プロローグ 5話 偶然から生まれるアルティメット事故です
初モンスター登場です
こちらはプロローグとなっております。
著:時渡セイヤ 氏【異世界に転生、転移、憑依したら】税込み¥4,800
【第一章まずやるべきこと】確認事項まとめ
期待と希望に溢れる異世界! ワクワクするよね! でもね、お金もない、学もない、力もない、知り合いもいない、そんな世界でいったい君に何ができるんだい?
神から類稀なる特別なスキルを貰ったからって慢心していないかい?
まずやるべきこと。それは異世界で絶対に生きていくという強い覚悟を持つことだ!
『生にしがみつけ!』 君に神のご加護があらんことを。
☓ ☓ ☓
砂海は思った以上に足場が悪く、滑り落ちそうになりながらもなんとか前に進み続け、目的地であるオアシスを探す。汗が落ち乾燥した大地に瞬時に消えていく。地獄だ……ここは地獄だ……大地に料理されている錯覚を感じながら天国を想う。
冷たい水が喉に通るあの感覚。ゴキュッゴキュッゴキュッ。ペットボトルに入った富士の霊水を一気に飲み干したあの日。ああ……うまかったなぁ……ゴキュッゴキュッゴキュッ。想像すると乾いた口の中につばが微量だが分泌される。これが限界の中での生命線となっている。
甘味はこの地獄と似たものを経験したことがある。中学時代にやっていた部活の陸上部だ。顧問の先生は昔ながらの根性主義者で、竹刀片手に振り回す姿がお似合いの鬼ゴリラだった。休憩は最小限、休憩時間外の水は甘え、体内時計は誤差2秒以内。できなければ気合の入る竹刀で激励と今の時代にはそぐわない問題行動の数々。何度顧問を呪ったことか分からないが、その経験が今役に立っているから皮肉な運命だ。
何度目かの砂丘を登ったところで遂に期待し求めていたモノを発見する。
「ハ……ハハハ……ッ! あるもんだ! あるもんだな!! よっし! よしよしよしよし!!」
緑色の葉をつけた木が無数に立っているのを確認できた甘味は、自分が行動した事を肯定し、喜びに満ちた笑みを浮かべた。
正しき行動、導かれるターニングポイント、やはり俺は勇者である運命……!
喉の乾きを潤したいため急ぎ足でオアシスを目指す。
楽園に近づくに連れて心做し、ひんやりとした冷気を肌に感じる。早く……早く……! 気が急いて滑り落ちそうになる。慌てて体勢を整えようとするがズルズルと滑っていく。あまりにも砂の感触が違うため異様さに気づく。
「ばかな……そんな! 嘘だ!」
そこは砂海の中、中央に向かってぽっかりと空いた、不自然に、しかし自然の狩りの形、誘い待ち狩りの巣アリジゴクにそっくりだった。
罠にハマった初めての経験に背筋が凍る。慌てて滑り落ちていかないように拳を打ち込み抵抗を試みる。
アリジゴクは巣の中央に滑り落ちてくるように、表面の砂は細かくする工夫を施す種がいる。そして罠にかかった獲物が滑り落ちるのに抵抗している場合……
ザバッ
アリジゴクは中央から頭を出し、甘味に向かって砂を巻き上げる。
「ひい! 滑る! 滑るうう」
見たところ人と同じぐらいの大きさだろうか。牙が罠にかかった獲物を今か今かと待ち受ける。
カチッカチッカチッ。
その様はまるでパン屋さんでパンを選んでいるときにトングをカチカチとするそれに似ている。
パンはいつもこのような恐怖に晒されていたのか。
脳はキャパを超えないためにあえて変なことを考えるようになっていると聞いたことがある。
甘味が連想したのはパンだった。小学生の頃に母親と一緒にトングをカチカチした思い出がフラッシュバックした。
喉がカラカラの状況でも涙が出た。
死ねない、まだ死ねない。死んでたまるか。死にたくない。
必死に抵抗し抜け出そうと土を泳ぐ。
土に振動を立てることによってさらに悲劇を呼んでしまった。
突如しがみついている正面の土が隆起し甘味を吹き飛ばす。見えたのは茶色く蠢くツヤのある姿。蠕虫、ミミズ、モンスター的にはサンドワームというべきか。
自動車に跳ね飛ばされたかのような衝撃で宙に浮く甘味。サンドワームは勢いのまま口を開き追撃してくるようだ。
その動きは遅く視えた。口の中に無数の尖った歯が見える。舞う砂が粉雪のようにふわふわとしている。少ない人生の思い出が涙とともに溢れてきた。
瞬間、自分の死を悟ってしまった。
オワルオワルオワルオワル――
「おかあさあああああああ……」
最後に求めた言葉は完成を待たずにサンドワームの中へと消えていった。
走馬灯は甘味に後悔を見せたのだろうか。
甘味は何に後悔したのだろうか。
その涙の意味を語れるものはサンドワームの血となり肉となった。
アリジゴクは横取りされた腹いせに砂をサンドワームに飛ばし、カチカチカチと牙で威嚇する。
サンドワームは満足げに砂に帰り、先程から視えるようになった黄金色に輝く河を目指し地中深くへと潜っていった。
荒々しかった砂海にいつもの風景が戻る。
✕ ✕ ✕
国と冒険者ギルドの共同で調査し、難度Sランクとして評価された冒険者の誰もが恐れるエリアが3箇所ある。
・竜神の古戦場『クリスタルロマン』
・幻惑の砂海『トラップデスネスト』
・天翔橋『レインボーブリッジ』
いずれも3千人規模で行軍し全容を把握できないまま撤退。最終的な帰還者は10人にも満たなかったという。
幻惑の砂海調査記録にこう記されている。
【水辺が近くに感じ取れり探すもそれ幻となりて気づくが遅し。砂に潜む魔は我々の足を掴み地中へと引きずり込むやその鋭き刃にて命絶つ。引き金を期に砂海は息吹く。我々は砂海に撒かれた生き餌であった】
✕ ✕ ✕
〈クスクスクス……また横取りしてやったぞ。悔しそうな顔しやがってたまらないねぇ〉
ゾゾゾゾゾ、地中を掘り進む――
〈しかしなんだねぇ、腹のあたりがやけにキリキリするじゃないか。〉
ゾゾゾゾゾ、キラキラしたところに掘り進む――
〈さっき横取りした何かが変なものだったのかな〉
ゾゾゾゾゾ、目が見えないのに視えるキラキラに掘り進む――
〈初めて視えるあれはいったいなんなんだ。段々と力が溢れてくる〉
ゾゾゾゾゾ――
〈ああ、高まる……!〉
その日、幻惑の砂海『トラップデスネスト』は光の柱を天に突き立て爆発した。
幻想的なその光景に人々は天を崇めたが、爆風の影響は世界に広がり、多大な被害を及ぼしたのだった。
後にこの地は
災厄の腐海『グラトニートラップ』
大爆発を
『天の怒り事件』
と呼ばれる事となる。
読んでいただきありがとうございます。
自分の最後は何を思うのだろうか。
事故死は一瞬で何かを後悔したり満足したり思いにふけることなく終わっていくのではと
ドラマやアニメの事故死のシーンを見ていつも考えます。
いい人生だった。そう思いたいですね。
それではまた次話をよろしくお願いいたします。