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7話.目が覚めたら

 陽の光が差し込み部屋を暖かくする。澄んだ空気の中に木の香りがほんのりと感じ取れ懐かしさが蘇る。ドロドロでグニャグニャでグワングワンで自分がどこにいるのか定まらない感覚から徐々に意識が覚醒していく。


 (朝だ、起きなくちゃ……)


 目を開け制服に着替えてご飯食べてさっさと学校に行かなくちゃなぁ、あぁ頭がぼんやりする……寝すぎたかなと思考が定まってくると鼻がさわさわとくすぐったく思わずくしゃみが出た。


 「へえっくしょおおい! ふいー」


 気持ちのいいくしゃみに満足し鼻に手を当てようと腕を動かすが上がらない。目を開け周りを確認すると拘束されている自分と隣に鳥の羽根を持った黄緑色のロングヘアーに緑色の瞳をした綺麗な女性が座っていた。

 女性は俺を見てニヤッと半笑いし「ちょっと待ってて」と言い残し部屋から出ていった。その後姿もまた綺麗でドキドキしてしまった。


 (あれ? なんか耳長くなかったか……?)


 突然の事に状況が掴めなかったから違和感程度だったがあれは確かに……多分……違うか……? 自信がない。それよりもなんで縛られているんだ俺。ここどこだ。知らないなこんなところ……知らない……あ!


……知らない天井だ……


 くぅ! まさかお約束ができるとはうれしい。っと違う違う早く学校に行かなくちゃ遅刻しちゃう。学校……? いや、バイト……? え?


 自問自答を繰り返して頭の中を整理していると扉が開き、スッと入ってきたのは優しそうな顔をした男性と続いて先程の綺麗な女性と天秤を持った男性の計三人だ。


 「やあおはよう。よく眠れたかな? まず置かれている状況を説明するよ。我々は君の事を調べさせてもらったが国の名簿に載っていなかった。つまり他国の者かまたはそれ以外かという所だからね、警備上の問題で拘束させてもらっているよ。悪く思わないでほしい。いいね?」


 同意を求められ反射的にうなずいてしまったが聞かされた内容は変なところがなかったと思う。


 「それでは今から質問していくから素直に答えてほしい。別に嘘をついてもらっても構わないが印象を悪くすると立場上不利だというのは理解できるよね。うん、じゃあまず自己紹介といこうか。私はポンドゴーだ。君の名前を聞かせてもらえるかな?」

 「あ、ああ、はい。俺はえっと、あー名前ね……ちょっと待ってください……いや、ちょっと」


 自分の名前を口に出そうとして声にならない。ちょっと待ってくれ。俺の名前だぞ。ほら、あれだ。すぐ出てくるだろ。……ハァ?

 頭が焦りと不安でチリチリモヤモヤする。心臓の音が聞こえるぐらい跳ね上がっているのがわかる。


 「すみません……分かりません」


 意味がわからない。自分の名前を言えないなんて恥ずかしくて鼻がジーンとしてきた。やばい泣きそう。

 ポンドゴーはチラッと隣を見てから質問を続けていった。

 分かったことは自分の名前、年齢、出身、親兄弟、何をしていたのか、スキルはあるのか、全て分からないことが分かった。


 「そうか、分からないことは辛いよな。泣かせてしまいすまなかった。最後にトキ・ワタリという言葉について何か知っているかい?」


 それを聞いた瞬間今日一番に胸が高鳴った。


 「知ってます! 俺知ってます!!」


 衝動的に言葉にしてしまったがでは何だと聞かれたら知らなかった。聞いたことがあるだけだった。確かに知っているはずなのに……もどかしさに腹が立つ。


 「君にとって何か重要なワードなのかもしれない。こうしよう、君が過去を思い出すまでは君の名はトキ・ワタリとする。どうかな?」

 「はい! 分かりました、ありがとうございます!!」


 何も知らない俺のことを信じてくれて嬉しかった。普通は記憶喪失なんて怪しさ満点で信じることはできず拘束を解くことはないだろう。

 3人が部屋から出ていく際に渡されたゴワゴワした麻の服に着替えていると綺麗な女性、(後で知ったがチョチョコーネさんと言うらしい)が朝食を持ってきてくれた。


 ぐぅ~~~


 なんということでしょう。べったべたすぎるタイミングで腹の虫が鳴き室内に響き渡るではありませんか。その音色は聞く者におっともうこんな時間か飯にしなくちゃなと催促するようで。


 「プフ……朝食持ってきた。食べて」


 と吹き出しながらパンと水が載った木のトレイを渡してくれた。赤面しながら食べていた俺にチョチョコーネはポンドゴーが危険地帯から俺を助けれくれたこと、廊下で俺の事をみんなで助け合っていこうと言ってたと聞かされまた泣いた。


 起きて質問され食べて泣いて疲れて眠った。それが俺の記念すべきサンドローズ国1日目の出来事だった。


✕ ✕ ✕



 ポンドゴー達が所属するサンドローズ国対魔物防衛隊が務める建物は災厄の腐海『グラトニートラップ』側の城壁近く、つまりサンドローズ城の北にある。

 難度S級エリア近隣国はほぼ同じ作りになっておりエリアから持ち帰ったモノが国内に悪影響を及ぼさないように配置作られている。危険と隣り合わせの場所なため国からの信頼が高く設定されており持ち帰ってきたモノは一定の基準以下は褒美とされている。


 国が最も欲しがっているモノは情報なのだから。


 ポンドゴーは検問をくぐり抜ける工夫として少し前に第3班の訓練生がグールに引きずられ消息を絶ったのを思い出し偽装搬入することに成功した。


 予想通りなら誰かに取られるわけには行かない。

 俺たちの夢のために。



 3日が過ぎチョチョコーネが羽根をくるくると回転させながらもう片方の手で二本指を前に出しブイっと言ってきた。いたずらに成功したようだ。

 彼の部屋にチョチョコーネと審判使いを連れていき質疑応答の結果記憶喪失だということが分かった。


 運が味方している。

 それならそれで余計な常識にとらわれていなくてすむ。


 第一調査班待機室にて仲間たちにこれからのことを話し目的意識を共有する。


 「基礎訓練はボクスに任せたぞ。みっちりと教育するように」

 「了解。そうなると思ってすでに準備しておりますよ」

 「ははは! やはり頼れるやつだよボクスは!」


 何かを任せる場合ボクスを頼ることが多い。だから先を考えこんなこともあろうかと準備をする。


 ボクスはサポーターという職だが、サポーターは班全員の年齢出身趣味癖などあらゆる必要な情報を集め適切な行動を取るように訓練されている。

 戦闘における立ち位置は生命線。

 サポーターの補助スキルや背負う荷物がなくなれば班は全滅する可能性が高まる。どこにいけば邪魔にならないか班員の思考を読み解き気配を消す。倒された魔物を素早く解体し隙を最小限に抑える。班に優秀なサポーターがいるだけで狩りの安定性が雲泥の差になるため高い金を出してでも募集し、集まらなければ狩りに行きませんと中止になることもしばしばある。


 ボクスの優秀さに満足していると紙束を渡され目を通すと計画案と領収書だった。


 「この計画をやるため少しばかり費用がかかってしまいますが仕方ありませんね」



 ハハ、ボクス、ハハ……


 俺の顔を見てプフゥーッとチョチョコーネが吹き出す。

 俺と同じく金額を見ていたビンベンが肩をたたいて同情してきた。


 これはまだ俺たち一班だけの極秘計画だ。つまり俺の財布からの出費となる。

 投資は金がかかるなぁと思う39才おっさん、春の始まりの季節に起きた初めての借金生活が開始される出来事だった。





読んでいただきありがとうございます。

何か大きな事を実行しようとするとそれに見合う資金が必要になります。

ん?1000万か。安いな。と思えちゃうぐらい金持ちになりたいっ


作中でありましたが、夢から覚めたときに学校に遅れる!!!と慌てたときがありました。もう働いていたし休日だし。混乱ってあんな感じなんでしょうね。貴重な体験でした。


では次話もよろしくお願いいたします。

ブクマと評価と感想の三点セットは執筆者たちに大きなやる気を与えます。神の御慈悲を!

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