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楽しい修羅場の歩き方  作者: 和久井 透夏
第四章 秘密基地放火事件
38/41

4-5

「由乃くん、何か知ってるのかい!?」

 東雲さんがテーブルから身を乗り出して僕へ詰め寄る。

「えっと、未梨亜さんっていう小夜子さんの知り合いがこの前持ってたよ……」

「そのボイスレコーダーの大きさというのは、これくらいでしょうか?」

 勢いに驚きつつ、なんとか僕が答えれば、小夜子さんが両手の人差し指と親指を作って長方形の形を作る。

「はい、そうです! その人と連絡は付きますか!?」

 元気に東雲さんは尋ねる。

「ああ、それなら今日はしばらく連絡付かないと思いますよ。夕方から太客のお客さんが来るとかで」

「……その人は何のお仕事をされているんでしょうか」

 急にトーンダウンして東雲さんは僕の方をチラチラ見ながら未梨亜さんの職業を確認する。

 そういえば、未梨亜さんは何の仕事をしているのだろう。

「耳かき屋さんです」

「耳かき屋」

 小夜子さんの言葉に東雲さんが不思議そうな顔で聞き返す。

「好きな女の子を指名して耳かきをしてもらえるお店です。今日はその未梨亜先輩のお店に行ってたんですよ。どんなものかなと思って」

「……それは、いつ頃でしょうか?」

「一時から120分コースですね。せっかくならフルでやってもらおうと思って。中々良かったです。ちょっと待っててくださいね」

 そう言って小夜子さんは一度席を立って財布を持って戻ると、中から紙製のカードを取り出して東雲さんに渡す。

「このお店です」

「確かに今日の時間ですね……このナツミというのがその未梨亜さんの源氏名ですか?」

 東雲さんが開いた二つ折りのカードを横から確認した菅原さんが尋ねる。

「ええ、せっかくなのでオプションで写真も撮ってもらったんですよ」

 小夜子さんは財布からさらにポラロイド写真を取り出してテーブルの上に置く。

 写真にはものすごく笑顔の小夜子さんと浴衣姿の未梨亜さんが写っていて、左下には金色のサインペンでナツミ、とサインされている。

「未梨亜さん、笑顔引きつってない?」

「あら、NG行為は一切してないわ。むしろお店の売り上げとナツミさんの人気に貢献してるわ」

「確かにそうなんだろうけど……」

 未梨亜さん的には小夜子さんに接客するのが嫌なんじゃないかなぁ、とは思う。

 それにしても、源氏名の方が本名っぽい。

 でも、これで秘密基地で出火した時間帯の未梨亜さんのアリバイが証明された。

「あのボイスレコーダーは盗聴、長時間録音とかで検索すると通販サイトで一番上に表示される上に手頃な価格で集音力も高いそうなので、盗聴用品として人気みたいです」

 さらっと小夜子さんは説明するけど、なんだ人気の盗聴用品って。

「……では、この未梨亜さんは最近そのボイスレコーダーを紛失したりしていませんか?」

 神妙な顔で話を聞いていた東雲さんが、急に何かに気付いたような顔になる。

「さあ、そこまでは。一応メッセージを送って聞いてはみますけど」

「よろしくお願いします。もしかしたら犯人は小夜子さんの周辺人物に嫉妬したストーカーかもしれません……」

 つまり、嫉妬に駆られて未梨亜さんや僕の周りに現れて私物を盗んだりよく行く場所で問題を起こしたりとストーカーまがいの行動をする小夜子さんのストーカー……なんだかややこしくなってきた。

 でも、その時僕はある可能性に気付いてゾッとした。

 小夜子さんの周りの人間に危害を加えるというのなら、梨央や凪も僕のとばっちりでそれに巻き込まれるかもしれない。

 それに、僕は魅了体質だ。

 もし今回はなんとかなっても、今後僕のせいで梨央や凪に迷惑がかかるかもしれない。

 怖かった。

 その事が原因で梨央や凪に嫌われたりしたら、どうしよう。

「ねえ、小夜子さん」

「大丈夫よ、由乃くん。ところで今回の事で怪我人は出ていませんか?」

 僕の気持ちを知ってか知らずか、小夜子さんは優しく僕の頭を撫でる。

「火に気付いて初期消火に当たった管理人の方が消火器を取りに行く途中で転倒して怪我をしましたが、右手を擦りむいたそうですがそれ以外に怪我人はいません」

「でも土とか粉で汚れてボロボロだったよ」

 つい菅原さんのよこから口を挟んでしまう。

 管理人さんは白髪のおじいさんだけど、背が高くていつも背筋を伸ばしてチャキチャキ動いていたから、あの姿は見ていて痛々しかった。

「それは心配ね、でもおかげで大惨事は免れたから感謝しないと……」

 僕は、ふとある事を思い出しす。

「あの……」

「どうしたんだい? 由乃くん」

「あの、アレ、どうなりましたか? 漫画雑誌とかと一緒にあったクリアファイルで、中にカードが入ってたんですけど……」

 管理人さんが慌ててあんなにボロボロになるくらいの燃え方なら、全部燃えてしまったかもしれないけど、出火原因のボイスレコーダーの位置によっては中身のカードは無事かも知れない。

「クリアファイル? いや、そんなものなかったと思うけど」

 東雲さんは怪訝そうな顔で首を傾げる。

「そんなはずないです!」

 思わず大きな声が出た。

 そんなはずない、だって、僕と梨央は今日、スーパーに奇々怪々チョコを買いに行く直前まで秘密基地で例のお宝を鑑賞して、確かにクッションの上に置いて出かけたのだから。


「そんなに気になるなら、今から見に行ってみる? 私も現場を確認したいし」

 東雲さんと菅原さんが帰った後、僕は小夜子さんの言葉に頷いて、二人で秘密基地に向かった。

 秘密基地は黄色いビニールテープが貼られて立ち入り禁止にされていたけど、くぐって中に入る。

「なんで……」

 ランタンで秘密基地の中を照らした僕は、唖然とする。

 秘密基地に置いてた漫画雑誌やクッションは燃えて真っ黒になってたけど、燃えカスとして確かにその場に残っている。

 配置も僕が梨央とスーパーに出かけた時のままだ。

 なのに、なぜかお宝のクリアファイル三冊だけが、きれいにその場から消えていた。


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