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 → I am Satan. Are you afraid of me ?

 罪人【サカキ神威カムイ】――罪状【神殺し】。


 三日月が妖しく輝く夜。

 魔王と讃えられた男は捕らえられた。


 ――否、神を殺した男は、魔王と恐れられた。


 罪状【神殺し】刑罰【極刑】。

 神を殺し、魔王と成った男は、歴史上にて殺された。

 深い深い、歴史の闇に葬られた。


 それ故、男の存在が表に語られることはない。

 ただ在るのは存在を騙られることのみ。


 たとえそこに存在しようとも。


 生ける死人しかばね

 男は魔王として世に君臨しながらも、ただの一人として、男の存在を認知できる者はいなかった。



 それが呪い。



 そして。



 男は伝説の中でのみ、騙られる。

 歴代の魔王の中でも最高にして最強の、【神殺しさま】として――






 ――汝、神を冒すことなかれ。










 【Episode.0】The Story of Satan ⇔ Prologue










「正気……ですか? 魔王どの」


 訝しげに爺は、顰め面を歪ませた。

 老い腐り歪な顔のパーツが、滑稽に、膨らむ。


「正気も何もないだろうが。やるって言ったらやるしかない、だろ?」


 そんな不細工を嘲笑うように、男は、鮮血のように真っ赤な瞳を細めた。

 瞳に宿る暗い狂気以外は、何処にでもいるただの青年でしかない、黒髪の痩身。

 けれどその痩身が纏うオーラは、くらく禍々しく、強大な闇の力に帰している。


「そんな……いくら神殺しと呼ばれた貴方と言えど。あの呪いを解こうだなんて、半ば自殺行為にも近い」

「けっ。お前はなめてんのか? この魔王さまを。人間がかけた呪いなんざ、十秒もありゃ十分だ」

「いえ、私が言っているのはそういうことではなくてですね……」


 子供のように我儘を捏ねくり回す青年に、今度は困ったように顔を歪ませる老人。

 はああ、と盛大な溜息を辛うじて呑み込み、青年の瞳をぐっと見据えた。


「呪いを解くには、貴方以外に第三者の協力が必要なのですよ? それを解っておいでですか」

「あぁ、だからお前がいるんだろ」

「私ですか!? わ、私は全くの第三者と言うわけでは――」

「煩い。黙れ、俺だって本当はこんな阿婆擦れジジイじゃなくてもっと可愛い巫女さんがいいわい。だけど俺が視えるのは今のとこお前しかいないだろ、諦めろ」

「うう……賢者たる私にこの仕打ち……いつか罰が当たりますぞ……」

「うるっせ。お前如きの罰なんてどんなもんだ、あんまり渋ると殺すぞ」


 殺すぞなんて脅し文句とともにその紅い目で睨まれ、爺は堪らなくなってははあと頭を下げた。

 あの鋭い紅い瞳には多分、禍々しい妖しの力が宿っているのであろう。

 仕方のないこと――賢者の名を冠する老体は、諦めて魔王の前に頭を垂れる。

 此処は話題を変えなければ。本当に殺されてしまっては堪らない。


「それにしても、あの時からまだ十五年しか経っていないというのに――もう解術を編み出してしまうとは、やはり魔王どのは天才なのでしょうな」

「聞き飽きた。天才なんてありきたりすぎ。イラネ」

「なっ……! ほ、褒めているのですぞ! 天才がありきたりなどと――」

「口が過ぎるぞ、ジジイ。今じゃあ天才なんて呼ばれる奴はそこらへんにゴロゴロ転がってるだろが、そんな名を貰って何が嬉しいものか」

「ぐっ……で、ですが本当の天才は一握りで」

「あのな、ジジイ。俺は天才って言われるより非凡って言われる方が好きなんだ、そっちの方が魔王っぽい感じがする」

「き、気分だけでしょう!」

「いいんだよそんなのノリで。兎に角俺がそう言うんだから従えボケ」


 どすっと額に指を突き付けられ、賢者はおおうとよろめく。

 つっつく、というにはあまりにも破壊的な威力だ。傷口がひりひりと疼く。血は出ていないとは言えど……。


「ていうかな、十五年しか経ってないんじゃなくて、十五年もかかっちまったんだよ。解術自体は二年で編み出してた」

「な……っ!? 二年、ですか!?」

「ああ。ただ、迷ってたことがあってな――」


 ごきごきと首を鳴らす青年を見つめ、賢者は信じられないような気持ちになった。

 あれほど強力な呪いの解術を二年で得たこともそうだが、この青年に迷い等という感情があったことに――。

 魔王。神殺し。そんな異名まで取る青年に、迷いや容赦といった概念は今までなかった。なかった、に等しい。

 そもそも、何に迷うというのか。神さえをも殺した男が。


「さ、差し支えなければ教えて頂きたい……一体何を、迷っていらっしゃったのでしょうか?」

「あー、そうだな。例えば呪いを解いて世界に復活したとして、俺は何をすればいいのかってことだ」

「……はい?」

「まあ簡単にいえば、暇だってこと」


 賢者と讃えられた老人にも、その答えは予期できなかった。

 否、勿論世界の人間たちが可哀想だからーなんて答えを返す謙虚な男だとは思っていなかったが。

 まさかそこまで自己中心的な答えが返ってくるとは……。


「復讐を考えても、俺に呪いをかけた奴はもう死んでるし。神を殺した後に世界征服ーなんてしょぼいしさあ」

「は、はあ……」


 思わず間抜けな反応を返してしまう。

 けれど賢者のそんな反応にも青年は怒ることなく、どうしよっかなーと気怠げに呟いている。

 世界征服がしょぼい……。まあ、神を殺した者の視る世界は――如何なる賢者であれ、人間には違いないこの老いぼれとは違うのだろう。仕方がなくも思える。

 そうだ。それは仕方のないこと。それならばそれで、違う方から陥落おとすだけだ。


「……それでは、いい案があります。魔王どの」


 一瞬の内に目まぐるしく色んなことを思考しながらも、賢者は口を開いた。

 いい案。

 嘘ではなかった。ここで渋られ、留まられては困る。

 要は餌だ、退屈を紛らわす玩具さえあればこの青年は馬鹿正直に飛び付いてくる――


「貴方を憎む勇者を、じっくりねっとりと嬲り殺すなんて如何でしょう?」


 賢者が妖しく微笑みながら告げると、青年の顔は、無表情からゆっくりと色を変えた。


 興味。

 懐疑。

 吟味。

 悦楽。

 狂気――


「よし、それだ」


 そうして青年こと魔王は、尖った犬歯を見せてにやりと妖笑わらった。








 こうして物語の幕は上がる。

 闇をも上回る暗澹を、さながら悪魔の如く食い潰しながら。



始めてしまいました、三つ目の連載。

勿論他二つの連載を放棄する気はありませんので、更新は一番遅くなると思います。

ですがちゃんと完結まで持って行く気持ちはありますので、どうか温かく見守って下さいませ。


もし宜しければ、批評等をお願い致します。

誤字脱字、その他間違いの指摘は非常に助かります。

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