中2-秋(3)
翼はため息をついた。
「手がかりが少ないのに、どう見つければいいんだよ」
「文句言わない」
「これなら、バイト先に行かなきゃよかった…」
「翼くんの自業自得だよ」
杜都の淡々とした受け答えに、翼は諸星とのやり取りを思い出した。
「落書き!?」
「外壁に絵具で書かれてた」
諸星は携帯電話で撮った写真を見せてくれた。大小様々な丸が10個書かれているが、色は黄色しかない。
「大きい丸は5センチ、1番小さい丸は1センチ」
「測ったのですか?」
「必要と思って」
「いたずらでしょうか?」
杜都が店長に聞いた。
「分からん。ただ、同じようにやられている店がうち以外にもあってね。2週間前には右隣も店もやられたと言っていた」
「何かのために、被害にあった場所をリストにしてみた。多少の漏れはあるが、店長の人望のおかげでほぼ場所は特定できた」
この店長、人望あるのかよ、と翼は思ったが、言ったら怒られそうなので黙っていることにした。
「日付は?」
「落書きを見つけた日」
「店舗以外にも、マンションや団地も被害に遭ってるんですね」
杜都がリストを見ながら、店長や諸星に気になったことを聞いた。
「被害の範囲が広いですね」
「今のところ、仙田市内だけだが、今後市外にも被害が出るかもしれん」
「うーん…闇雲に選んでいるんでしょうか」
「分からないから、君たちに調べてもらうわけで」
店長のこの一言で、翼と杜都は、思わず諸星の方を見た。諸星は何食わぬ顔だ。
「これは、警察の仕事でしょ」
「落書きは犯罪です。素人の僕らが出る筋合いはないです」
「俺も、警察に通報しようと思ったんだかな、被害に遭った店に連絡したら『落書きごときで警察を呼びたくない』ってのか多くて」
「落書きごときって…」
「俺も、書かれた落書き自体特に酷いものでもないし、そんな大騒ぎするものでもないって思ってな」
「店長、見つけた時は、激怒してましたけどね…」
「あの時は、まあな…」
諸星の冷静な指摘に、店長は愛想笑いでやり過ごす。
「このリストはやるから、犯人見つけてください」
「いや、その…」
「お礼なら、何でも言ってください。上限はあるが、現金でも構いません」
店長は丁寧に頭を下げたが、翼たちは困惑した。
「素人の俺らには無理…」
断ろうとしたら、諸星がすっと翼の方に近づいて耳打ちした。
「下らない質問に答えたんだから、店長の願いを引き受けろ」
「なっ!?」
翼は諸星を凝視した。
下らない質問とはなんだ。こっちは、真剣に聞いたんだぞ。やっぱ、さくらちゃんとこいつが付き合うのは反対!出来れば、金輪際さくらちゃんに近づくな!
「…内藤君の件で助けてもらいましたし、その時のお礼に引き受けますよ」
憤る翼とは正反対に、杜都は冷静に告げた。
「おいっ、杜都。何を勝手に…」
「そうか、ありがとな」
「店長、これで落ち着いて業務に戻れますね」
「犯人を捕まえた時のお礼は、後日決めます」
翼は一人取り残された状態で、会話を聞いていた。
「どう調査しようか」
「知るかよ」
「…協力的じゃないね」
「当たり前だっつーの。さくらちゃんにさっきのこと伝えて、諸星さんと別れてもらうしかないな」
「そういえば、このリストの1番上に載っているマンションって、翼くんの住んでいるところから近いね」
翼はリストを覗きこんだ。
「このマンション、夏喜が住んでいるところだ」
「夏喜?」
「岸川夏樹、同級生」
杜都が首を傾げた。
「違うクラスだから、知らないのも当然か…もしかしたら、何か知ってるかも。連絡するわ」
「急に協力的になった…」
「夏喜とは幼稚園の頃からの仲だからな。それこそ、毎年、家族ぐるみで七夕や光のページェントを観に行っていたっけ。中学生になってから、会う機会は減ったけど」
翼は携帯電話を取り出し、夏喜にメールを送った。




