中2-冬(2)
「つまり、落書き被害に遭ったマンションや団地は、翼くんの同級生が住んでいるところ」
「そういうこと」
翼は携帯電話で、杜都に確認して分かったことを伝えた。
「ただ、これが事件とどう関係あるのか」
「もしかしたら、何か関わりがあるのかもよ」
「関わり?」
「どちらにせよ、聞く価値はありそう。僕も聞きたいことあるし」
「何を?」
「これまでのことを振り返れば分かると思うよ」
翼は考えたが、思いつかなかった。
「教えてくれ」
「…少しは自分で考えたら」
「そんな時間ない」
「落書きが黄色の丸しかないことに、疑問を持ったことはある?」
「…意味のない落書きばかりだろ」
「考えたことないの?」
「…書きやすいとかじゃね?」
「…明日岸川君に聞いてみるから、連絡よろしくね」
一方的に言われ、翼はムッとしたが、すぐ夏喜に連絡を入れた。
翌日の放課後。部活終わりに、夏喜のクラスに行くと、民夫など翼と同じ小学校出身の男子が複数人いた。
「全員、落書きがあったマンションや団地に住んでいる」
翼が杜都に耳打ちした。
「今日は…」
「ごめんなさい!」
全員が一斉に謝った。
「例の落書きの犯人、俺たちなんです」
「何だって!?」
翼は驚いた。
「驚かせてごめん。調査をしている翼たちにいつか謝ろうと思っていたけど、中々タイミングがつかめなくて…」
「何でまた…」
「光のページェントあるだろ」
毎年12月に仙田市内で行われる行事だ。ケヤキ並木に電飾をし、人々がそれらの中を通りながら眺める。県外からも多く訪れ、仙田七夕と並ぶ宮城を代表するイベント。
「昨年以上盛り上げるために、何か出来ないか俺たちで考えたんだ」
「で、黄色の丸を仙田の至るところに書けば盛り上げるんじゃないかと思って…」
「やっぱ、光のページェントを表していたんだ…」
杜都が小声で言う。
「気づいてたの!?」
「黄色の丸と言ったら、それしか思いつかなかった」
「『萩の月』も黄色の丸だけどな…」
「話し進めるよ」
夏喜が軌道修正する。
「マンションや団地は俺たちが住んでいるところにしようって決めたんだ」
「その方が迷惑が掛からないかと思って…」
「他の住民に迷惑をかけているけど」
杜都が小声で突っ込む。
「何で、俺ん家を狙ったんだ。しかも、あれ以来落書きをしてないようだし」
翼は全員の顔を見渡しながら言った。
「最後は、翼のマンションにしようと思っていたんだ」
「何で?」
「翼だったら、怒りそうにないから」
「はぁっ…」
「それに、小学校の頃、ここら辺でも光のページェントやりたいねって言ってたし」
「今回は、その時のことを思い出して再現したんだ」
「落書きだから、再現してないけどな」
「…ふざけるな!」
翼は思わず大声を出していた。
「…翼いえども怒るよね」
反省はしているようだ。
「昨日翼から連絡が来たとき、正直に言おうと決めたんだ」
「先生たちに言ってもいいよ」
「被害に遭った店舗やマンションの住民にも謝る」
「許してとは言わないよ…」
夏喜たちは次々と言うが、翼の怒りは消えそうにない。チラッと杜都の方を見ると、冷めた目で夏喜たちを見ていた。
帰り道。翼はまだ怒っていた。
「あぁ~、ムカつく。何が怒りそうにないんだ。怒るっつーの。むしゃくしゃする。あぁ~、色々叫びたいっ!」
杜都は何か考え事をしていた。
「納得いかないよね」
「そりゃ、俺ん家を狙った理由が…」
「中々の茶番だった…」
「茶番?」
翼は首を傾げた。
「何か隠していると思うよ」
「何かって?」
「そのことで、翼君。教えて欲しいことがあるんだ」
「内容によるけど…」
杜都は翼に耳打ちする。
「…それが関係あるの?」
「返答による。ただ、このまま何も分からない可能性もあるけど…」
「…その場合は?」
「他の方法を探すさ」
翼の怒りはいつの間にか消えていたが、その代わり何かの不安が心の中を覆っていた。