お座敷童子編01-01 『寵愛のはじまり1』
side 少女
それは十年前。
あの日、少女は少年と出会った。
少年は伊織という名前らしい。
少女は答えた。名はないと。
伊織は少女の名前を呼びたいと言う。
「かっこいい名前にしよう。」
少年はそう言った。
一緒に本を読んだ。
一緒にかっこいい名前を探した。
ある日のこと。
「今日は僕の六歳の誕生日なんだ。」
少女は自分の誕生日を知らなかった。
少女は少し、恥ずかしくなった。
「じゃあ、僕と同じ誕生日にしよう。
ちょうどいい物があるんだ。
はい、誕生日プレゼントだよ。」
少女は何も書かれていない本を受け取った。
日記というらしい。
「昔の自分とおはなしできるんだって。」
とてもよいことだと少女は思った。
それは最初の宝物。
ある日のこと。
「どうしておうちから出ないの?」
少女は何もいえなかった。
伊織とは違うから、そういえなかった。
少女は少し、悲しくなった。
ある日のこと。
ついに伊織がかっこいい名前をみつけた。
ドイツというかっこいい国の言葉で、一番という意味らしい。
少女は何もいえなかった。
私は一番じゃないから。
そう、いえなかった。
「僕は君を困らせてばかりだ。」
伊織が落ち込んだ。
「私は十二番。一番じゃないの。」
声が震えた。
心臓がうるさくなった。
嫌われたくないな。
そう思ったらぽろぽろと涙がでた。
「それなら十二にしよう。」
伊織は少女にかっこいい名前をつけた。
少女は嬉しくなった。
それは二つ目の宝物。
ある日のこと。
子供なのに伊織は忙しくしていた。
「あまり会えなくてごめんね。」
少女は寂しかった。
「だから、本を読むときぐらいは君と一緒に居たいんだ。」
少女は嬉しくなった。
「私も伊織と一緒がいいな。」
ある日のこと。
伊織が八歳になった。
一緒に同じ本を読んだ。
少女はぽかぽかした。
伊織が立ち上がろうとして、倒れた。
呼んでも返事がなかった。
少女は混乱した。
叫んだ。
大声で助けを呼んだ。
誰も来なかった。
そして少女は覚悟した。
走った。
生まれてはじめて。
走った。
何度も転んだ。
走った。
膝小僧が赤く濡れた。
走った。
頬も濡れた。
走った。
大きな家についた。
叫んだ。
「伊織を助けて。」
何度も、何度も。
視界が狭くなるのを感じた。
「誰か伊織を助けて。」
体が冷たくなるのを感じた。
「どうか伊織を助けて。」
大切なものが抜けていくのを感じた。
「お願い伊織を助けて。」
何度も叫んだ。
「伊織を、助、け。」
血の味がした。
女の子が出てきた。
「いお、り。」
少女は死んだ。
一回休み。
四年後。
少女は目を開いた。
伊織は十二才。
少女の名前も十二。
少女は少し、嬉しくなった。
ちゃぶ台の上に山のようなお手紙があった。
最期に会った女の子からのお手紙だった。
少女は読んだ。
難しい文字は頑張って調べた。
伊織は眠り続けているらしい。
少女は悲しくなった。
たくさん泣いた。
泣いて、泣いて、泣いた。
「お祈りしよう。」
庭の隅に祠があった。
祠はお墓みたいだった。
少女は掃除をした。
すぐに苦しくなる。
すぐにおうちで休憩した。
全然片付かない。
擦り傷も切り傷もたくさんできた。
何度も何度も行ったり来たりした。
何日経ったかわからない。
でもやっと綺麗になった。
祠には吉祥天様がお住まいらしい。
お祈りにはお作法があるかもしれない。
吉祥天様が怒ったら大変だ。
本になら書いてあるかな?
少女は本を読んだ。
ある日のこと。
少女にはじめて念話がきた。
一番目の座敷童子からだ。
「念話できるようになったんだねー。
君は今から正式に『お座敷童子ず』の一員だよー。」
四年前なら念話で助けを呼べたのに。
そしたらすぐに目を覚ましたかもしれないのに。
少女は悲しくなった。
涙が溢れそうになった。
でも、もう泣かない。
伊織が目を覚ますまで貯めておくんだ。
伊織の前でたくさん泣いて困らせてやるんだ。
アインは少女に掲示板の使い方を教えた。
少女はみんなと会話した。
楽しい。
少女は掲示板で吉祥天様について聞いた。
幸せの神様らしい。
吉祥天様ならきっと伊織を幸せにしてくれる。
お作法は気にしなくていいと聞いた。
でも怒られないようにちゃんとしようと少女は思った。
吉祥天様、どうか伊織を助けてください。
少女はお祈りをした。
朝も。昼も。そして夜も。
『夜行《01モイラ編・夜行伊織》』が本編です。
本編の第一章読了以降に目を通していただければ幸いです。
本編の舞台は『異世界』ですが、こちらは『地球の裏側』にあるとされる『幻妖界』、そしてその片隅でひっそりと生きる座敷童子のお話です。
伊織との出会いと別れ、そして彼女のその後のサイドストーリーです。
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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