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楽しい修羅場の歩き方  作者: 和久井 透夏
第一章 小夜子さんストーカー殺人事件
6/41

1-6

 あまりの無茶苦茶加減に頭がクラクラしてきた。

「では、最初の被害者である丸村まるむらひとしさんは、あなたにとって、どんな人でしたか?」

 男の刑事さん……東雲さんが尋ねる。

 なんで、小夜子さんが最初の被害者と知り合い前提で話してくるんだろう。

「はあ、その人とは面識が無いのでわかりかねます」

「メディアには公開されていませんが、実は被害者の方達にある共通点があるんですよ」

「共通点、ですか?」

「あなたは今回の事件で死んだ蓮山吾郎さん、井上颯汰さん、丸村均さん、彼等三人をよく知っているはずです」

「蓮山さんはともかく、丸村さんや井上さんという方は存じ上げないのですが……」

 すると、ファスナーを開く音がして、その後にガサゴソと音がする。

 カバンでも漁ってるのかな?

「これは、丸村さんの生前の写真です」

「やっぱり知らない人ですね」

「彼の生前付けていた日記からは、半同棲中の恋人である“さっちゃん”なる女性との出来事が、かなり具体的に書かれています。部屋には、彼のものではない唾液と指紋がついたストローや長い頭髪があり、箪笥には女性物の下着や服、洗面所や風呂には女性物の化粧品等がありました」

 小夜子さんの言葉を遮るように東雲さんが言う。

 かなり決定的な証拠のようにも思えるけれど、もし、小夜子さんが嘘をついていないとするならば、そのさっちゃんというのは名前に“さ”がつく別の人なんじゃないか?

 小夜子さんも、自分の恋人の名前を知らないっていうのも変だと思うし……。

 まあ、何か後ろめたい事があって嘘をついているのならわからないけれど。

「そうですか。私は知りませんね」

「彼の住んでいたアパートは壁が薄く、隣の部屋の住人曰く、毎日楽しそうな彼の話し声がよく聞こえていたそうです。それがある日ぱったり聞こえなくなった。それから一週間程経って、部屋で死んでいる丸村さんが発見されました」

「それは怖いですね」

「笹川さん、六月十九日は午後五時から午後八時頃までの時間、何をやっていましたか?」

「そんな急に言われても思い出せませんが、日記を確認してみますね」

 椅子を引く音が聞こえて、小夜子さんらしき足音がパタパタと遠ざかる。

 しばらくして、パタパタという足音が戻って来た。

「お待たせしました。その日はむしゃくしゃしていて、昼頃から駅前のカラオケ店で翌日の午前まで一人カラオケをしてましたね。多分入店記録と防犯カメラに写ってると思います」

「なるほど、念のためそのカラオケ店の詳しい場所と店舗名をお聞きしてよろしいですか?」

 小夜子さんは刑事さん達にそのカラオケ店の住所や外から見た目印を教えた。

 すごく、疑われている気がする。

「では、丸村さんの次の被害者である井上いのうえ 颯汰そうたさんについてはご存じですよね?」

 相変わらず決めつけたように東雲さんは小夜子さんに尋ねてくる。

「そんな名前の人は知りませんけれど……」

「この写真に写っているのはあなたではありませんか? 井上さんの自室にこの写真が飾られていたのですが、それでもまだ彼の事は知らないと?」

 どこか勝ち誇ったような声が聞こえる。

「ああ、この人でしたか」

 平然とした小夜子さんの声。

 どうやらまた東雲さんに写真を見せられているらしい。

 こっそり窓から覗いてみたけど、椅子に座った刑事さん達の後ろ姿が見えるだけで、全く何が起こっているかわからなかった。

「では、彼との繋がりを認めるのですね」

「繋がりというか、よく行く喫茶店の常連さんですね。あとこれ、合成写真ですよ」

「えっ」

 菅原さんが驚いた声をあげる。

「ほら、よく見てください。光の落ち方が背景と違います。よく見ると井上さんと私の顔に当たる光の向きも微妙にズレてます。たぶんこれは、去年喫茶店のクリスマスパーティーで撮った写真ですね」

「は……?」

 東雲さんの困惑したような声も聞こえる。

「確か私もその写真をいただいたので、家にあるはずです。ちょっと待っててくださいね」

 また椅子が引かれる音がして、小夜子さんが今度は写真を探しに行く。

「……どう思います?」

「どう思うも何も、写真が合成だったとして現状彼女が一番怪しいのは変わりない。だが、これはかなり厄介かもしれない……」

 菅原さんと東雲さんの話し声が聞こえてくる。

 さっきの話し方からそうじゃないかとは思っていたけど、東雲さんは小夜子さんを犯人として疑っているようだ。

「厄介、ですか?」

「俺の刑事の勘が、彼女はクロだと言っている。しかし、それを立証するには一筋縄ではいかなそうだ……協力者がいる可能性もある」

 なんか刑事ドラマみたいな事言い出した。

 勘って、結局ただの当てずっぽうじゃん……。

 もしかして僕も将来、こういう粘着のされ方するの……?


 すごい嫌……。


「お待たせしました。コレですね。本来私が腕を組んでくっついてるのはこの喫茶店の女性店員さんです。そして、井上さんは写真の端の、この人じゃないですか?」

「確かに、そう見えますね……この写真、お借りしても?」

 菅原さんが尋ねる。

「どうぞ。お店に行けば、多分これと同じ写真があると思いますよ。あ、お店の場所お教えしましょうか?」

「え、ええ、よろしくおねがいします。笹川さんは、喫茶店めぐりがお好きなのですか?」

 なんとなく、菅原さんの声は戸惑っているように感じた。

「はい。仕事柄あまり外に出ないのですが、たまに気分を変えたくて外で原稿をするんです。なので、この辺の喫茶店やファミレスには詳しいんですよ」

「そうですか、ちなみに何のお仕事をされているのかお聞きしても?」

「小説を書いてます。あまり売れてないんですけどね」

「では、井上さんが亡くなった喫茶BISHAMONという喫茶店はご存じですか?」

 小夜子さんと菅原さんの会話に割り込むように東雲さんが入ってくる。

「ええ、あそこも私のお気に入りのお店の一つです。コーヒーのおかわりが無料で、ケーキも美味しいんですよ。土日は長居できないのが難点ですが……」

「なるほど、つまり彼とは複数の喫茶店で度々顔を合わせたと。しかし、そんなによく顔を合わせるのなら、たまに話したりはしなかったんですか?」

 東雲さんが勘ぐるように言う。

「特に無いですね。お店で会ったらたまに会釈する程度です」

「ちなみに二日前、つまり井上さんがお亡くなりになった日の夕方六時頃はどちらにいらっしゃいましたか?」

「その日は昼過ぎから喫茶BISHAMONで担当編集に出す企画書を書いてました。たぶんお店を出たのがそれくらいの時間です。六時前に企画書が仕上がって嬉しかったのを憶えてます」

「店内にいた井上さんに気付きましたか?」

「いえ、その日は企画書の事で頭が一杯だったので」

「井上さんはあなたが店を出てすぐ後に体調不良を訴え倒れた訳ですが、その騒ぎは気付かなかったのですか?」

「気付きませんでした。翌日のニュースでは連続不審死事件と取り上げられてましたけど、お店の名前は出ていなかったので、事件現場がその喫茶店だった事も今知りました」

「そうですか……よろしければ、あなたの指紋やDNA等を採取させていただいても? もし、あなたが丸村さんの恋人でなかったのなら、すぐにでも疑いは晴れますよ」

 どこかえらそうな東雲さんの声が聞こえる。

「お断りします。突然ニュースで報道されていた人達が自分のストーカーだった事が発覚して、恐怖と不安しかないのに、さっきから恣意的な質問ばかり……正直、あなた方は信用出来ません」

 静かに、優しいのによく通る声で小夜子さんが言う。

 声だけだと淡々と応じているみたいにしか思えなかったけど、どうやら小夜子さんもずっと東雲さん達の態度には腹を立てていたらしい。

「もちろん、笹川さんのお気持ちはもっともです。しかし、だからこそ、その疑いを晴らすことで……」

 取り繕ったような胡散臭い声で東雲さんが言う。

「その疑いを勝手にかけてきたのもそっちですよね? 正直、何を答えても、何をしてもこじつけで犯人にされる気しかしません。どうしてもというのなら、“身体捜査令状”と“鑑定処分許可状”を取ってからにしてください」

 苛立った様子の東雲さんの声を、小夜子さんが遮る。

「そんな事は決してっ……」

「もう一時間以上話していますし、この後予定もあります。そろそろお引き取りいただけますよね?」

 焦ったように言う菅原さんの言葉を遮って、小夜子さんは話を終わらせようとする。

 ……小夜子さん、かなり怒ってる。


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