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楽しい修羅場の歩き方  作者: 和久井 透夏
第四章 秘密基地放火事件
36/41

4ー3

 前日。

「よし、佐藤さんも管理人さんもいない」

 凪が駐車場へ向かう階段の壁の隙間から確認する。

「こっちも中庭周辺に人影はないな」

 梨央が凪より少し上に階段をのぼった場所から別の方向を確認する。

「行こう!」

 僕は意を決して駐車場からの出入り口のドアを開け、凪と梨央もそれに続く。

 管理人さんに釘を刺されて以来、僕達は秘密基地への出入りには最新の注意を払うようになった。

 近くに人の気配があれば、それがなくなるまでやり過ごすようになったし、誰も見ていなくてもできるだけ秘密基地周辺では音を立てないように気を付けた。

 音を立てないようにドアを閉める。

 後はこのまま中庭を突っ切ってマンションの建物内へ入るだけだ。

 そう思った時、佐藤さんの家のドアがガチャリと開いた。

 凪と梨央はそれぞれ素早く植え込みの影に隠れる。

 僕達は慌てず事前の打ち合わせ通り、辺りを見回して何かを探しているようなフリをする。

 突然佐藤さんが出てきて気付かれずに逃げられそうもない場合は中庭で鬼ごっこやかくれんぼをしてるフリをしてごまかす事にしている。

 今までは普通に会ったら話してたのに、急に逃げていくのも怪しまれそうだと考えたからだ。

 だけど、ドアから現れたのは佐藤さんのおばさんじゃなくて、紙袋を持った知らない男の人だった。

「あれ、君は……」

 お兄さんは僕と目が合って驚いたような顔になる。

 この人と会った事あったっけ?

 というか、なんでこの人は佐藤さんの部屋から出てきて……その時僕は日頃の佐藤さんの発言を思い出す。

「あ、佐藤さんの息子さん?」

「えっ、うん……」

「やっぱり! 佐藤さん、よく僕達にお菓子とかくれるんだけどよく息子さんの話してたからそうなんじゃないかなって思ったんだ」

 お兄さんはどこか警戒したように頷くけど、僕は自分の推理が当たってテンションが上がる。

 もっとこの人の事を推理して言い当ててやろうと僕は側に歩いていく。

「そ、そっか……ちなみに俺の話って、どんな話してた?」

 佐藤のおばさんの話を出すとお兄さんはどこか納得したような様子で紙袋を足下に置いて僕に目線を合わせるように屈む。

 その顔はどこか緊張しているような、怯えたような感じだ。

「えーっと、大掃除とか粗大ゴミ捨てたりの力仕事を腰の悪いお父さんの代わりにわざわざ帰ってきて手伝ってくれるとか、お父さんの若い頃にそっくりでイケメンで優しい子に育ったとか、せっかく良い学校を出て良い会社に就職したのに昔から彼女のかの字も聞いた事ないとか、お父さん似だしハゲる前に結婚して孫の顔を見せて欲しいとか言ってたよ」

 僕が佐藤のおばさんの話を思い出しながら言えば、たちまちお兄さんの顔はげんなりした顔になって中腰の状態だったお兄さんはそのまましゃがみ込んでうなだれる。

 その表紙に紙袋が倒れて、中からクリアファイルがいくつか外に出る。

 僕は透明の表紙に透けて見えるその中身に驚く。

「つら……」

「え、大丈夫? ……ところで、その中身、もしかして奇々怪々チョコのカード?」

「え?」

 僕がお兄さんの足下に落ちているファイルを指さして言えば、お兄さんはきょとんとした顔で僕を見る。

「僕も集めてるんだよ、ほら」

 ポケットの中から今日引いたカードを取り出してお兄さんに見せる。

 するとお兄さんはクリアファイルを紙袋にしまった後、僕に差し出した。

「……よかったらいるかい? この中身、全部そうだから十年以上前の第一弾のカードから第五弾までのカードが全部揃ってる」

「え!? でも、大切な物なんじゃないの?」

「昔はそうだったんだけどね……今は実家に置きっぱなしで。でも捨てるのももったいない気がして、処分できずにいたんだ。どうせならこのシリーズが好きな人にあげたいって思ったんだ。このままならどうせ捨てるだけだし」

 寂しそうにお兄さんが言う。

「捨てるなんてもったいないよ、こんなお宝!」

 しかも、十年以上前の初期のカードって事は、もう普通の店じゃ手に入らない超レアカードじゃないか!

「そう言ってくれる子にもらってくれたら俺も嬉しいよ」

 お兄さんは静かに笑うと、僕に紙袋を持たせるとそのままマンションの正面玄関がある方へと向かって歩きだす。

「あ、ありがとう! ……ございます!」

「うん」

 慌ててお兄さんの背中に向かってお礼を言えば、お兄さんは後ろ手に手を振ってそのまま言ってしまった。

 思いがけない出来事に呆然としてると、すぐ隣で声がした。

「由乃、どんなカードもらったんだ?」

「俺も見たい」

 隠れていた梨央と凪が膝や尻に付いた砂をはらいながら僕の所へやって来る。

「僕も見たい」

 もう一度僕達は秘密基地に戻ることにした。

 三人ともそろそろ帰る時間だけなので、ちょっとだけ見るつもりで。

 結果、気がついたら三十分経過していて流石にそろそろ帰らないとまずいと僕達は秘密基地に広げていたカードを片付ける。

「そうだ。このカード、秘密基地に置いて僕ら三人のものって事にしない?」

「え、でも由乃がもらったのに……」

 僕が提案すれば、凪が不思議そうな顔をする。

「もらったのは僕だけど、多分鬼役になってたのが僕以外でももらってただろうし、何よりこのお宝は皆で鑑賞する方が絶対楽しい。僕、二人とこのカードの設定とか色々話すの好きだし」

「由乃……俺なら絶対独り占めしてる」

「俺も……」

 凪と梨央はそう言って笑った。


 ……そして当日。

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