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目的なき旅路

 追放されたベルモンドはただ道なき道を歩く。

 国王軍魔術研究所主席研究者の肩書きがなければ、ただの浮浪者と違いはない。

 目的など、ない。

 夢など、当の昔に失った。

 残された彼には、ただ、死者からもたらされた様々な力のみだ。


「……死神の死霊使い、か」


 どうでも良い。

 そう言いながらも、その二つ名に思い出のような感情を馳せながら、ベルモンドは黒いコートの胸元につけた主席研究者のバッジに手を触れる。


「……もはや、何もかもどうでもよい」


 バッジを外し、闇魔法で物質ごとバッジを消し去る。

 かつて、この大陸にいたとされる初代魔王を蘇らせ、その力を奪った。……死者からあらゆる力を吸収する、世間的イメージからして悪いもの。

 しかし、ネクロマンサーだった彼は、初めこそ批判されていたものの、次第にその力を認められ、やがて、首席の座を勝ち取るに至った。

 その年齢は、二十歳。歴代最年少の記録まで欲しいものとした。


 しかし、そのような華やかな称号ですら、もはや不要であった。

 それほどまでに、ベルモンドは興味が失せていた。


 目的もなく彷徨い、町外れの滅びた小さな集落跡地へとたどり着く。

 派手な戦いでもあったのか、古びた馬車の数々に錆びた剣が無数に突き刺さっている。

 十数年近く、年月が経っているだろうか。

 風化し、記憶から消えていこうとしている。

 武装した兵士たち“だった”ものが、横たわり、白骨化している。

 戦争か、小競り合いでもあったのか。内紛にしては、兵士たちの死者数が多い。

 これは……軍が賊に敗北でもしたのだろう。


 日が沈み、夜の闇が近づく。

 ネクロマンサーであるベルモンドにとって、酷く居心地の良い空間であった。

 死者と共にいると、言葉に出来ぬ安堵を感じられる。


 ベルモンドは風化した建物の中でくつろいでいると、なにやら騒がしい声が聞こえてくる。

 複数人の男たちがこちらに近づいて来ていた。

 轟々と燃える松明が、周囲を明るく照らす。

 やがて、ひげと身体のたくましい男が視界に入る。


「お前さん。浮浪者か?」

「そんなものだ」

「知っているか? ここの近くには盗賊のアジトがあってだな。こうして過ごしているマヌケから身ぐるみを剥いでまわっているそうだ」

「そうか」


 ベルモンドの素っ気ない回答に、男たちがげらげらと笑う。


「おいおい! これから死ぬってのに呑気なモノだな、ええ!?」

「興味はない。失せろ」

「失せる? ははは。冗談がキツイぜ、旦那!」


 男は腰に差しているサーベルの柄へと手を添える。


「さあ、野宿をしていた不幸を呪うんだな」


 サーベルを抜き、振り下ろす。

 しかし、ベルモンドは座ったまま、剣を片手で受け止めた。


「呪いか。良い響きだ」

「な、なんだ!? お前、闇魔術師じゃないのか!?」


 魔術師は、武術の心得などない。

 それが世間一般の認識だ。


「闇魔術師だ。闇を極めたな」


 剣を受け止めた手から炎を出す。

 熱は脆い金属を溶かし、どろりと熱を持ちながら地面へ零れ落ちる。


「な、なんなんだ、お前!? 何者だ!?」


 男の動揺が周りの者たちへと伝搬する。


「俺は何者でもない」


 男は萎縮する。


「く……お前!」


 男が叫ぶ。

 瞬間、ベルモンドは感じた。

 この地に眠る無念の魂を。

 導かれるように、目を開き。

 彷徨うように、立ち上がる。


「死だ。濃厚な、死と無念の薫り」


 ふらふらと夜盗共の合間を掻い潜り、亡者のように、“そこ”へと向かう。

 小さな白骨遺体。

 泥に塗れたドレスから無念を感じ取る。


「……“これ”は?」

「な、なんだ。突然!」

「答えろ」


 ベルモンドの瞳には、無気力、無興味などなかった。

 ただただ、ジロリと恐ろしき眼力で睨み付ける。


「コイツは……亡命してきた王女様ご一行だ。十五年前に殺してやったがな!」


 瞬間。

 ベルモンドは手刀を振った。

 その動きに合わせて、男たちの上半身と下半身が、別れる。


「な、んだ、これ……」

「消えろ。ゲスめが」


 黒い炎で包まれていく男たち。

 やがて、彼らはこの世から“魂”ごと消える。


「その無念であれば、蘇るのも容易かろう」


 足りぬ肉体も。足りぬ内臓も。足りぬ生命も。足りぬ衣服でさえ。

 手をかざすだけでみるみる戻っていく。

 やがて、少女は死から蘇り、止まっていた時間が再び動き出した。

 十五年の月日を得て。


「ここは……」


 美しき金色の髪と、白き肌を持つ少女は、ゆっくりと目を開く。

 ベルモンドはしばらく、沈黙を保った後、


「どこへでも行くが良い」


 と、投げやりな言葉を向けた。

 なんと愚かしいことを。

 ベルモンドは自らを呪うように責めた。

 死者の蘇生など、容易く行うものではないというのに……。

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