表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

塩の劔と彼女のホワイトクリスマス

作者: 七詩のなめ

 誰か(・・)が願った。ただ、大切な人に向けて願ったのだ。


 あぁ、幸せになってほしい、と。

 あわよくば共に幸せになりたい、と。


 そんな甘酸っぱい感情。

 寒さを忘れるほどに発熱する頬を撫でながら、撫でられながら。

 彼や彼女らは積み上げてきたものを、育んできた愛情を、有象無象の想いを確かめ合うように語らう。そんな日に。


 “白い雪”が降る。

 倒れ込む彼女を抱き寄せ、僕は絞り出すように言葉を吐き出した。


「確かに、僕とあなたは憎しみ合うことしか出来なかったけれど」

「うん」


「愛情というものとは程遠い関係だったけれど」

「そうだね」


「そりゃあ、ないだろう……先輩」

「ごめんね」


 世はクリスマス。

 赤い服。白い髭。派手なソリに、たくましいトナカイ。

 煙突から不法侵入をかます老年の所業。年に一夜限りの配達屋。


 子供は笑い。大人は微笑み。平和を伝える生きる逸話。

 サンタクロースは存在する。

 赤い服を着て、白いマフラーで口元を隠し、赤いバイクと、大きな袋を肩にかける。


 数多の願いを叶える万能の願望器。

 善良たる子どもたちの願いを必ず叶えなければならない呪い。

 だからこそ、彼女は僕に謝った。


「こんなことなら、願わなかったのに」

「ううん」


「僕はただあなたに幸せになってほしかっただけなのに」

「そうだよね」


「あなたのいない世界で、僕は一体どうすればいいっていうんだ!!」

「私も本当は――――」



――――――君と一緒に生きたかった。



 彼女の右手が僕の頬を撫でる。

 ジャリ、と。不快な感触を最後に、彼女の手はまるで砂のお城が崩れるように落ちていく。

 それを離すまいと一生懸命に掴もうとするが、その振動で彼女の体が崩れていく。


 嫌だ。

 願いを変えられるのなら命だって惜しくはない。


 嫌だっ。

 こんな結末を欲していたわけでは決してなかった。


 嫌だっ!!

 このままあなたを失うなんて理不尽を許したくない。


 そんな想いを打ち砕くように、彼女は白い粉となって崩れ去る。

 もう先輩の声も聞けないのだと思うと、何もかもがどうでもよくなってしまった。



 世界に救いなんてものはない。神々が死んだこの世界に。

 誰かが誰かの幸せを願っただけだった。たったそれだけのことで、こうも簡単に世界は様相を変えてしまう。

 最後に残ったのは“漂白”された情景と、塩と成り果てた建物が崩れることで起こる粉雪のような光景。

 そして、この破滅的な終末を引き起こしたサンタクロース9世を殺害した僕だけ。


 “ホワイトクリスマス”

 この日の事件を人々はそう呼ぶ。新たなる英雄の誕生の日を、世間ではそう称えるのだ。


 唯一。

 疑問として残ることとすれば、この事件を引き起こした“塩の劔”は一体なぜ、どうして現れたのか。

 そして、付随してサンタクロース9世は誰の、どのような願いを叶えたのか。

 おそらく、これらを解き明かされることは永遠にないだろう。

 なぜなら、真実を知る者は誰一人としていないのだから。

リア充を塩人形にしてやろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ