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9話.見た目からくる先入観

おはよう俺。今日も朝から絶好調のチュンチュン世界。いい加減起きるたびにツッコむ内容を変えるのが厳しくなってきた。ボキャブラリーがなくてツラタン。

リハビリ開始からついに家事に移行することになった俺は期待に応えるべくラジオ体操を第2まで行った。潜在意識に刷り込まれていたのだろう、リハビリ方法を考えたらこれだと浮かんできた。しっかりと丁寧にやることを意識しながらリズムにノッて1、2、3、4! 体を動かすってなんて気持ちがいいんだろう。


仕事内容は掃除・洗濯・料理と事前に聞いている。ならこの部屋の掃除をして素早く綺麗にできるように練習しようとこのリハビリ期間中がんばった。なんせ身を隠さなくちゃいけないから一日中何もやることがなかったからな!


そうこうしてるうちにスッと扉が開きながらボクスが朝の挨拶をしながら部屋に入ってきた。ノックをしないで入ってくることにはもう慣れた。


「よーしよし良し! とりあえず動ける体になったようだね。肉付きはよく働いてよく食べてよく寝てを繰り返せば大きくなるから焦ることはないぞ少年! さあこれが待ちに待った君の身分証だよ。大事にするように」

「ありがとうございます!!」


表彰状を受け取る姿勢で頂戴する。人は本当に感謝しているときは自ずと態度にでるものだ。

渡された身分証は免許証サイズのカードになっており個人情報が載っていた。


氏名 トキ・ワタリ

年齢 19歳

出身 不明(戦争孤児 身元引受人 ポンドゴー・アップラー)

備考


「年齢は見た目で19歳に、誕生日は発見した日にしておいたよ。出身は不明だから孤児ってことにして引き取ったのが班長のポンドゴーね。備考欄は身分やランクなど追加表記用だね。理解し口裏を合わせられるように。いいね? それと忘れていることが多いと思うからこれからはそれを前提として説明していくよ。知っていたら言ってね」


ボクスさんは一通り説明するとナイフを俺に渡し、指を刃先に当て出た血をカードに付けるように言ってきた。悪用されないように守秘魔法がかかっているとのこと。


(へー便利な魔法があるんだな)


チクっと少しだけ痛むだけの事をドキドキしながら実行しカードに触れるとわずかに光を発し書かれていた文字が名前だけ残し消えていった。すげえ、面白い。

カードを持ちながら『内容を開示する』と唱えると文字が浮き出てきて眺めていたら氏名だけを残しまた消えていった。


「消し忘れが起こらないようにタイムリミット制限式になっているんだよ。初期型は普通のカードだったんだけど時代とともに意見を取り入れ改良されているんだ。常に進化をしようと努力する。素晴らしい姿勢だね」


その背景には関係者たちのもっと便利に、世の中の役に立ちたいと願う努力が目に浮かぶ。俺もその気持がちょっとわかる。リハビリ期間中ただ部屋か庭でボ~として時間を過ごしていれば今回よりも遅くではあるが動ける体になって仕事をするようになっただろう。

だが俺は良くしてくれた人たちの役に立ちたかった。

仕事の役に立ち部屋でできることを考え掃除を徹底し効率良く動けるようにどこから手をつけたらいいのか順番を考えたりした。


(予想以上の働きに驚いてくれたりして)


若干の淡い期待を持ちながら現場に移動するためカードを棚の引き出しに入れ部屋を出る。

これ以上進んではいけないと言われていた境界線を越えいざ新天地へ。

そこで待っていたのは小学生ぐらいの小さな子供たち十人と中学生ぐらいの女の子が一人、みんなエプロンを着てキャッキャ雑談をしながら待っていた。


ボクスさんは言う。あの子達も孤児で孤児院で暮らしている。国からの支援を受けている孤児院は支援金を受け取る代わりに国の施設で家事の仕事をやり、成長して自立しても生きていける政策を行っている。子供たちが人と触れ合う機会が増えると人脈が生まれ、がんばっている姿を見せると身元を引き受けてくれる人が現れる事もあるらしい。働きに満足した人は孤児院に支援金をくれたりする。ただ物を与えるだけじゃお互いのためにならないんだと。不幸にも親兄弟と離れてしまった子供たちに未来は幸せになってほしいよねとしんみりとして見つめていた。

心から言っているのだと感じ取れて俺はボクスさんの事がとても好きになれそうだった。



近づくと中学生ぐらいの女の子が気づき、小学生ぐらいの子供たちに口に一本指を当てながらシーと雑談をやめるように促した。


「やあやあやあ元気でかわいい子供たちおはよう! 来てくれてうれしいよ。今日は新しいお友達を紹介するよ。隣りにいる彼はトキ・ワタリ君だ。しばらくの間ここで働くことになってね。君たちと一緒に家事をやってもらう。君たちの後輩ってことだ。ビシバシとこき使って構わないよ。よろしくね!」

「「はーい!」」

「「わかりましたー!」」

「「よろしくね兄ちゃんー!」」


それぞれが一斉に返事をする。そうか俺後輩ってことになるのか。こんな小さい子たちの……うん、そっか……


「みなさんトキ・ワタリと言います! 一所懸命がんばりますのでよろしくおねがいします!」


挨拶は基本、やらないのはスゴイ・シツレイだ。と忍者みたいな姿が頭に浮びそれから学んだことを思い出す。冒頭はドーモにするべきだったか。


「ワタリさん、うちは孤児院でこの子達の引率指導役を任されておりますユウキャンと申します。お仕事がんばりましょうね」


栗色でショートヘアーのまだ幼い顔をした中学生ぐらいの少女は屈託ない笑顔で挨拶を交わす。どうやらこの子に仕事を教えてもらうようだ。そうだ、呼び方ってどうすればいいんだ。先輩? 先生? 試しに「先生よろしくお願いします!」と答えたら驚き顔でユウキャンとお呼びくださいと返された。


ボクスは仕事に行くからとユウキャンに場を任せどこかに行ってしまう。

知っている人がいなくなる心細さを感じるがこればかりは仕方がない。


「ではお仕事を始めますよ~。まずはお洗濯からです。出されている洗濯物を回収してきてください。よーいドーン! ワタリさんも一緒についていってください」


子供たちは掛け声とともにワーと一斉に走り出す。俺も慌てて後ろを追う。どうやら決まった場所に洗い物かごが置いてあるようだ。


「1班のは僕が回収~」「2班のは私が回収~」「3班のは~」「4班のは~「5班のは~」

「「全部回収おっけー! 洗い場に向かいまーす」」


どたどたどたどたーと十人の子供たちと俺が廊下を走る。

案内板によるとこの建物はH型になっているようで1・2班で半分、3・4・5班で残り半分を使っているみたいだ。


H型建物の真ん中に広場がありそこに井戸が設置されておりユウキャンが待機していた。


「おかえりー、タイムは7分! 早かったね!」

「「7分!」」


キャーキャーやったーと大騒ぎ。確かに早く動けており俺は付いていくだけで大きく息を切らしていた。


「ぜはぁーぜはぁー死ぬ……」


俺を見た子供たちは兄ちゃんがんばれー! と応援をしてくれる。なんて子供たちだ。俺情けねえ……


「大丈夫ですか? 少し休憩いれましょうか?」


ユウキャンが心配して休憩を提案してくれる。ありがたいがだめだ。こんなことで音を上げていたら強くなれない。俺は早く仕事を覚えて役に立ちたいんだ。


「ぜは、ぜは、ぜは、ぜは、あっありがとう、でも大丈夫。大丈夫だから」

「そうですか。では続きをやりますが休憩をしたかったらいつでも言ってくださいね」


なんとか息を整え井戸に向かう。見た所手押しポンプ式井戸だ。田舎に引っ越してきた姉妹がこれを使い足で踏みながら洗濯をしている光景が浮かぶ。


ここでは水出し係・手洗い係・渡す係・干す係に分かれた。俺は背が皆より高いから干す係になった。この干す係が忙しく班を間違えないように干さなくてはならない。


「兄ちゃんこれ2班のー」「兄ちゃんはい1班の」「これ5班のー」「はーい2班!」「兄ちゃんほらほら4班のだおー」

 

 ぬおー早いーー、これは2班の竿にこれは1班の竿にこれは5班のこれは2班のこれは5班の……


 「兄ちゃんそれ4班のだよ!」

 「え!? そうだっけ!?」


 同じ干す係の子に指摘されてしまった。やばい記憶力でも負けている、子供たちすごい。

 何度かエラーを交えつつも洗濯を終え5分の休憩時間となった。


 「お疲れさまです。どうでしたか?」

 「ついていくので必死でした。皆すごくテキパキと動いてて物覚えもよくて。俺間違えて指摘されちゃいました。ハア、だめですねぇ」


 まだまだ元気だと言わんばかりに庭で遊ぶ子供たちを見ながらぼやく。


 「誰でも最初はそんな感じです。何度もやって経験を重ね上達していきます。気づきましたか? 本当は皆で行動せず効率よく分担すればもうちょっと早くなるんですよ。でも教育のためにチームで行動して、覚えて、間違えたら指摘して正す。そしてちゃんと謝る。気落ちするだろうからフォローの声をかける。ミスはいつでもおきます。今回はワタリさんでしたが以前は違う子が間違えました。あれだけ動けていてもミスはでます。ミスを責めても苦しめてもっと大きなミスを引き起こしてしまいます。そうならないようにチーム力を高めフォローしていきます」


 ユウキャンは聞き取りやすい声で説明してくれる。確かに俺が間違えた時「大丈夫落ち着いていこうね」など声をかけてくれていた。焦ったけどその声でなんとか持ちこたえれた気がした。


 「あの時子供たちはワタリさんに持っていく量を調整したんですよ。一つ一つ時間をおいて間違えないように。どこの班の洗い物だったか聞き返しやすいように」

 「そんな動きをしてくれてたんですね。ただただ干すことに必死で気づきませんでした」


 なんて子供たちなんだ。俺なんかよりよっぽど大人びている。なんとかやり通したとうぬぼれていた。


 「いわゆる“仕事ができる人”とは、余裕を持ち他人を思いやれる人だとうちは思ってます。ボクス様からワタリさんのことをよろしくと言われております。うちが教える事ができるのは家事とチームワークです。子供たちと働きどうフォローされているか気付けるようになりましょう。そしてゆくゆくはお互いが支え合う信頼できる仲間となりましょう」

 「はい! 先生! よろしくお願いします!」

 「先生はやめてください~」


 もう俺の中ではユウキャン先生で決まりです。ちょうど休憩時間が終わり戻ってきた子供たちからも俺の真似をしてセンセーセンセーと呼び出しやめて~と顔を赤く染めた。


 次のお仕事は料理に移ったが保存食の作成だった。瓶を沸騰して取り出しきれいな雑巾の上に逆さにして6分ほど置く。にんじん、トマト、ピーマンやレモンを切り瓶につめて砂糖水を入れて蓋をして完成。レモン漬けはレモンとレモンの間に砂糖を挟むとうまいというのを思い出し試しに作ってみた。これにハチミツを入れと完璧なのだが、残念ながら仕入れるのが難しい地域らしく在庫はなかった。


 最後に廊下とトイレと備蓄庫とキッチンを掃除して終了。廊下掃除の時チョチョコーネが庭で祈りを捧げているのをユウキャンが目撃し素晴らしいものが見れたと感動していた。わかります。感動するよね。


 仕事の初日は覚えることが多く自分にいっぱいいっぱいで周りを見る時間がなかった。ユウキャン先生が教えてくれた仲間の優しさに気づくこと、仲間に手を差し伸べる気遣いができるようになること。仕事ができる人は大変だ。


 “気づく”か……考えたこともなかった。


自分の能力を上げることだけしか頭になかった。



今日一日の仕事は楽しかった。チームだからこそ楽しかったのかもしれない。皆が一丸になって仕事をやり遂げるというのは、なんていうか、パワーがあった。


ま、それでも自分の能力を上げないと足を引っ張っちゃうから努力が必要か。


これからもいろいろと教えて下さい先輩方!!



充実感を抱きながら眠った夜は雲が一切なく、彼の心を現しているかのように星が輝いていた。




読んでいただきありがとうございます。


ワン・フォー・オール オール・フォー・ワン とかワンチームとか

チームの一体感を実感しないと、それに気づけないと、傍から見たら個人の能力不足を言い換えてるだけに感じてしまうのかな。

遊びのチームプレーしかしてなかった過去の自分にわからせるには聞く心と言ってくれる人が必要かな。

それでは次話もよろしくお願いいたします。

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