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楽しい修羅場の歩き方  作者: 和久井 透夏
第二章 ドッペルゲンガー殺人事件
14/41

2-2

「でしょう? それならいっそ共存していく道を探った方が賢明だわ」

「なるほど……ところでさっきから何書いてるの?」

「今日の日付と見つけた時の時間と状況。それと盗聴器の種類ね。日記の記録も合わせる事で後から照合が可能よ」

「盗聴器の、種類?」

「ええ。盗聴器にはいくつか種類があるの。アナログ型、録音型、デジタル型の三種類が今は人気ね。他にも色々厄介な種類もあるけれど、それは追々教えるわ」

「そ、そうなんだ……」

 盗聴器にも人気とかあるのか。

「アナログ型は電波で盗聴した音を受信機に送信するタイプで、さっきみたいな発見機やFMラジオでも発見可能よ。でも電波が十メートルから百メートル位しか届かないから、コレを見つけた場合、少なくとも受信機は近くにあるし、犯人もいる可能性は高いわ」

 一つ三万円前後と、無線機型盗聴器としては比較的安価よ。

 なんて、ニコニコしながら小夜子さんは言ってくる。

 見つけた瞬間、犯人が近くにいるかもという盗聴自体とは別の恐怖を感じそうだ。

「次に録音型。ICレコーダーとかも似たような使い方ができるわね。非常に小型な物も多いわ。録音した後は必ず回収する必要があるけど、服の裏に縫い付けたり、小物に忍ばせたりできるし、発見機では見つけきれないから厄介ね」

 ちなみに録音型なら三千円以下で手に入るものもあるみたい。

「これが部屋に仕掛けられていた場合、十中八九顔見知りの犯行よ」

 それはそれで嫌だ!

「最後にこのデジタル型。携帯電話やスマホを改造して作られたもので、電波が届く場所なら大体使えるし、どこからでも拾った音声も聞けるわ。普通の発見機ではまず発見できないわ」

 一つ五万円から十万円するらしいわ。

 由乃くんが大きくなる頃にはもっと安く手に入るようになって、このタイプが主流になるんじゃないかしら。

 なんて付け加えつつ、小夜子さんはビニール袋に入れられた盗聴器とバッテリーを見る。

「でも、初犯でいきなりそんな高価なものを、バッテリーを追加してできるだけ長く盗聴できるようにしていたとはいえ使い捨てにしてくるなんて、どんな人だと思う?」

「えっと……すごく小夜子さんの事を知りたがってる?」

「それはストーカーさん達皆そうだけれど、少なくともこの人、金遣いが荒そうね。お金を持ってるんだかどんぶり勘定なんだかわからないけど、お金に糸目を付けない人が悪いストーカーさんになると、厄介ね」

「いや、悪い悪くないとか経済力以前にストーカーをするような人間って時点で厄介だと思うけど……」

「そういえばそうね。まったく、魅力的過ぎるのも困りものね」

 わざとらしく肩をすくめると、小夜子さんはメモを書き終わるとビニール袋に盗聴器とメモを入れてシーラーで閉じ、それを発見機を取り出したのと引き出しにしまう。

 引き出しの中を覗き込めば、同じようにビニール袋に入れられた小さな機械がいくつも入っていた。

「それは、ストーカーさんを訴えるための証拠品?」

「それもあるけど、犯人を特定出来る事なんて稀よ。まあそれはそれとして、これには別の使い方もあるわ」

「別の使い方?」

「個人的に犯行の証拠を収めたい時にちょうどいい小型カメラやマイクが無料で手に入ったと思えばこれもある種の差し入れのように思えてくるわね。後はこれをストーカーさんの家の前に置いて警告したりとか」

「……そっか」

 楽しそうに話す小夜子さんに、僕はこれ以上何も言うまいと思った。


 それから僕達は差し入れを片付けて、やっと三時のおやつに向かう。

 目的の喫茶店に着く頃にはもう四時になりそうだったけど。

 僕達は店の奥にある壁際の席に座る。

 店内は人がまばらで、僕達の近くに他のお客さんはいない。

 空調が効いたひんやりとした店内は、汗が冷えてむしろ寒いくらいだ。

「ねえ由乃くん、私達が一番警戒しなきゃいけないのはどんな人かわかる?」

 桃のフルーツパフェを頼んだ小夜子さんは、チラチラとこちらを見てくる店員のお姉さんへにこやかに手を振りながら聞いてくる。

「それは、魅了体質の人間がって事?」

「ええ。十人中八人の好意的な人間、一人の無関心な人間、一人の熱狂的な人間、私達にとって一番危険なのはどんな人?」

「そんなの、熱狂的な人じゃないの?」

 現に小夜子さんは結構なストーカー被害に遭っているようだし。

 僕が答えれば、小夜子さんは静かに首を横に振った。

「熱狂的な人間は慣れてくれば思考が読みやすい分対処が楽だわ。私達が足下をすくわれるとしたら、好意的な顔して寄ってくる無関心な人間の方よ」

「無関心なのに、好意的な顔をして寄ってくるの?」

「なぜだかわかる?」

「ええっと、魅了体質の人間は目立ちやすいから……好きな子を取られたとか、自分が目立ちたいからとかの理由でこっそり嫌がらせしてくるとか」

「まあ、そういう人もいるかもだけど、その場合大体周りの取り巻きの子が感付いて大事にはならないわ」

 取り巻きがいる前提なんだ……。

「その程度ならまだ可愛いけど、中には魅了体質を人を騙したり悪い事に利用しようとする悪い人もいるわ」

 小夜子さんの声が少し低くなる。

「しかも質の悪い事に、こちらに大して好意を持ってない分、状況に応じて冷静に立ち回れるから、うっかりそんな相手に新鮮さを抱いて恋心を抱いてしまうと地獄を見るはめになるって、おばあちゃんが言ってたわ」

「おばあちゃんに一体何があったの……」

 僕が小さい頃に死んでしまったので、僕はあまりおばあちゃんの事をよく知らない。

「正確には何かあったのはおばあちゃんの一代前の魅了体質の人みたいなんだけど、宗教団体の教祖様にされてたらしいわ。その人の死後少し経って魅了体質を発現させたおばあちゃんは、後継者になるようしばらく付きまとわれて大変だったみたい」

「そうなんだ……」

「まあ、家系図を辿ると元々神社とかやってたみたいだから、魅了体質を利用して信者とお布施を集めるというやり方は割と昔からあったみたい。だけど、それは今の時代には合わないわ」

 水の入ったグラスのふちを指でなぞりながら小夜子さんは言う。

「別に将来由乃くんが何かしらの宗教団体を立ち上げる事になったとして、私は別に止めるつもりは無いわ。だけどね、その場合由乃くんが生きている間は良くても死後の後継者問題が出てくるのよ」

「僕は教祖になるつもりないけど、もしそうなったら次の代の魅了体質の子に迷惑がかかるって事?」


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