8話.あったかいんだから~
チュン チュン チュン チュン
鳥のなく声が聞こえる。朝か。
一羽でチュン 二羽でチュチュン
は?なにこれ
三羽揃えば 牙 を む く
ええええええええええええええ!?
なんじゃそりゃーと勢いよく起き上がる。日がまだ昇り始める時間帯らしくひんやりとした空気が部屋に充満していて身を怖ばせる。布団は薄くペラペラで麻の服も使い込まれた跡がチラホラとあり両方とも一目で質が良くないことがわかる。
なんか……あれだなぁ……まあ贅沢は言えないよな。
ブルルルル
体の冷えを感じ尿意を催す。部屋にトイレがあるはずもなく外に出て探しに行かなくてはとベッドからもそもそと出る。
麻の服に着替えるときにも感じたのだが、体が固まっているようにぎこちなく動かすことしかできない。
ゆっくりと動きながら先程の夢を思い出す。
しっかし変な夢だったなぁ……なんだったんだあれ……チュンチュン……なんだっけ。忘れた。
廊下に出て壁に手を付きながら歩くと窓越しに黄緑色の髪をした人影が見えた。
(やった! チョチョコーネさんだ!)
朝から美人の彼女と会えた喜びにしばらくその場で足を止め眺めることに。
彼女は庭の手入れをしているのか花や木に手を触れ水を撒き最後に目をつむり祈りを捧げる。
(うおおおおおおおっなんて美しいんだ……! 尊いぃ。天使はいた。はいここにいましたよおおお! カメラのバーストモードで容量いっぱいになるまで撮りまくりたいぃい!)
よこしまパパラッチよろしくモード全開ハイテンション中の俺とは対照に、風光明媚溢れるオーラを纏った彼女は大木そのものの静であった。小さな庭はこの瞬間だけ確かに大自然の全景となり、野山かける動物が謳歌し、川の匂い木の匂い土の匂いが混ざり合い、人の奥底にある原点を優しく包み込む柔らかい大地の手を感じ取れる空気がそこにはあった。
「ありがとうございます」
彼女は一粒の涙を流し感極まった声で一言お礼を告げ立ち上がり、近くにある膝下サイズの木に生えている葉っぱを摘み取り俺の方に向かって歩いてきた。
どうやら見ていたのがバレていたらしい。
中庭への出入り口を開けおはようと俺の前に立ち、先程採ってきた葉っぱを俺の口元に持ってきた。どうやら食べろと言うことらしい。
自然の青い匂いがして食欲をそそる。何よりこの状況は彼女からの『はい、食べて。あ~ん』ではないか。誰もがテレ笑いを浮かべながらも応じてしまう究極イチャコラ奥義。
遂に俺にもこんなイベントが……神っているんですね。
鼻をぴくぴくさせながら出されたゆ、指までなめ――ぐうできない!! 葉っぱに噛みつき咀嚼する。
「~~~~~~にっげぇ」
プフッと彼女は吹き出したあと
「栄養あるからちゃんと飲み込むようにね」
と吐き出さないように念を押してきた。
俺の栄養面まで思ってくれるなんて女神すぎるんちゃう? 今日からこの葉っぱは俺の好物です。まずいもういっぱいの気持ちを理解した瞬間であった。
トイレの場所を聞き朝食はまた部屋まで持ってきてくれるとのこと。お礼を言い聞いた場所に足を運ぶがその作りに度肝を抜かれた。
小は壁に向かって放ち、大は蓋を開け穴にするタイプだった。
「ヒェッ」と素直に口からでた。
偶然一緒に壁に小をした見た目が細長い男性からこんなことで驚いてちゃ後が辛いぞと言われ生返事をして部屋に戻る。隣で一緒にされると恥ずかしいんだよ……
はぁ、カルチャーショックだ……。もっとトイレは清潔感がないと、水がジャーっと流れて……? ん? なんだこのイメージ、なくした記憶か? それとも発明のヒント? これは売れる予感がビンビンだ! 会社を作って売りさばき大富豪の仲間入だ! そうだな、会社名はTOUTOUにするか。とうとう俺も億万長者ってな。
妄想にふけっていると突然扉が開いたことに体が一瞬ビクつき、震わせながら入ってきた人物を見て気が緩む。チョチョコーネが昨日と同様の固いパンと水を木のトレイに載せて運んできてくれた。
お礼を言い食べてる間これからの事を話してくれた。彼女はあまり多くを語らない人みたいで
「食べて体力つけて。この後ボクスが来るから」
だけだったが。それでも同じ空間にいられるだけで幸せだった。
食事が終わりトレイを下げ彼女が部屋から出ていったしばらくした後、背はあまり高くないが体格がガッチリとした筋肉質の男性が入ってきた。おそらく会話で出たボクスって人だろう。
「やあやあやあ目が覚めてからは初めてだね。僕も君を助けた班の一人だよ。ボクスっていうんだ。以後よろしくね」
やはりボクスさんだったか。この人も俺を危険な所から救ってくれた人だったみたいで自然と緊張が和らぎ親しみが湧いてくる。
救ってくれたことに感謝の言葉を伝え世間話を終えた後本題に入った。
「さてさてさて、とりあえず君がかなり衰弱しているのは誰が見ても分かるし君自信も体が思うように動かせないことは理解しているよね? 酷なことを言わないといけないんだが、君の疑いは晴れたからもうここで預かることは難しいんだ。だから出ていってもらわないと行けない」
そこで一旦声を止め間を置くボクス。その間に言われた事を理解しようと頭の中で反復して組み立てる。
俺はトイレに行くだけでもよちよちと赤ちゃんのように歩くことしかできなかった。確かに腕も足も細くアバラが浮いている。まるでミイラだ。あと言ってたのは昨日のポンドゴーとの会話で疑いが晴れたから出ていくしかないってことか。何も分からず生きる術もない俺が野に放たれたら待ち受けてるのは死だ。それはとても困る。あれ? ちょっと待ってよ。
「あ、あの、チョチョコーネさんが助けてくれるって昨日言ってくれて、その」
「そうだね、僕たちは君を助けてあげたい。でもここは国が管理している場所なんだ。一般人を僕たちの判断で長く泊めておく事ができない」
そうだったのか、宿とか誰かの住居だと勘違いしていた。国、つまり警察とか消防とか政治家みたいな偉い人しかいられない場所ということか。ただの一般人がいてはいけない場所。納得はしたけど、でも……
「ただそんな姿ではいさようならと突き放したら助けた僕たちの心が痛む。外に行けば三日と保たずに死ぬのが見なくても分かる。僕はそういう骨と皮だけになって道端で転がっている人をいっぱい見てきたからね。そこでだ、体を満足に動かせるようになるまでここで働くってのはどうだい? 下働きならここにいても何ら問題ないだろ? 仕事内容は主に炊事洗濯といった家事全般だね」
ボクスの提案にその手があったかと感心した。俺を助けようと知恵を出し生きる場所を提供してくれる。人はこんなにも温かいんだ。日本人は人情が厚く美徳とされているが実際に体験すると感謝で胸が押しつぶされそうだ。胸を張って誇っていい文化だ。ここ日本じゃないっぽいけど……っ!
「ありがとうございます! ありがとうございます! 一所懸命働きます! ここで働かさせてください!」
出せる言葉で感謝を綴った。生きる道をくれた。せっかくの与えてくれたチャンスを逃すわけにはいかない。
「そうかそうかそうか! いい返事を聞かせてもらって僕もうれしいよ! とりあえず働けるように身分証を作って採用手続きをしてくるね。時間がかかるからそれまではリハビリってことでトイレまでの廊下と庭以外は行かないようにね。バレるとまずいからさ。食事は持ってくるからしっかり栄養を取るようにね」
じゃまた来るねと手を上げ部屋を出ていった。
ここの人たちは皆いい人ばかりだ。
バレないように隠れてリハビリをするとして問題は仕事の内容が家事全般か。掃除洗濯はできるだろうけど料理って……だめだ、レパートリーが浮かばない。俺料理やったことがないんじゃないか。失望されるだろうか……
卵かけご飯で許されるだろうか。日本でTKGと略して親しまれてます!……だめだそんな度胸ない。
ん? 日本……心のスキマにすぽっと入るような……? 大事な言葉だと思う。絶対に忘れちゃいけない! ぜった……くかー……スヤスヤ。
若干の……いや大きな不安を抱えながら来る日のためリハビリをしながら過ごしていった。
読んでいただきありがとうございます!
片足を負傷しギブスをしたことがありますがそのとき松葉杖の使い方に驚きました。
松葉杖は両脇に使うときと片方使う時があるのですが片方使う場合は患部のほうの脇に使うものだと
思ってたのですがその逆で無事のほうに使うのが正解でした。
実際になってみないとわからないものですね。
ギブスを外したときは細くなっており逆の足の半分ぐらい筋肉の差がありました。両腕は松葉杖を使っていたため筋肉質になりました。
立ってみた感想は正座して痺れた足のように感覚が鈍かったです。
変な癖にならないようにリハビリは大切ですね。
それでは次話もよろしくお願いいたします。