05 ルーカスの生配信 前編
*
ん、んーっ!
みなさんこんにちは!
冒険者のルーカスです!
ちゃんと見えてる?
よかったぁ。
久しぶりの配信ですね!
えーっと、コメント……
『ダンジョンで死んだかと思って心配してた』
うん。ね。
あの時は俺も死んだかと思ったよ。
まさかポイズンスネークでやられるとはね……。
う……まずい、落ち込んできた……。
『大丈夫! 失敗しても立ち上がるのを見たいんだから』?
『俺なんかまだ底辺じゃないって思える』?
『ミスがいちいちありえなくて笑える』?
うーん……思ってたのと違うけど、まあいいか!
このチャンネルもこつこつ続けて、今は5人とか6人の人たちが見てくれるようになって嬉しいです。
最初は視聴者ゼロだったから、それに比べると成長したよな!
え? 『単細胞笑える』?
おい、それ悪口だからな! やめろよ!
それじゃあ、今日は俺の新しい拠点を紹介します。
ちゃんとモザイクかかってるよね?
ほら、システム上、さすがにどこにいるかバレると、まずいからさ。
冒険者って殺し合ってるだろ、名目上。
まだ狙われたことなんかないけどさ。
俺も一応、自分の命が大事だし!
『死にかけのルーカスを引きずっていってくれた赤魔導士はどこ?』
えーと……ちょっといろんな事情でお答えできないんだけど、今は別行動してます。
『新しい部屋? 宿屋じゃないの?』
ああ、はい。
実は、親切な人にお世話になっています。
酒場のマスターなんだ。
この間、ポイズンスネークに負けて、婚約者にも逃げられて、その上無一文になっちゃったの、俺。
『うけるww』って?
うけねーよ、ホントへこんだんだからな……。
それで、酒場で一人で飲んだくれて無銭飲食しそうになってた俺を!
ここの酒場のマスターが拾ってくれたってわけ。
なので、今日はそこから配信をしてます。
この部屋も、マスターが使ってないからって、俺に貸してくれてるんだ。
住み込みのバイトってわけ。
ん?
『後ろ!!!!』?
『やべぇ!!!』?
『えぐい』?
何が?
『飾られてるのエリクサー』
『幻のアイテムじゃねぇか』
『嘘?』『ドッキリ企画』
だって?
あー、これ?
レプリカだろ。
『触ってみろ』『本物だったら光る』
えー。
あ、光った。
『わああああああああああ』
『!?!?!?!?』
コメントが盛り上がって嬉しいけどさあ。
いやいや、さすがにないだろ。
幻のアイテムなんて、こんな酒場にあるわけないじゃん。
エリクサーなんて王宮とか、激強ダンジョンにしかないんだぜ。
ちょっとマスターに聞いてくるわ。
……
ほら、やっぱレプリカだよ。
なんかな、今流行りの……ああ、間接照明ってやつらしいぞ!
『そんなわけない』?
『バカ』?
うるせー、だから悪口はやめろって。
もし本物だとしたら、会ってすぐの俺の部屋に置きっぱなしにするわけないだろ。
そうそう、マスターのことな。
あの人、ほんとすげぇなって思う。
オトナとしてかっこいいよな。
尊敬してんだ。あの人のこと。
優しいよな、金がなかったら働いて返してくれればいいなんて。
あと、いつもちゃんとシャツ着てるし!
皺になってるところ見たことねーの。
いっつも穏やかで、丁寧でさあ。
そー、まだ会ってそんなに経ってないんだけど、マジでリスペクト!
かっこいいんだぜ、マスター。
『どんな人』?
そうだな、うーん……顔は女みたいなんだけど、体は男って感じ?
あはは、ちげーよ。
そうじゃなくて……なんか、イケメンっていうか、美人、みたいな?
結構筋肉ありそうだけど、静かな感じだよ。
俺と身長が一緒くらいだと思ってたんだけど、バーカウンターって客より目線が下がるように、少し下に板がある作りになってるんだよ。
だから、たぶん俺より高いな。
でも、俺は十代だし、まだ成長期だから!
身長まだ伸びてるのかって?
え? おっさんになるまでは、伸びるんじゃないのか?
二十代で止まる?
……マジか。うわ。もっと牛乳飲んどけばよかった。
さて、じゃあー、今日は何しようかなあ。
久しぶりの休日なんだよ。
うちのマスターめっちゃ優しくてさあ。
ロードーキジュンをきちんとしましょうとか言って、六日のうち二日は休みにしてくれんの。配信の許可もちゃんととってるぜ。
マスターの姿が映らなかったらOKだって言われた。
『ダンジョン再挑戦』?
いやいやいや、ダメ。
それはもうちょっと、俺の心の傷が治ってからにして。
『他のミッションやれば』?
うん、そうなんだよなー……。
でもさ、今、仲間がいないんだよ。
さすがに一人だと心細いな。
ソロだと正直身を守るのに必死で、採集する余裕がないんだよな。
それにさ、ここだけの話。
他の『冒険者』も慣れてきてて、そろそろ俺のこと狩りにくる気がするんだよな……。
いや、俺だって負けてないよ!?
負けてないはずだけど、まだ、さ……
今じゃないじゃん?
もうちょっと力をつけてからじゃん?
うーん、そしたら、今日もいつも通りのまったり配信で!
っていっても、一人だから、酒場の裏庭の果物もってこようかな。
それで、フルーツ飴でも作ってみるか。
ん? 知らない? フルーツ飴。
弟たち好きだったんだよなあ……。
あ、そうだ!
マスターに撮影してもらえばいいんじゃないかな?
ちょっと頼んでみる。
じゃあ、また後でな!