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実際その言葉の通りにタンクトップ山田さんが自分のストーカー行為のおかげで命拾いしてしまっているのが悩ましい。
いや、そもそも小夜子さんのストーカーなんてやってなければ毒入りジュースを飲みそうになる事もなかったんだけど。
「というか、小夜子さんは普段そんなにストーカー被害に遭ってて、警察に相談に行ったりしないの?」
もうストーカーとの共存とか言わないで、片っ端から通報した方が早いような気がする。
第一、なんで自分のストーカーの命をわざわざ守ろうとするんだ。
きっと、僕なら見殺しにしてしまう。
「悪質なストーカーさんであるという証拠があって、身の危険があると証明出来ないと基本的に警察は動いてくれないのよ。それに、相談した警察の人が私に魅了されちゃう事もあるし」
八方塞がりだった。
でも、それなら……。
「じゃあ、僕はどうしたらいいの?」
僕は頭を抱えた。
小夜子さんはなんだかんだ自分の考えを元に楽しく暮らしているみたいだけど、僕は小夜子さんみたいになれる自信は無い。
皿の中のシリアルはすっかり牛乳を吸ってふやけている。
ふやけたそれは、目の前でスプーンにすくわれて、僕の口の前に差し出された。
スプーンを持っている手を辿れば、いつの間にか僕のすぐ隣に小夜子さんが来ていた。
「それをこれから私と一緒に考えるのよ」
「小夜子さんが全部教えてくれるんじゃないの?」
「同じ魅了体質でも時代や環境、性別や性格で同じ事をしても結果やその捉え方が変わってくるから、由乃くんのやり方は由乃くんがこれから見つけていくの。私にできるのはそのお手伝い」
にっこりと小夜子さんが笑う。
「手伝い?」
「ええ」
聞き返せば、小夜子さんは頷く。
頷いて、目が合った瞬間に小夜子さんは僕の唇に、スプーンを押し当ててくる。
今にも牛乳がしたたりそうで、慌てて僕は口を開ける。
ふやけきったシリアルはほとんど噛まずに口の中から消えていった。
僕の喉がゴクリと音を立てると、目の前にある桃色の唇が満足そうに弧を描く。
小夜子さんは顔にかかった髪を耳にかけながら、ゆっくりとした動作でスプーンを僕の皿に戻す。
たったそれだけの動作に、なぜだか視線が惹き付けられてしまう。
「由乃くんが自分のやり方を見つけて大人になった時、魅了体質を発現してしまった子が現れたら、今度は由乃くんがその子のやり方を見つけるお手伝いをしてあげてね」
自分の事で手一杯どころか、小夜子さんの日常を見ているだけで度肝を抜かれている僕にそんな事を言われても……。
「なんだか先の事過ぎてわかんないや」
「そうね。でも、由乃くんが自分の魅了体質とのより良い付き合い方を見つけてくれたなら、きっと次の子にも良いヒントになるわ」
まあ、由乃くんが生きている内に次の魅了体質の子が現れるとも限らないんだけどね。と小夜子さんは付け足す。
つまり、小夜子さんのストーカー達への対応も僕へのヒント?
「ねえ、どうして小夜子さんは自分をストーカーしてくる相手にも丁寧に対応したり、助けようと思えるの?」
僕が質問すれば、小夜子さんはニッコリと笑う。
「私が一目見たら人生を狂わせてしまうくらい魅力的過ぎるのが原因なんだもの。ある意味ではストーカーさん達も被害者だわ。哀れな子羊に手を差し伸べるのも、モテる者の義務よ」
「んん?」
自信たっぷりに良い事を言っている風の雰囲気だけど、なんか違う気がする。
「ええっと、それは、ノブレスオブリージュってやつ?」
「あら、由乃くんよく知ってるわね」
意外そうに小夜子さんは言う。
「この前アニメでやってた」
「そうなのね。でも、私がさっき言ったモテる者っていうのは、貴族じゃなくてモテモテな人気者の事よ」
つまり、また小夜子さんの言葉遊びか。
「いわゆる、ファンサービスね」
「ファンサービス……」
「私、魅了体質が発現する前から周囲がざわついて噂になる程の美少女だったから、大人や子供含めて慕われなかった時が無いのよね」
小夜子さんの言葉に、急に小学校に上がる前の、小さい頃の記憶が蘇る。
……そうだ、小夜子さんは親戚の集まりでいつも大人にも子供にも大人気で、僕もよく小夜子さんの後をついて回っていた。
そして、子供同士で誰が将来小夜子おねえちゃんと結婚するのかでケンカして、一番小さかった僕は、よく小学生や中学生の子にあっさり負けて泣かされる。
でも、その度に小夜子さんに泣きついたりちくったりして甘えていた。
小夜子さんはいつも僕を甘やかしてくれたし、なんだかんだで他の子達との仲も取り持ってくれる。
そんな時、小夜子さんは決まってニコニコと優しい笑顔で、こんな風によくわからない事を言っていて、僕はなんだかそれがとても立派で徳の高い事を言っているのだと思っていた。
そして現在、また小夜子さんのありがたい言葉に耳を傾けてみる。
「私にとって誰かから好かれる事は生まれた時からの日常だし、悪い気もしないのだけれど、そのせいで私を好きな人が道を踏み外すのは可哀想だし悲しいわ」
慈悲深い微笑みを浮かべる小夜子さんは、見た目だけだとまるで聖母か菩薩のようだ。
だけど、なんか……。
「自己肯定感、高すぎない……?」
いや、状況的に何も間違った事は言っていないのだけど。
実際、ストーカー被害に悩まされたり、それが原因のトラブルに巻き込まれても、ちゃんと自分で解決出来ている。
更に自分のゴミを漁ってるストーカーにも情けをかけて、死を悼んだり命を救おうとしたりしている。
確かにそれは、とても立派で徳の高い事のようにも思えるけど。
「むしろ、なんで私が私を否定する必要があるの? だって、私よ?」
小夜子さんは不思議そうに首を傾ける。
「でもそうね。由乃くんはまだ魅了体質が発現したばかりで、自分の事を前向きに受け入れられないのね……でも大丈夫! 由乃くんもきっとこの魅了体質を楽しめるようになるわ!」
力強く小夜子さんが僕を元気付けてくる。
「う、うん……」
なんだろう、この人、ちゃんと話してみると色々と規格外過ぎて話がかみ合わない。
とんでもない人の所に来てしまった。
だけど、理解出来ないと思う一方で、僕はそんな小夜子さんの生き方は確かに楽しそうだなと思ってしまった。




