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裏稼業との対峙

 ベルモンドとエル。

 二人は宿から出ると、今もなお、大雨が降り続いていた。

 ベルモンドが消火のために使った水の魔法だ。


「これほどの水の量……水魔法を極めた賢者しか出来ないのでは」

「その、水魔法を極めた賢者から力を授かったからな」


 ゆえに、闇以外の全ても極めたと言っても過言ではない。

 それを証明するように、ベルモンドは手の平を虚空に向ける。


「なにをしているのですか?」

「……下がれ」


 バシッと音が鳴り響く。

 ベルモンドの結界に何者かが刃を突き立てたのだ。


「魔法で姿を消した者たちだ」


 ベルモンドには全て見えている。

 魔法の流れを読み、敵の居場所を察知し、その手に持っているであろう武器をつかみ取る。


「!?」


 姿を消していた黒装束の者の魔法が解け、驚いた顔を見せた瞬間だった。

 ベルモンドは、相手が持っていたナイフを素手で奪い取り、そのまま、刺し殺した。

 鮮血が洗い流されているのもつかの間、ベルモンドは奪ったナイフを投げる。

 もう一人、血しぶきを挙げながら倒れる男を見下す。


「黒の装束……黒翼の平定者か」

「こ、こくよくのへいていしゃ……?」


 エルは怯えたように竦んでいる。

 突然の出来事と、突然の死に、恐怖するのが普通の人間の反応というものだ。

 死には慣れているのに、おかしなもの……いや、死を目撃し、実際にその身で体験したから怯えているのか。


「俗に言う、暗殺者ギルドの連中だ」


 国王が気に入っている連中だ。

 秘密裏に、彼らを利用していたことは、亡者共から聞いていた。

 しかし、彼らが動き出したということは、国王はベルモンドを狙いに来たのだろう。


「陛下もよっぽど退屈と見える」


 退屈しのぎか。それとも畏怖の感情ゆえか。

 どちらにせよ、ベルモンドには興味なきこと。


「ベルモンド様に……暗殺者……」

「意外か?」

「いえ。なんとなく……なにかあると察していましたが……」


 エルはしばらくベルモンドが殺した男たちに対して手を重ねる。

 祈りの言葉をしばし、口にする。


「…………」

「俺の近くにいれば、もっと死を見ることになる」

「……わたくしは、ベルモンド様の従者でございます」

「そうか」


 気丈に振る舞うゆえか。それとも、このような男にでも感謝の念があるゆえか。

 エルは、震えながらもベルモンドから離れはしない。


「死霊使いのベルモンド!」


 男の声が聞こえてくる。

 死した男たちと同じ黒装束。

 しかし、その男の顔の特徴は、ベルモンドも知っていた。


「その顔の傷。お前が黒翼の平定者のリーダーか」

「……なぜ俺のことを知っている!?」

「お前が殺した亡者共から聞いていた。興味はなかったがな」


 リーダーはどこかおかしかったのか、笑う。


「さすが、元とは言え首席研究者のネクロマンサー殿。なんでも知っておられる」


 ベルモンドはただ腕を組んで黙って聞いていた。

 褒められようが貶されようが、今ではなんとも思っていない。

 もう何も感じなくなったと表現すべきか。


「しかし、国王陛下に逆らい、暗殺の命令まで出されるとは……地に落ちたものだな」

「……俺はお前といつまでも、お喋りをするつもりはない。帰れ」

「お喋りをしに来たのではないのは、こちらとて同じ。さてベルモンド殿」


 リーダーの合図で、黒装束の男たちが、ぞろぞろと歩いてくる。

 彼らは……その手にナイフを持って、村人たちの首筋に近づけていた。


「まあ、分かりやすく言えばこの通りだ。動けば、コイツらは死ぬぞ」

「…………」


 人質。

 それも赤の他人の人質などに価値も興味もない。

 しかし、そう言い放とうとしたベルモンドの隣には、怯えながらも、彼らを睨み付ける少女がいた。


「お、おやめなさい……! 彼らはあなたたちと関係がないのでしょう……!」

「国王陛下からのお達しには確かにない、が」

「なら……!」

「ベルモンドを殺せるなら、無辜の人間を殺害しても良い、とも仰った」

「そんな……国王たる人間が、民を……」


 彼女は元王女だ。

 王族だからこそ、ある程度政治に近いところにいた。

 ゆえに、民を殺害する王族など信じられないのだろう。


「それでベルモンド殿。正直、そのような小娘がいたのならそちらを人質にすれば良かったが……まあ、知らなかったものは仕方が無い。命令に従って首を差し出せ。国王陛下は、キサマのような反乱分子を酷く恐れている」

「反乱をした覚えはない」

「そんなことはどうでもいい! 村人たちを死なせたくなければ、さっさと死ね!」

「死ぬのはお前達の方だ」


 ベルモンドがギロリと睨むと同時に、ベルモンドが殺した暗殺者が立ち上がる。


「アンデッド化したのか!?」


 暗殺者たちは、かつて仲間であった者たちに刃を振るう。

 反撃にあおうが、腕を切り落とされようがお構いなしで、襲いかかる。

 そして……暗殺者は絶命し、その絶命した暗殺者もまたアンデッドとなりて、かつての仲間を襲う。


「な、なんだこの魔法は……!」


 アンデッド。即ち、不死者であり、死体。

 アンデッドとなった者を殺すことは不可能だ。

 そして、彼らに殺された者もまた、ベルモンドによってアンデッドとなる。


「よ、よせ! やめろ!」


 やがてリーダーの仲間は全てアンデッドと化すると、リーダーに刃向かうように、全員で襲いかかった。

 殺しても死なぬ集団の完成だ。


「そ、そうか……! キサマ、確かその魔法があれば一国を滅ぼせると……!」


 この魔法があれば、戦場にいる兵士はどんどんベルモンドの支配下になっていく。

 敵が一方的に減って、味方が一方的に増えていく、まさしく最強の魔法。


「知っていたのならば、ムダに死ななくて済んだのにな」


 冷たく見放すように。

 死者の群れに飲み込まれるリーダーの姿を、ベルモンドは見下ろしていた。

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