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中2-冬(3)

 落書き犯だということを認めた夏喜たちは、被害に遭った店舗やマンションに謝りに行った。

 諸星がバイトしているディスカウントショップにも来て、顔の怖い店長にビビりながらも謝った。夏喜たちが丁寧に謝ったおかげか、店長が怒ることはなかったという。

 そんな話しを、空也から聞いた。

 翼はつい先ほど、空也と諸星が会っていたことを知った。

「さくらちゃんにメルアドを聞いて、直接連絡した。んで、先週会ってきた」

 会わない方がいいと思っていたのに…。

「話してみたけど、想像していたより面白い人だったな」

「得体の知れない何かを感じなかった?」

「若干、感じたけど、特に不安になるようなことはなかった。さくらちゃんが付き合うのも納得」

「ホントかよ…」

「…落書きの犯人が夏喜君たちで残念だったね…」

 話題を逸らされる上に、聞きたくない話しをされる。

「…そうだね」

「思ってより怒ってないな…」

「それ以上に、不安なことがあってね」

「聞かせて」

「…全て終わってからね」

 自分の部屋に戻り携帯電話を確認。タイミング良く杜都からメールが届いた。

『例のものが来たよ。今から、翼君の家に行っていい?』

 不安が更に大きくなる。見たいような見たくないような…。いや、どんな内容でも全て受け入れるつもりだ。

 翼は早速杜都に返信した。

『俺が杜都の家に行く』



 二人は、部活帰りの夏喜を待ち伏せした声をかけた。話すのは、落書きを自供した日以来なためか、夏喜は驚いた表情を見せた。

「岸川君に用件があるんだけど、時間はいいかな?」

「いいけど…」

「じゃあ、今から杜都の家にレッツゴー!」

 向かっている間、何とも言えない空気が流れた。今から話すことで、余計空器が悪くなりそう。翼はそんなことを思っていた。

 杜都の家に着くと、玄関前に二人の男性がいた。

 諸星と空也だ。

「兄ちゃんが何でここに…」

「杜都君にお呼ばれされてね」

「僕が呼んだのは、諸星さんだけです」

「俺が呼んだ」

 一斉に諸星を見る。

「今回の事件、空也の家も被害に遭っているから、話しを聞く権利があると思って連絡した」

「俺も、まさかヒデから連絡をもらうとは思わなかったわ」

 いつから、名前で呼ぶ関係になったんだ。俺なんて、未だに杜都から君付けだし。


「寒いから、中に入ろう」

 杜都に促され、中に入った。リビングに通された一同。空也はキョロキョロしながら、リビングを見ている。

「結構、広いな…樹志花はいないのか?」

「バイトです。例のアレを持ってきますので、待ってて下さい」

 杜都は自分の部屋に入り、すぐさま戻ってきた。

「封筒?」

「差出人を見て下さい」

 杜都と翼以外は封筒を覗き込む。途端、夏喜が驚いた表情で杜都を見た。

「文香と連絡を取っていたのか!?」

「今回だけだよ」

 翼が空也と諸星に文香が誰なのか説明する。

「今回の落書き、納得しかないことが多くてね。特に動機。光のページェントを盛り上げるためって、他にも方法あるんじゃない」

「あの時は、落書き以外思いつかなかったんだ」

「もしかしたら、他に理由があるんじゃないかと思ったとき、一人の名前が浮かんだんだ」

「それが、文香…」

「転校する前に、『仙田大好き』とか泣いていたのを、翼君たちが話していたのを思い出して、今回の落書きと関係があるんじゃないかと、こちらから手紙を送ったんだ」

「文香の住所は俺が教えた」

 あの時、「牧文香の住所を教えて欲しいって」言われ、翼は驚きよりも不安を先に感じ取った。知らなくていいことを知るんじゃないかと。

「返信が来ないことも予想したけど、ちゃんと返事が来た。中に手紙が入っているから、読みたい人はどうぞ」

 夏喜は読むことを拒否した。空也が封筒の中から手紙を出して読んだ。次に諸星。翼は一度手紙を読んだが、もう一度読むことにした。


 手紙の内容を簡単に要約すると、最初に落書きをしたのは文香。仙田を離れたくないなかった。友達と光のページェントが見たかった。その思いが強く、ついマンションの壁に黄色の丸の落書きをしてしまった。マンション以外にも、3店舗ほど落書きをし、その様子を夏喜に見られた。「俺がどうにかする」。引っ越し前に、夏喜に言われ、安心よりも不安の方が大きかった。


「もし、今回の落書きで夏喜君たちを責めるのではなく、私を責めて下さいだってさ…馬鹿馬鹿しい」

「ヒデ、怒るなよ」

「夏喜、落書きを続けた理由って、文香を守るため」

 夏喜は黙っていたが、空気に耐えられなくなったのか、小声で言った。

「…そうだよ」

「何で?」

「そりゃ、お前。惚れてるからだろ」

 空也が言ったことに、夏喜の顔面が赤くなった。

「どういうこと?」

「お前はおこちゃまかよ。惚れていなかったら、いくら幼なじみいえども、こんな行動なんてしないぞ」

「…おこちゃまで悪かったね。民夫たちが夏喜に協力したのも文香が関係してあるから?」

「送別会で文香が仙田を離れたくなくて泣いているのを見てるからね。頼んだら、全員協力してくれた」

 翼の問いに、夏喜が弱弱しく言った。

「もしかして、俺ん家に落書きした理由も、文香ちゃんが原因かな。文香ちゃんが翼に惚れているから、嫉妬して落書きしたとか」

「違うっ!」

 夏喜が大声を出した。

「だったら、何で落書きしたの?」

「言いたくありません。俺、もう帰ります!」

 夏喜は急いで杜都の家を出た。


「…他に言い方ないの?」

「俺って、こういう性格だから」

 空也の回答に呆れる諸星。

 翼は若干へこんでいた

「…文香って、俺に惚れていたのか…気づかなかった」

「だからって、どうもならないけどね…気にすることなんてないさ」

 杜都が慰めるように言った

「そういや、文香からの手紙で、『名前の由来が分かって良かったです』って書かれていたけど」

「実家に帰っている時に聞いたんだ。ただ、誰も曖昧に覚えているだけなんだよ。ざっくりに言うと、代々御茶ノ水家は、仙田に縁があって、父がそのことに因んで名付けたんじゃないかって。兄の時は、おじいちゃんが付けたみたいだけど」

「御茶ノ水?兄?」

 諸星が怪訝そうな顔で聞いた。この中で、杜都が養子であること、行方不明の兄がいることを知らないのは諸星だけだ。説明すべきなのか。

「天王寺家に養子に入る前の名字です。兄はいますけど、音信不通でどこにいるのか分かりません」

 杜都があっさり説明した。諸星も察したのかこれ以上聞くことはなかった。ただ、表情は険しかった。

「どうかしました?」

「別に…そういえば、店長から伝言を預かっていた。事件解決のお礼、何が良いかって」

 約束をしていたことを思い出す。

「う~ん」

「何か問題が起きても、僕たちに調査を頼まないことをお願いしたいです」

 杜都のこの一言に翼と空也は大爆笑。

「…店長に頼んでみる。翼君は?」

「俺は…もう少し考えさせて下さい」

 だが、しばらくこの件について翼は忘れていた。思い出したのは、数年後のことだった。

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