中2-秋(5)
7時を過ぎていたが、落書きの被害に遭った菅井民夫の団地に向かった。
民夫も、翼や夏喜と同じ小学校出身であり、懐かしい話しをしたがっていたが、杜都が制し、落書きを見つけた様子を聞いた。
「部活から帰ってきたときは、何もなかったんだ…」
その後、漫画本を買いに家を出て、帰ってきたら壁の落書きを見つけた。それが、6時半のことだった。
「住民の誰かが、犯人を見てるといいけど…」
「夕飯の支度などで忙しいから、見てないと思うよ」
実際、数件だけ聞き込みをしたが、その時間は中におり、誰も犯人の姿を見ていなかった。
「くぅ…せめて、男性か女性か分かれば…」
「他に被害に遭ったところに行って、聞き込みをしよう」
民夫の母親は犯人を許せないらしく、見つけたら知らせるように、何回も翼に念を押していた。
「犯人、殺されるかもな…」
民夫が小声で呟いた。
「しっかし、犯人の目的は何なんだ」
帰り道。翼はぶつぶつと文句を言っていた。
「それは、聞いてみないと分からないよ」
「いたずらだったら、タダじゃ置かんぞ」
「俺は、いたずらじゃないと思うな…」
「理由はなんだ、夏喜」
「…なんとなく…」
「何となくじゃ理由にならないだろ…」
「リストを見る限りだけど、落書きを見つけた日は、土曜日から月曜日の間がほとんどだ」
杜都がリストを見ながら言った。
「同日で複数の場所に描かれているから、犯人は複数かも」
「日付って、見つけた日だろ。毎日やっているかもしれん」
「その可能性も否定出来ない…とりあえず、家に帰ったら、諸星さんに連絡しておく」
「よろしく、頼む」
「詳しいことが分かったら、絶対に教えてね」
「夏喜、まかせておけ」
その後。被害に遭った場所に聞き込みをするも、大した情報は得られなかった。
「他の場所にもいかないと」
「犯人、見つけたらただじゃおかないぞ」
落書きを見つけた日は、土曜日から月曜日の間がほとんどなので、情報が来ないかと待ち構えていたが、水曜日になっても、情報はなかった。
「俺たちが犯人捜しをしていると知ったから、諦めたのか…」
「どうだろう…」
放課後。夏喜と民夫が、落書き犯について、翼に聞いてきた。
「な~んにも分からない」
「手がかりは?」
「何もない」
「もう12月だ」
「犯人にしたら、関係ないんだろ」
「母ちゃん、怒っているぞ」
「それは知らん」
久々に夏喜や民夫と帰った翼。小学校時代の話題で盛り上がるものの、文香の話題になると、しんみりした空気になった。
上機嫌で帰った翼は、玄関のドアを開こうとしたときあることに気づいた。
ドアに、黄色の丸が30個ぐらい描かれていた。
「うちのマンション、古いからな…防犯カメラもつけて欲しいって、管理人に連絡するか…」
空也が愚痴りながら、落書きを落としていた。
「何で、俺の家に落書きするんだか…」
「犯人を捜すな、というメッセージか…」
「メッセージ?」
空也が訝しげに聞いてきた。
「兄ちゃん、実はね…」
翼は今回の件について、すべて喋った。
「そうか…それは、ご苦労なことで…」
「手がかりが少ないのに、犯人なんて見つかるわけないっつーの」
空也は少し考える素振りをして、翼に告げた。
「俺も手伝おうか」
「いいのか、兄ちゃん」
「落書きの被害に遭ったんだ。それくらいしないと気が済まない」
「ありがとう。心強いよ」
「手伝う代わりに、諸星英輝に会いたい」
「えっ…」
この二人は会わない方が良い気がするが、断るわけにもいかない。
「うん。諸星さんに連絡してみる」
「会えるのが楽しみだ」
「次の犯行場所の情報が入ったら、兄ちゃんにも連絡するね」
だが、落書き被害の情報が入らないまま、年を越した。