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楽しい修羅場の歩き方  作者: 和久井 透夏
第四章 秘密基地放火事件
39/41

4-6

 翌日の放課後。

「凪だろ、俺達の秘密基地に火を付けたの」

 梨央が振り向いて、凪を睨む。

「は? するわけないじゃん。証拠でもあんの?」

 不機嫌そうに凪が言って、辺りに緊張が走る。

 通学路から少し外れた橋の下、てっきり僕は昨日燃えた秘密基地について三人で話し合うのかと思っていたけど、どうやら梨央はもっと踏み込んだ話をしたかったようだ。

 犯人捜しをしたい気持ちはわからないでもない。


 でも、なんでその結論になった!?


 僕は驚いて目の前の梨央と隣にいる凪を交互に見る。

 出火原因はボイスレコーダーの破裂なのに。

「あの場所を知ってるの俺達三人だけなんだぞ! 昨日一緒に遊んでた俺と由乃以外に火を付けられるのは凪だけだ!」

「俺、いつも水曜日は塾に行ってるって知ってるよね」

「そんなの、早めに帰ってくれば……」

「秘密基地を燃やして俺になんか良い事あんの?」

 凪が梨央の言葉を遮れば、梨央も言葉に詰まる。

「……お宝」

 だけど少しして梨央はもう一度、凪を睨む。

「……何?」

「そうやって秘密基地の中身全部燃えた事にしてお宝を独り占めするつもりだろ!」

 梨央が言い切った瞬間、凪の右ストレートが梨央の顔面に直撃した。

「ふっざけんな!」

 そのまま殴りかかった凪と負けじと殴り返した梨央の取っ組み合いになり、慌てて僕は仲裁に入る。

「ふ、二人ともやめてよ! 凪がそんな事するはずないよ!」

「なんで由乃は凪の味方するんだよ! せっかくのお宝が無くなったのに……!」

「お前が勝手に言いがかりを付けてるだけだろ!」

「はあ~!?」

 二人とも頭に血が上って更に言い合いは酷くなっていく。

「梨央も凪も落ち着いて……わっ!」

 ちょうど梨央の振り向いた拳が僕に当たって、僕は後ろにしりもちを付く。

「あ……」

「由乃!」

 途端に梨央はやってしまったという顔になって、凪が心配したように僕の前にしゃがむ。

「……梨央、僕も秘密基地で遊べなくなったのは悲しいけど、それは凪のせいじゃないと思う。だって……」

「あーあーそうですか! ……勝手にしろよ、お前らなんかとはもう絶交だ!」

 僕が言い終わるより早く、梨央は泣きそうな顔でそう捨て台詞を残すと、そのまま走り去ってしまった。

「梨央!」

「あんな奴、放っておいたらいいんだ」

 追いかけようとした僕の腕を凪が引き留める。

 ランドセルを背負った梨央の後ろ姿が見えなくなると、凪は僕の腕を解放して梨央が歩いて行ったのとは反対側へと歩き出した。

「な、凪っ!」

「ごめん、今日はもう一人にして……」

 そう言って、とぼとぼ歩いて行く凪の姿は寂しそうだった。

 あの様子だと、昨日梨央と凪の家に東雲さん達は来なかったらしい。

「どうして……」

 こんな事になってしまったのか。

 その後、僕はいつも通りの道を歩いて一人でマンションに帰った。

 梨央も凪も同じマンションに住んでるから帰る場所は同じはずなのに、梨央も凪も見かけなかった。

 マンションに着くと、周りに人がいない事を確認してから黒い字で立ち入り禁止と書かれている黄色いテープの前に立つ。

 そのまま家に帰る気になれなくて、また秘密基地に来てしまった。

 テープをくぐって狭い入り口から中を覗けば相変わらず秘密基地の中は酷い有様だ。

 当然お宝の姿も無い。

 梨央は秘密基地からお宝が無くなっていた事を知っていた。

 きっと梨央も昨日現場検証が終わった後ここに様子を見に来たんだ。

「でも、良かった」

 燃えカスも何も見つからない所を見ると、お宝は燃える前に持ち出されている。

 つまり、お宝は無事という事だ。

 だからもし犯人を見つけられればついでに盗まれたお宝も返ってくるかもしれない。

 秘密基地が燃えてしまったのは悔しいけど、お宝が無事ならまだ……と考えて、僕は気付く。

 あれを持って行ったという事は、あのカードが収納されたクリアファイルを見てお宝、つまり価値のある物であると認識出来る人間だ。

 でも、一体誰が……。

 まさか犯人の本当の目的はあのお宝で、無くなったのをごまかす為に火を付けたとか……?

 いや、それこそ一歩間違えたら大惨事だし、小学生の秘密基地からお宝を盗むだけならそんな事する必要全く無い。

 普通に僕達がいない時間帯に秘密基地に行って、ただ持って行けばいいだけだ。

 ますますわからなくなってきた僕は、一旦家に帰る事にした。

 中庭へ抜ける。

 ここであのお宝をもらったんだよな、と思い出して立ち止まる。

 あれ、なんかおかしくないか?

「どうしてあの時、佐藤さんの息子さんは……」

 その時僕の中に湧いたのは、疑問と少しの罪悪感だった。

 いや、僕の気のせいかもしれない。

 そう思いながら僕は家へ向かう。

 家のドアを開けると、玄関になぜか沢山の靴が並んでいた。

「すいませんでしたぁぁぁ!!!!!!」

 奥から男の人の大きな声が聞こえてきて、何事かとリビングに駆けつければ、佐藤さんの息子さんが小夜子さんに向かって土下座している。

 周りには東雲さん、菅原さん、管理人さんの三人もいる。

「何があったの!?」

 どういう事だ、少なくともこの人は放火犯では無いはずなのに。


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