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楽しい修羅場の歩き方  作者: 和久井 透夏
第一章 小夜子さんストーカー殺人事件
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1-9

 小夜子さんはスイーツコーナーで見つかった。

 僕は小夜子さんの顔を見た途端、安心したと同時に急にさっきの事が今更怖くなって必死でおやつコーナーでの出来事を説明する。

 すると僕の話をじっと聞いていた小夜子さんは話を聞き終わると急にスマホをいじり始めた。

「どうしたの、小夜子さん……」

 慌てた様子で何かスマホで文字を打っているらしい小夜子さんに、恐る恐る僕は尋ねる。

「とりあえず、そのタンクトップ山田さんには心辺りがあったから、ジュースには絶対に口を付けないようにメッセージを送ったわ。飲む前に見てくれるといいのだけど」

 緊張した顔で小夜子さんが言った直後、ピコン、と小夜子さんのスマホが鳴った。

 画面を見た小夜子さんは、安心したようにため息をつくと、また何かメッセージを打ち始める。

「由乃くんのおかげで、ギリギリ四人目の犠牲者が出るのは阻止出来たわ。ありがとね」

 僕の頭をなでながら小夜子さんは目を細める。

「え、何が起こったの?」

「由乃くんがタンクトップ山田さんの命を救ったのよ」

 答えがザックリし過ぎていてわからない。

 直後、また小夜子さんのスマホが音を立てる。

 メッセージを確認した小夜子さんは、一瞬、目を見開いて固まった後、自分を落ち着かせるように小さく息を吐いた。

「なるほど。そういう事だったのね……犯人は下田さんよ」

「どういう事?」

 悲しそうな顔をする小夜子さんに、全く話について行けていない僕はもう一度尋ねる。


 謎を解いた日の夜、小夜子さんは下田さんを近所の公園に呼び出した。

 辺りはすっかり暗くなって、子供が誰もいなくなった公園で、小夜子さんが一人ベンチに腰掛けている。

 僕は小夜子さんの座っているベンチのすぐ後ろの植え込みの影に隠れて、小夜子さんの様子をうかがっている。

 スマホで時間を確認すれば、十八時四十分と表示されている。

 待ち合わせは十九時らしいから、もう少し待つかな、と思っていたら、足音が近づいて来た。

「待たせたかな」

 下田さんの声だった。

「いいえ、急な呼び出しなのに、こんなに早く来てくれるなんて思わなかったわ」

「君からの呼び出しならいつでも大歓迎さ。それで、大事な話って?」

 上機嫌に下田さんは言う。

「ちょっと長くなるから、こっちに座って聞いて欲しいの」

「わかった」

 小夜子さんと下田さんがベンチに座る気配がした。

 二人がすぐ近くにいるのを感じて、盗み聞きしているのがバレないかドキドキする。

「下田さんは最近この辺で毒殺事件が起こっているのは知ってるかしら?」

「ニュースで見たよ。物騒な話だ」

 小夜子さんの話に下田さんが大きく頷いて相づちをうつ。

「それで、その事件について、私の所に警察の人がやって来たの」

「……へえ、警察の人はなんて言っていたんだい?」

「殺された三人それぞれの部屋から私とかなり親しそうにしていると思わせるものが出てきたらしくて。一人は本当に知り合いだったけれど、一人は写真見せられるまで気付かない顔見知りで、もう一人は全く知らない人」

「妙な話だな……それに、親しそうにしていると思われる? 一体、彼等の部屋にどんなものがあったんだい?」

「私と付き合っているという内容の妄想が書かれた日記が出てきたり、私との合成ツーショット写真が出てきたり、私の名前の公共料金の支払い用紙が出てきたみたい」

「妄想の日記に合成写真って……心辺りは?」

 下田さんの声が低くなる。

「無いわ。いつからそんなに気に入られてそんな事になっていたのかもわからないもの。だけど殺された三人にはそれ以外に共通点が無くて。だから警察の人は私に話を聞きに来たみたい……」

 まるで怯えたような小夜子さんの声に、僕は驚く。

 事情を知らずに今この声だけを聞いたら、本気で小夜子さんを心配してしまいそうだ。

「ひどいな、ストーカーじゃないか」

 驚いたような、怒ったような声で下田さんが言う。

 これだけ聞くと、とても普通の反応だ。

 この人も小夜子さんのストーカーだという事を除けば。

「警察の人は、私が犯人なんじゃないか疑っているみたいなの。三股かけてバレそうになったから毒入りのジュースを飲ませて殺したんじゃないかって……」

「わかってるさ、君はそんな事をする人じゃない。俺はよく知ってる」

 なんだかよくわからない茶番劇が始まった。

 犯人の下田さんに推理を突きつけるんじゃなかったのか。

 小夜子さんは一体何をしようとしているんだ。

「だけど、犯行が疑われる日に私のアリバイがあったり、捜査が進むにつれて、私が三人とほぼ交流が無い事は証明出来たわ。下田さんの言う通り、全員私のストーカーだったの」

「そうか、怖かったね」

 怯えたような小夜子さんを下田さんが慰める。

「そうしたら今度はどういう訳か刑事さんは、私がゴミ袋の中に毒を混ぜたジュースを捨てたんじゃないかって言うの。私の飲み残しならストーカーは多少変な匂いがしても、喜んで飲むだろうって……」

 なぜか、小夜子さんは追い詰められたフリをして身の潔白を訴える。

 自分の推理を披露しながら。

 そう、犯人は小夜子さんのゴミに毒入りのジュースを混ぜる事で、それを回収したストーカーに毒を飲ませた。

 ちなみに、このトリックを言い出したのは、警察の人じゃなくて小夜子さん自身だ。

 正直、何を言ってるのかわからない。

 内容を理解できないんじゃなくて、なんでそれが成立するのかがわからない。

 いや、実際タンクトップ山田さんの証言と、持っていたジュースからその通りだった事は証明されているのだけれど。

「それはまた、随分と飛躍した発想だね」

 でも、一番最初にこのトリックを考えたのは下田さんだ。

「だけど、それなら他の人にもできると思うのよ」

「他?」

 微かに、息をのむような音がした。

「私思ったの。ゴミ捨て場の防犯カメラを確認したらすぐわかるんじゃないかって」

 たっぷり間をおいて、小夜子さんは下田さんの言葉には答えずまた話しだす。

「そう、だね……」

 さっきまで余裕のあった下田さんの声が緊張したものに変わる。

 空気がどんどんピリピリした張り詰めたものになる。

 すぐ近くに隠れている僕も変に動いて音を出しちゃいけない。

 なのに、そう思ったら余計に心臓がうるさい。

「そうしたら、私の出したゴミを漁っていた人が何人かいたのだけど、中には殺された丸村さんもいたわ。でも、マスクや帽子で顔を隠している人達もいて、全員を特定は出来なかった」

「怖かったね……でも大丈夫、君には僕がついてるから」

 そう話す下田さんの声は、どこか安心したように聞こえた。

「背格好や行動パターンから、ゴミを漁っている人は五人いる事は特定できたの」

 また下田さんが黙る。

 小夜子さんは淡々と話を続ける。

「基本的に皆ゴミを持って行くだけなのに、中に一人だけゴミを混ぜていく人もいたのよ……そういえば、なんで下田さんは私がシャンプーを変えたなんて思ったのかしら。私はただボトルを変えただけなのに。食生活まで。私のゴミでも漁ったのかしら?」

「…………」

 一瞬ゆるんだ空気が、また張り詰めるのがわかった。


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