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ネクロマンサーの責任

「待って下さい」


 無責任にも立ち去ろうとするベルモンドに少女は声をかける。


「あの……わたくしは……どうなったのですか?」


 その問いに答えるのが、生者に戻した者の責任だ。

 少なくとも、生き返らせて捨て置くのは、再び死の苦痛を与えるにも等しきこと。

 十五年という月日で、蘇った少女など、無力にも等しい。


「死んだ。そして、蘇った」


 あ、と小さな声を漏らす少女。


「わたくしは、この国で……夜盗に襲われて……」

「そいつらは恐らくもういない。俺の私情で消した」

「……復讐、してくださったのですか?」

「違う、とだけは断言しておく」


 少女は戸惑ったように、静かに俯いている。


「……怖いか?」


 ベルモンドは問う。


「……はい」


 それは、とても小さな返答であった。


「…………」

「…………」


 ベルモンドは腕を組み、何を聞けば良いのか、答えを探している雰囲気の少女。

 少女はやがて、口を開いた。


「あなたは、なぜわたくしを生き返らせたのですか?」

「……私情だ」

「私情、とは」

「……私情は私情だ」


 話したくない。

 そんな空気を感じ取ったのであろう、少女は小さな手を胸に添え、深呼吸をする。

 恩人か、あるいは憎き相手か。

 どちらにせよベルモンドには話を続けようとしている。


「わたくしは、ミリエル・フォン・アルテマーク・シア・デルミル、と申します」

「……滅びたアルテマークの王女か?」

「は、い……」

「亡命していたのだな」

「はい……」


 アルテマーク。

 かつて、小国であるアルテマークは、戦争の最中であった。

 戦禍は圧倒言う間に、小国を地図から消し去り、王女を含め、王族は全て行方不明とされており、血筋は途絶えたと結論づけられていた。


「……あの!」

「なんだ」

「彼らは生き返らせることは……出来ませんか……?」

「無理だ。既に魂はこの地にない。蘇るとしても、アンデッドとして、だ」


 確かに、ベルモンドのネクロマンサーとしての力は、死者を蘇らせ、対話する能力に長けている。

 その力を強引に奪い取ることも、教えを請うことも可能だ。

 だが、遺体たちの無念が弱すぎる。

 これでは、完全な蘇生は難しい。魔物化したアンデッドとして、蘇ることになるだろう。


「相応の生け贄を用意すれば、完全な人間として蘇らせることも出来るだろう」

「生け贄……ですか?」

「一人につき百人程度か」


 それくらいあれば十分だ。

 だが、そうまでして死者を生者にしたとて、死者も喜ばぬというもの。


「そう、ですか……あの少しよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「お話があるので、皆のお墓を作るまで少しだけお待ちいただけないでしょうか」


 墓を作るので、待っていろ。

 しかし、かなりの人数が遺体として横たわっている。

 全員分の墓を作ろうとするならば、相応の時間が掛かる。

 それも、十台半ばの少女一人で出来ることではない。


「一人でやるつもりか?」

「は、はい」

「別に、俺に頼もうが頼まないがどうでも良いが。話をするならさっさと終わらせよう」


 ベルモンドが手を挙げると、土が規則的に穴が空いていく。

 そして、指をシュッと振れば、転がった骨たちは、それぞれ穴の中へと吸い込まれるように入っていく。

 最後には十字架の石が置かれて、終わりだ。


「すごい……これも闇魔術なのですか?」

「闇魔術も、それ以外も使える」


 それで、とベルモンドは少女にギロリと視線を向ける。


「話はなんだ?」

「あ……はい」


 彼女は勇気を振り絞るように、深呼吸をしながら口にする。


「わたくしをお供にしてくださいませんか?」

「……何者か分からん俺のか?」


 精一杯ひねり出したのだろう。

 しかし、ベルモンドは否定しない。


「好きにすると良い。だが、良いのか?」

「え?」

「お前を殺した者は消した。次は、お前の国を殺した者たちを消したくはないのか、と聞いている」

「……いいえ。わたくしは、そのようなこと、考えておりません」


 目的がない。

 憎しみに囚われている方が、まだ目的を持てたものを。

 未練を持った魂ではなかったのか。


「わたくしが死より蘇った未練は、彼らの死に、祈ることが出来ないから……です」


 まるで考えを読まれたように答える。

 彼女は新しくできたばかりの墓の前に座り、手を重ねた。

 そんなことのために……殺されても、なお、執念を持ち続けたようだ。


「そのために、この世界へ留まり続けたか」


 ただ、それだけが未練。

 そのためだけに……十五年、この地に思念となりて、消えぬよう、この時まで待ち続けたのか。

 そんなことをしても、たまたま蘇らなければ、何の意味もなかろうに。


「わたくしのために果敢に戦い。祖国のために、最後の一瞬まで命を捧げた者たちよ。……どうか、安らかに」


 彼らは忠の者だったのだろう。

 それに比べて、ベルモンドには忠などなく、すぐさま国王から立ち去った。

 彼女はそれに比べてどうだ。

 最後まで国に捧げた者たちのために、死者の無念を晴らそうとしている。

 ……真逆だった。


「……あなた様のお名前は」

「ベルモンド」

「わたくしは、エルとお呼びください」

「……王女だったのだろう?」

「いいえ。もうわたくしはただのエル。ベルモンド様について行く、ただの目的なき従者でございます」

「……そうか」


 ベルモンドは否定せず、それでいて、興味がないとも言わず。

 ただただ、隣を歩く少女の同行を許した。

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