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02 お客様、心配ですねえ

「せっかく剣変えたのに、また負けた! こんなもんクソだ~! 俺はザコッ! ザコオブザコッ! あー、便所の紙の方が俺よりまだ役に立つぜ~」


先ほどいらしたお客様が、カウンターでくだを巻かれています。

うちで飲まれたわけではありませんよ。

最初からこんなのだったんです。


彼の言葉は美しくありませんが、悲しそうなことは理解できます。

焦げ茶色の髪が若々しいですね。

十代の年頃はいろいろあるのでしょうね。

こんな時は、話を聞くに限ります。


良い酒場のマスターは、詮索するような質問はしません。

ただ、寄り添うのみ、です。


私の店は昼間はカフェ、夜は酒場になります。


夕方はどうでしょう。

私の気分次第といったところでしょうか。


実は、夕方はお客様がいらっしゃることは少ないんですよ。


それにしても、どこのお店で飲まれたのか分かりませんが、こんな時間にぐでんぐでんの酔っ払いがいらっしゃることは稀ですね。


何か事情がおありのようです。




「お待たせいたしました、ジンレイムです」


と、私は注文されたものを出しました。

通常よりも少し、薄めに作りました。


黒髪のお客様は、アーモンドのような目をうるうるさせてグラスを受け取りました。


「っく……女戦士にはいきなり斬りかかられるし……1日に2回も魔物のウンコ踏んだし……不運だ……ウンコしか付かねぇのかよ俺には……配信の視聴者も増えないし……金もないし……うう……もう終わった……人生詰んだ……もう俺みたいなのどう頑張ったって、上級冒険者になぶり殺しにされる未来しか見えねぇ……」


泣き上戸のようですね。

だからといってマスターは詮索いたしません。

話されたいときにお聞きするのが大切ですからね。


隣のお客様が私に苦笑を向けます。


「マスターごめんね! こいつ、昼から酒飲んでさ、ちょっと酔っぱらっちゃって」

「かまいませんよ。何やらお辛いことがあったとか」


冒険者の相棒でしょうか。

隣に座った赤魔導士のお客様が、泣いている剣士のお客様を揺さぶりました。


「おい、お前はいつまでぐだぐだ泣いてんだよ」

「だ、だって……うう……お、俺が、必殺技の一つもできてりゃあ、こんなことには」

「まだレベルあげの途中なんだって。これまでほとんど闘ってこなかったんだろ? すぐはあがらないよ」

「うう、魔導士さんは魔法がポンポン言えてさ、こんな俺みたいなクソザコの気持ちわかんねぇよ! 俺なんか、俺なんかっ……うっ……うわああああん」


じめじめされることこの上ありません。

仕方がありませんね。


「生きていれば、きっとそのうちいいことがありますよ」

何のなぐさめにもならない台詞を言って、私はお水を置きました。


若い剣士さんは私の顔をウルウルした瞳で見ます。

涙が止まったらいいのですがね。


「うっ……マスター……ありがと……」


このままカウンターにきのこが生えてしまっても困りますからね。


若者は穏やかな寝顔を浮かべて、

「ぐう……」

寝息をたてて、カウンターに沈みました。


困りましたねぇ。

折を見て連れ帰って頂かなければ。

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