え護衛が余っていたとしても、そもそも断れないのだが。
「重ね重ね、感謝の申しようもございません。
吉祥天様が当家でお過ごしされる折にはせめてもの御恩返しをさせていただきます。
毘沙門天様もどうぞ、お気軽に吉祥天様をお訪ねくださいませ。」
「ふふ、心得た。
では吉祥、天部へ参るぞ。」
「はい、旦那様。」
「では夜行彩葉殿、今後も妻を頼む。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。
どうぞお気をつけて。」
毘沙門天と吉祥天は連れだって去っていった。
「旦那様は随分と彩葉を気に入ったようじゃな。」
「気に入った?そうか、我は気に入ったのか。」
「自覚がないとでも?」
「うむ。己を弁え、察する術に長け、頭脳も明晰だな。」
「むぅ、妾は悋気してしまうのじゃ。」
「そうではない。我はうぬしか愛さぬ。」
「旦那様、大好きなのじゃ。」
そんなやりとりがあったとか。
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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