夜中に観た不可思議な番組
※『NNN臨時放送』をリスペクトした作品です
俺は至って普通の、勤務医。
今、日付が変わった頃に帰ってきた。
「ふぁーあ。眠いなぁ……まあ、明日も遅く出るし、寝る前に 一杯ビールでも」
冷蔵庫に入っていたビールを取り出す。
それをリビング兼寝床に、持っていく。
「……?」
何か、違和感を感じる。
なんだろ、この感覚は――
ふと、テレビの方を見る。
リモコンを触っていないのに、画面が付いている。
『HNH臨時放送』
という文字が見えてくる。
(おい……これ、ネットの都市伝説だろ?)
人の名前と年齢、「明日の犠牲者は以上です」という文面で終わるヤツだ。
一度、動画サイトで観た事がある。
しかし、今……俺が観たものは違う。
『 HNH臨時放送 』
『 10時34分 椎ヶ木茂 (74)
11時02分 野木円香 (15)
13時06分 木嶋みどり (56)
明日の犠牲者は以上です
おやすみなさい 』
その文字が通りすぎたかと思うと、画面は消えた。
もう一度付け直して見てみても、何も観れない。
(これ、病院の患者じゃねえか。それも、俺が担当の……)
俺は、冷や汗が出てきた。
ただ疲れているだろう、そう思って俺はビールをそのまま置いて寝床についた。
▪▪▪
次の日、俺が起きると午後の1時を過ぎていた。
(俺ってば、寝すぎじゃね)
そう思いつつ、携帯を見る。
後輩の三波から、5回着信が来ている。
不審に思った俺は、電話をかける。
『先輩!どうして出ないんすかっ』
開口一番、三波がそう言う。
「すまん、疲れていて寝てしまったようだ」
携帯の向こう側から、ため息が漏れる。
『……まあ、それはそうとして。先輩が診ていた患者さんが、立て続けに亡くなったんですよ』
(………!?)
俺は寝る前に観た、あの光景が思い浮かぶ。
(これ、真面目に起きたんだよな)
驚きつつも、そう考える。
「三波、今すぐ病院へ行く」
『でも先輩、今上の人間が動いていて……』
「それがどうしたんだ。俺の患者が立て続けに、亡くなったんだぞ?俺が行かなきゃどうする」
俺の言葉に、三波は理解を示した。
▪▪▪
病院へ向かうと、櫻衣枝看護部長と鉢合わせをした。
「織音君、丁度良かった。貴方の患者の事、聞いているかしら」
櫻衣枝看護部長が、そう言う。
「ええ、三波君から聞いています」
それを言った途端、彼女が顔を曇らせるのが分かる。
「ちょっと、良いかしら」
そのまま、人気の少ない病院の裏側に連れてきた。
「さっき、西河さんから聞いたけどね……亡くなった三人、奇妙な死に方をしたらしいのよ」
西河さんは、内科の科長だ。
「奇妙な死に方?」
「小さな子に首を締め付けられたような、そんな跡があるみたいなの」
(……気になるな)
そう思った俺は、遺体を拝見できるか聞いてみる。
「ええ、大丈夫よ」
そのまま、安置室へと向かった。
野木円香さんの御遺体を見てもよい、と櫻衣枝看護部長から言われた。
首元を見る。
……確かに、誰かに首を締め付けられたような跡がある。
(なんなんだろうな、これ……)
気になる所だが、知識の範囲外だからここは解剖医に任せるしかない。
もやもやしたものを残しながら、俺は通常勤務へと向かった。
▪▪▪
あれから半月後。
解剖医が診た結果は、『窒息死』と診断された。
事件性が疑われ、警察が動いてくれているが……今のところ、重要な手掛かりを掴めていない。
(……あの日から、なんかおかしいな)
俺の身体に、異変が出てきている。
毎日、誰かが乗り移っているようで……肩や首が妙に痛い。
昼の仕事を終え、俺は直ぐに寝てしまった。
▫▫▫
夜中に目が覚めた。
ふと気付くと、深夜にやっていない筈のテレビが付いている。
『 HNH臨時放送 』
『 2時07分 織音矢澄 (32) 』
それが映し出されたと思うと、次の瞬間おかっぱ頭の女の子が――――
「あの病院ってさ、墓地に面しているじゃん。実はその墓地を一部買い取って敷地を広げたらしいの。……そうそう、そのせいで呪われているらしいよ」