表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

5話 晴天前夜

 私には、幽霊が視える。

 それを迂闊に周りに喋って、変な目で見られた。嘘つきと悪口を言われることもあった。だんだん喋るのが怖くなって、声を出せなくなった私に残されたのは「幽霊少女」という不名誉な名前だった。

 それでよかったと思えたのは、初めてのことだった。不慮の事故で死んでしまった私の好きな人が現れて、一緒にいてくれて、初めて「幽霊少女」でよかったと思った。そんな彼は、私のあだ名さえ、持ち前の明るさで奪っていった。


 目を覚まして、見慣れない白い天井を見上げて。

 不意に視線を横にやって、私は驚きに声も出せなかった。

「……よう」

 ベッド脇の椅子に座っているのは、相変わらず足のない彼だった。え、とやっとの思いで零した私に、不機嫌そうな顔を見せる。

「……成仏、しなかったの」

「それなんだよ。なんで俺まだここにいるんだよ」

「確かあの時、羽月くんがついてるって、言ってくれて」

「あーもう言うな言うな! 恥ずかしい!」

 両手を振る彼は、幽霊とは思えないオーバーリアクションを取る。


「四十九日ってやつだろ。それ過ぎたら、成仏出来るんじゃなかったのかよ」

「そう思ってたけど。でも私、多分って言ったでしょ。専門家じゃないから、憶測だったし」

「今更言うか? あーあー、俺ばっかみてえ。どうなってんだよ、ほんと」


 私は、一命を取り留めたらしい。あの高さから落ちて無事だなんて、実に奇跡だとお医者さんは首をひねっていた。

 お見舞いに来てくれた高校の先生や小倉さんたちが帰ったあと、別室の患者さんを脅かして遊んでいた羽月くんが戻ってきた。

「どうして成仏できないんだろ。未練でもあるの」

「未練ねえ。思いつかないけどなあ」

 腕を組んで、傍のパイプ椅子に腰を下ろす。幽霊になっても、椅子に座るっていう行動は自然に身に付いてるみたい。

「決めた。朝比奈、俺の未練探してくれ」

「私が?」

「俺も言っただろ。成仏するまで付きまとうって。な、手伝ってくれよ」

 やっぱり勝手だなあ。そう思うのに、羽月くんが笑うから、私も呆れながら笑ってしまう。

 私たちの奇跡は、もう少しだけ続くみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ