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6話.俺の名は

ぜひお楽しみください!

 暗い霧の中行進する足音が僅かに聞こえる。ザッザッザッと砂の感触を確かめながら警戒を怠らない。MAP拡大のため正規のルートから外れたのだ。何があるか分からない。警戒するに越したことはない。

 今我々サンドローズ国対魔物防衛隊所属第一調査班は、三百年前に突如【天高くに光の柱が出現し光の翼を開きながら】昇り爆発した“旧”幻惑の砂海『トラップデスネスト』“現”災厄の腐海『グラトニートラップ』の戦線拡大計画調査に来ている。



 あの爆発『天の怒り事件』から三百年が過ぎた。あの時この場所でいったい何が起きたのか、世界の始まりからあるとも言われている古文書によると【天高くに光の柱が出現し光の翼を開きながら】がこの世界にとって重要視する部分であった。


【人々は魔の存在に打ち勝つ力を求め神に祈り勇者が現れた。勇者は魔を退け前線を築いた。生きる術を残し天命を全うした勇者は天から降り立つ光の柱に包まれ光の翼を広げ帰っていった】


 この文から共通点を考察すると――

 ・どこかの国(人)が勇者を召喚した。

 ・幻惑の砂海『トラップデスネスト』で何かをした。

 ・光の柱に翼という点から勇者は帰った。

 ・爆発から災厄の腐海『グラトニートラップ』に名称変更をするほどの大災害となる。


 つまり、勇者はトラップデスネストで何かを解決させようとしたが命を落としたため神の力が暴発した。と、当時の神官長達が結論付けた。

 

 難度S級エリアの近隣国は、かつての勇者が防衛拠点として活用していた場所を発展させた国である。堅牢強固な壁と迎撃武器により、魔物と他国からの攻めに圧倒的に有利となっており、国としての発言権も高位のものに位置する。だからといって絶対に安全ではなく、超強な魔物を相手に日々疲労困憊が続くのが戦線の特徴となっている。

 難度S級エリアをどうにかしたい。貿易で栄える事を知った人々は魔物の住処を邪魔くさいと思うようになっていった。

 前線を広げるには過去同様勇者を召喚すればいい。各国はかつての力を欲し神官に依頼した。


 勇者召喚ブームの到来である。


 マジックアイテム、召喚方法、神官など勇者召喚に必要であろうモノは高値で取引される事となった。

 そんな中でのトラップデスネスト大爆発による勇者がいたであろう痕跡は世界を震撼させ噂が広まった。


サンドローズ国が勇者召喚に成功しトラップデスネストを制圧しようとした、と。


 身に覚えのないサンドローズ国は全否定したが、疑いようのない証拠があるため受け入れられず、他国は神の怒り事件による被害の賠償と謝罪を請求してきた。

 被害の少ない国からもあったことから、暗に勇者召喚の情報を寄越せと言っているものである。

 身の潔白を証明するため、蓄えていた神話級マジックアイテムを使い神託を受けそれを証拠とし提出、またトラップデスネストの調査を国力を上げて行い、得られた情報は開示すると約束し自体は収束に向かっていった。

 元々強国であったがための力技に何色を示す国もあったが、魔物の活性化もあって国力増強に頭を回さないといけなくなり議会は締められた。


 それから三百年サンドローズ国は調査・進軍・敗走を繰り返し多くを得て多くを失っていった。


 サンドローズ国対魔物防衛隊所属第一調査班班長ポンドゴー・アップラーは、災厄の腐海『グラトニートラップ』に特化した特徴を持ち、就任してからというもの目まぐるしい成果上げていることで有名だ。年は39才、背丈は175cmで優しい顔立ち、オールバックにして髪をまとめている。部下育成能力も申し分なく第一調査班に志願する者が後を絶たない。戦線拡大計画調査から帰還したらもっと多くの部隊を任されるだろう。


 「待て……濃度が高い。警戒しろ」


 災厄の腐海『グラトニートラップ』はあたり一面が暗い霧で覆われているが、能力を持っている者から視ると自然物と人工物で区別がつく。

 自然物は毒沼から発せられる瘴気によるもの、人工物は幻覚地獄虫によるものだ。

 三百年前はオアシスの幻覚を見せて巣に誘導していたが、暗い霧に覆われてからはオアシスを幻覚にしていたら逆に警戒されて近寄らなくなったため環境変化していき、最終的に霧に落ち着いたらしい。魔物調査班が魔物の適応能力を嬉々と語っていた。

 

 少し先に進むとポンドゴーは前方に指を指しながら指示を出す。


 「ビンベン、あの辺りに風魔法『ハイ・ディストラクト』」

 「了解、『ハイ・ディストラクト』」


 風魔法使いのビンベンは魔法を唱えると指示された場所に強風が発生し暗い霧を四散させるとぽっかりと穴が空いた幻覚地獄虫の巣が顕となった。


 「よくやった。やはり幻覚地獄虫の巣か。次は魔物調査班から支給されたドラゴンの匂い袋を穴の中心に投げろ。任せたぞボクス」


 サポーター(荷物持ち)のボクスは指示される内容を先読みしすでに準備は終えていつでも投げれる体勢を執っていた。

 (頼れるやつだよボクスは)


 ドラゴンの匂い袋を投げ入れると勢いよく幻覚地獄虫は飛び出した。明らかに逃げようと混乱している。これも成功したと報告しよう。

 腹を出した幻覚地獄虫に矢を射って止めを刺し素早く周囲警戒態勢に戻るエルフのチョチョコーネの正確さに毎度ながら舌を巻く。

 ボクスが慣れた手付きで解体する様を横目にポンドゴーは自身の能力『魔眼』を発動する。

 

(この土地は幻覚地獄虫が引き金となって周りの魔物が動き出す。特に警戒しなくてはいけないのがポイズンサンドワームだ。『魔眼』で魔素の流れを読まなくては一気に引きずり込まれる……)


 第一調査班は少人数で難度S級エリアを調査できるほどの優れた実力の持ち主で組まれたチームとなっている。決して過信せず、決して油断せず、チームが一つの力となるように日々鍛錬に励みコミュニケーションを大事にしてきた。失ったモノを忘れないために。もう失わないように。


 (ム、魔素に動き。やはり来たか)

 「ビンベン! 10時方向15m地下2m、3カウント後に風魔法『アッパーエアー』」

 「了解! 3・2・1『アッパーエアー』」


 指示された場所にビンベンの『アッパーエアー』が発動する。

 ズワァッと砂と一緒に進行していたポイズンサンドワームも空に打ち上がった。全長3mのやや小型。

驚きに口を開いたポイズンサンドワームの口内へ3本の矢が吸い込まれる。

チョチョコーネの得意技『トリプルショット』はいつ見ても正確だ。3本の矢のうち1本だけが本物であとは魔力矢なのだが、魔力コントロールが難しく普通はバラけて飛ぶ。まるで一本の巨大な矢に見える『トリプルショット』を打てるのはチョチョコーネ以外に見たことがない。

 落ちたポイズンサンドワームはグネグネと痛がりながら絶命した。


 『魔眼』で視るが追撃はないようだ。やはり幻覚地獄虫を無効化すると他の魔物は警戒して必要以上に出てこなくなるようだな。


 調査と解体を行いながら範囲を拡大していく。今回の調査対象は霧の発生源である毒沼の場所。

 正規ルートは粗方浄化したがルート外はまだ手がつけられておらず地道にチェックをしていくのである。水魔法使いは浄化中・浄化後は無防備になるため事前準備があるなしで安全性が段違いだ。


 (それに旨味の分配もあるしな)


 三百年の歴史にはお宝が潜んでいる。調査をしようと数え切れない人数が駆り出され戻ってきた人数は数えるほど。難度S級エリアに入るのだから通常よりも装備がいい。つまり……


 「前方四体の人影あり、魔素値はグールだ。チョチョコーネ顔を狙え」

 「見えた……射るっ」


 正確に放たれた矢はグール達の顔に命中し、ゔぁ……ぁ……と短いうめき声を発しながら倒れた。


 「いやぁ今日も大量でうれしいですよ」


 値が張りそうな遺留品を物色しながら嬉しそうにボクスは語る。ボクスがこう言うときは大抵高価な品を発見したときだ。帰ってからの飯を期待してしまう。


 調査も一段落となり戦線拡大計画調査の日程通り戻る準備をしていたときだった。ふと変な気が、ソとンぐらいの些細な違和感がありポンドゴーは砂の盛り上がりに目をやった。

 そこには人らしきモノが半分埋まった状況で倒れていた。

 『魔眼』は魔素を視ることができる。生きていれば誰でも体から出ており、死ぬとなくなる。だから『魔眼』で視れは生死の判別が容易なのだが倒れているモノを視ても魔素が感じられない。しかし生きていると確信できる。

 ポンドゴーは未知なる状況に警戒度を最大まで高める。


 「警戒態勢!!! 索敵守備につけ!」


 日頃の訓練通りボクスがサポート魔法『シールド』を人数分展開する。『シールド』はその名の通り魔力でできた盾で前方からの攻撃を防いでくれる。索敵守備は『シールド』を張り四人で囲むことによって全方位からの攻撃を防ぐ守備陣形である。

 守備陣形が形成されたらポンドゴーは『魔眼』で、ビンベンは『風読み』で索敵し、チョチョコーネは弓を引きいつでも範囲殲滅できる必殺スキルを準備する。


 「あの小山に人影がある。俺の『魔眼』では魔素を確認できないがしかし生きている。得体のしれない何かだ。『風読み』の結果はどうだ?」

 「周囲に敵の気配なし。対象に生命反応あり」

 「よし、ボクス。気付け玉を対称に向かって投げてくれ!」

 「了解!」

 「チョチョコーネは対象が少しでも下手な動きをしたら迷わず打て!」

 「うん!」


 ポンドゴーの合図によりビンベンが対象の周囲に風を送り流れを作る。気付け玉の効果を高める工夫だ。ボスゥと中身が溢れ対象に散らばる。


 「……カハ」


 弱々しく咳き込むがそれ以上の行動は起こらず静まり返る。


 指で前進の合図を送りジリジリと対象との距離を詰め、触れる距離までたどり着く。


 「引っ張り出すぞ。罠の可能性もある。『シールド』からはみ出るなよ。よし、おらあ!」


 ザボッと引っ張り出された対象は髪が長く、埋まっていたときは性別を確認できなかったが、何も着ていなかったため男だと分かった。


 「おい! おい! おい! お前! わかるか! おい!」


 この災厄の腐海『グラトニートラップ』は、毒沼から瘴気が出ているため装備を整えないとたちまちゾンビ化してしまう。この男のような全裸は異常すぎる。考えうる答えは毒と瘴気耐性スキル持ちか新種の魔物だが、耐性持ちはこの地を制圧するのに大いに役立つはず。疑わしきは殺せと分かっていながらもポンドゴーはその可能性に賭けた。

 声を掛け水を浴びせると目を大きく見開き水袋に飛びつく。


 ゴキュッゴキュッゴキュッ


 全てを飲み干し口を離すがまだ出てこないかと水袋を振りながら舌を出す。


 ポンドゴーは警戒しながら男の後ろにまわり腕を掴み拘束して質問する。


 「おい、お前。名と所属を言え」

 「…… オ オレ ノ ナマエ?」


 声が出しにくいのかガラガラとしたくぐもった音が漏れる。何かを考えているのか一旦の間が開き――


 「……ア…… オ レ ノ ナハ …… トキ ワタリ……ト……グヴォオォ」


 トキ ワタリと告げ、先程飲んだ水をモドし男は意識を失った。




読んでいただきありがとうございます。

初執筆 初挑戦の初戦闘パートとなりました。

楽しかったです。


勢いよく水を飲むな、水は噛みながら飲むと教わりました。落ち着けって意味と冷たい水を飲むと胃が縮み苦しくなるという2つの意味があります。

あと暑いときに冷たい水を飲むと体温の低下により疲れが出ることがありますのでまだ仕事が残ってるならぬるめがいいです。


では次話もよろしくお願いいたします。

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