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「秘密基地からあのお宝持ってったのお兄さんだよね。管理人さんがアレを欲しがるとも思えないし」
「ご、ごめん……あげたつもりだったんだけど、いざ目の前にすると急に惜しくなったんだ……いつもいつも俺は肝心な所で自分の欲に負けて全部台無しにする……」
佐藤さんの息子さんの声が震える。
よく見たら全体的にちょっと震えている。
「しょうがないよ。だってアレ元々捨てる気なんて無かったんでしょう?」
「……ど、どうして、そう思うの?」
顔を上げて、佐藤さんの息子さんは怪訝そうな顔で僕を見る。
「佐藤のおばさん言ってたよ。腰の悪いお父さんの代わりに大掃除や粗大ゴミを捨てるのもわざわざ帰ってきて手伝ってくれるって。という事は、うちのマンションのゴミ捨て場の場所も、捨て方も知ってるよね?」
「確かに、知ってるけど……」
「なら、本当に捨てる気だったら佐藤さんちのゴミと一緒にそのファイルを入れて帰るついでに敷地内のゴミ捨て場に捨てていけばいいだけで、わざわざ紙袋に入れて持ち帰る必要なんてないでしょ。結構重いし」
目の前の瞳が驚いたように見開かれる。
「……うん、そうだね」
「それに、お宝があのまま燃えちゃうよりは、残ってる方が嬉しいよ」
「由乃くん……今度こそこのファイルをを受け取って欲しい。今後はもう君と小夜子さんには近づかないし、実家にも極力戻らないようにするから……」
佐藤さんの息子さんは、見覚えのある紙袋を取り出して僕に差し出す。
正直その申し出は魅力的だったけど、僕は首を横に振る。
「お兄さんが持っててよ。もう一通り見たし、何よりそれはお兄さんが持ってるべきお宝だから」
「由乃くん……!」
佐藤さんの息子さんは感極まったように僕を見るが、あれ、この目……何か既視感があるぞ。
そう思った瞬間、小夜子さんがするりと僕達の間に入って、佐藤さんの息子さんの手を握る。
「佐藤さん、あなたのお母様はいつもあなたの事を楽しそうに話しているんですよ。ですから、実家にはたまにでいいので帰ってあげてくださいね」
「は、はい!!」
あ、これは落ちたな、小夜子さんに。
僕は妙な確信を抱いた。
「解かない方が面倒の少ない謎もあるのよ、由乃くん」
皆帰った後、小夜子さんは呆れたような笑顔で茶化してきた。
きっと佐藤さんの息子さんの事だろう。
「じゃあ、なんでさっきお兄さんが小夜子さんに土下座してたか教えてくれたら気を付けるよ」
椅子に座って聞く準備をする。
こうなったら気になる事は全部小夜子さんに聞いてすっきりしたい。
「あれは単純に私のTwitterで昨日、私の家族の大切な宝物を盗んだ人は怒らないから名乗り出て欲しい。私は自分の過ちを認めて謝れる人が好きです。みたいな事を呟いたのよ。そしたら佐藤さんが今日謝りに来たから、管理人さんや東雲さん達を呼んでまとめて状況説明をしようと思って」
まあでも、佐藤さんの息子さんがどんな人間かはわからないし、一応誰か一緒にいた方が安心なのかもしれない。
そこで東雲さん達と管理人さんを呼んで小火騒ぎの原因についても話すあたり、物のついで感があるけれど。
「そんな事で名乗り出るもんなんだ……というか、小夜子さんはなんでそんな事を?」
「由乃くんのお宝、取り戻せないかな~と思って」
「え」
意外な理由に僕は咄嗟に上手い返事が出てこない。
小夜子さんはくすりと笑ってテーブルを挟んで向かいの席に座る。
「昨日、由乃くんと現場を一緒に見に行った時点で火を付けたのは管理人さんだとわかったけど、まだ東雲さん達は気付いてなかったみたいだし、管理人さんが捕まったら一気に解決ムードでそのまま由乃くんの宝物の事はうやむやになりそうだったから……」
「あの時、そんな事考えてたの?」
「流石に由乃くんのお宝を盗んだのは誰だかわからなかったの。でも私の住んでるマンションで、由乃くんの宝物を盗むなら、私のTwitterをチェックしてるストーカーさんなんじゃないかと思って」
「そうだったんだ……」
まさか、小夜子さんがそんなに僕の事を気にかけてくれていたとは思わなかった。
「でも、宝物を突き返すとは思わなかったわ」
「確かにお兄さんには下心もあったのかもしれないけど、アレがお兄さんにとってどんなに大切な物だったのか気付いたら、もうもらう気になれなかったんだ」
「そう」
小夜子さんは優しく目を細める。
僕はなんだかそれがくすぐったい。
「でも、小夜子さん僕のお宝を取り戻そうとしてくれてありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
ちょっと恥ずかしいけどお礼を言ったら、小夜子さんは満足そうに笑った。
秘密基地が燃えてから一週間後、管理人さんが犯人だった事は箝口令が敷かれて、表向きは健康上の問題で退職という事になった。
佐藤のおばさんは相変わらずよく話かけてくるし、話からすると特に変わり無いようだけど。
梨央と凪には盗んだ犯人からお宝を取り返したけど、佐藤さんの息子さんにやっぱり返して欲しいと頼まれたので返したと伝えた。
二人とも何で渡しちゃったんだもったいないと言っていたけど、
「お兄さんもそう思ったんだよ」
と言ったら渋々、納得してくれた。
そして、最近は僕の部屋でよく遊ぶようになった。
外の秘密基地は魅力的だけど、誰が見てるかわからない。
僕の部屋なら、少なくとも全くノーマークの人間から覗かれたり盗聴される事はない。
冷暖房完備でネット回線も強い。
「は!? 今のクイックショット当たるの……」
「すげー! 由乃のエイムハンパないな!」
「パソコンだとカーソル合わせて打つだけだから慣れるとそっちより快適だよ」
最近の僕達のお気に入りはクロスプラットフォームのFPS、ざっくり言うと携帯ゲーム機やパソコンからでも一緒にチームを組んで遊べるキャラクター視点のシューティングゲームだ。
「慣れるほど家じゃパソコン触れないんだよなぁ……」
「俺はこのゲーム機での動きを極める!」
梨央は絶交だなんだと騒いでいたけど、次の日そわそわしながら僕と凪をチラチラ見てきたので前日に判明した事件の顛末を説明したら、案外あっさりと謝ってきた。
自分でも言い過ぎたと思ってたらしい。
その後僕の家でこのゲームを一緒に遊んだら二人ともすっかりはまってしまった。
今はここが僕達の秘密基地だ。
第四章はこれにて完結となります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
第五章の連載は未定ですが、準備でき次第活動報告で告知いたします。




