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36話 トウコ道中記6

 精霊様の年齢は約300歳として神様の年齢は分からなかった。そういうものかと流そうとしたが重要だと気づき、頭を振り緩い考えを堰き止める。これから先の事を考えたら、身分を隠した偽りの情報を共有し、口裏を合わせなくてはならない。神様と精霊様はバレてはならない。最悪精霊様はバレてもいいが神様の存在は隠さなくてはならないらしい。俺の頭では国際情勢がどの様になるのか具体的にはよくわからないが、神の存在は世界の均衡を崩すからとのこと。


 「提案というか決めて欲しい事があるのですが、今後人と会うときに二人を紹介する時の設定が必要だと思うんですよ。ずっと隠していくのも無理があると思いますし。呼び方も神様精霊様と言ってたらモロバレですので変える必要があるかなーと」


 神様はなるほどと顎に手を当てて考え込むが、ほんの数秒後に人差し指をピンと上げて食事をしながら考えようと言ってきた。確かに緊張は去り水場もあるため休憩を取るには絶好のタイミングだが、ゴブリンやオークがゴロゴロと転がっている場所で体を休めるのが正解なのかどうか。少なくとも俺はあまり乗り気じゃないため片付けてからと提案したところとんでもない事を言ってきた。


 「ゴブリンは骨ばっかりだからあれだけど、トロールの肉は美味しいとゲームで書いてあったわ。ということで噛むのが得意なトキ君! がぶりといっちゃって!」


 「え……!? ちょっと、なんていうか、これを食べるんですか? ていうかどこ情報ですかそれ。ゲームって……、信じて大丈夫なんですかその情報」


 「有名なゲームだし大丈夫よ! それに最近魔物を料理して美味しく食べるのが流行りらしいのよ。魔物がはびこる洞窟、つまりダンジョンに潜って、そこで手に入れた素材を使ってドワーフが料理するマンガが“このマンガがすごい”で紹介されてたから間違いないわ」


 「両方ともリアルじゃねえ!!」


 とんでも知識を披露されて思わずタメ口口調で突っ込んでしまったが詫びる気はない。確かにゲームやマンガ、小説でも正確な根拠(データ)を元に書いてある場合もあるが、これはノーデータの匂いがプンプンする。あ、そうなんですか。じゃあ安心ですね! と素直に受け取るほどの純粋な心は残念ながら持っていない。もし食べたことによって体調不良を起こしたり命に関わる事態に陥ることになったら。一応俺には毒耐性があるらしいが、試したことがないので信じきれない。それになにより……


 「心理的背徳感からくる嫌悪ってところかしら」


 行動できずにまごついている俺に神様は冷めた目で問いかける。


 「生きているうちは触れるけど死んでしまったら触れない。死の恐怖を感じるから怖い、事実を受け止めるのが怖い。この感情を抱く人は一定数いるから状況によっては慣れろとしか言えないけど、ただ自分の実力を試したいから殺した、後は腐って朽ちろとは――なんて人間は愚かで我儘な存在なのかと改めて失望するよ。感謝の気持ちと弔う心は持つべきじゃないかな」


 「うっ……いや……」


 否定したい部分もあるが、たしかにトロールを殺したのは自分の力の証明で、無駄な殺生と言われれば返す言葉もない。これが誰かの依頼だったのなら、人助けだったなら正義の名のもとに、ただの敵として処理できていたのか。見る位置から変わる命の見方……


 「それとも二足歩行をする同種族に似た生き物は食べれないと? 人種が太ればこうなるかもしれないけどよく見て、色は青いけどどう見ても豚でしょ?」


 横たわる青い巨体をもう一度まじまじと見る。太くて長い腕、太くて短い脚、贅肉の塊といった胴、顔だけが豚で首から下が人とあまり変わらない。だから共食いをするようで気が進まない。その気持ちが一番ひっかかる。ばかな話だと思う。修業によって虫も食えるし殺すことに戸惑いもなくなったのに、肉としては食べごたえの有りそうな比較するまでもなく美味しいだろう獲物を食えないと思う心。

 虫を食うときもこんな気持ちだったなと思い出した。あのときは師匠から感じるプレッシャーが虫を食べることよりも恐怖だったからすぐに実行できた。今は美人の神様がジッと見つめ俺の答えを待つ。


 『試したいから殺した、後は腐って――』『人間は愚かで我儘な――』『感謝の気持と弔う心』


 ――怒られたから意味を考えずにただ食べればいいという話ではない気がする。メッセージが隠されているとしたら……

 俺はナイフを取り出しトロールの解体作業に入る。ゴブリンの解体作業と比べるとパーツごとの重さが段違いで苦労したが、みんなで協力し食べれる部位を仕分けし終えた。血抜き作業と水による肉の冷却、使わない部位の埋め立てなど精霊様がとても活躍した。


 「ふ~……屠殺(とさつ)って思ってた以上に疲れるのね。一つ一つが重たいし、なにより精神的にくるものが大きすぎるわ」


 神様は声を震わせて感想を口にした。解体時キャーキャー叫んだり急に泣いたり吐きそうになったりと大変だったしね。俺も初めてゴブリンを解体したときはビクビクと体が震え、見た目と血の匂いで吐いたり涙を流したりしながらやって何回も師匠に蹴られたな。おかげで覚悟を持って作業に入れるけど、それでもまだ感情がなくなるには時間がかかりそうだ。


 「ふ~……ごめん、ちょっと、横になる……」

 「大丈夫でしゅかウインリーしゃま、水を飲んでくだしゃい」

 「ありがとうコッキちゃん。大丈夫、ちょっと休むだけだから」


 初めは俺一人で作業をするもんだとばかり思っていたが、神様達も積極的に参加してくれたのには驚いたし嬉しかった。しかし手際を見る限り神様はあまり料理をする方ではないみたいで、いきなりこれはきつかったのだろう。青い顔をしてダウンしてしまった。

 神様といっても俺たちと変わらない普通の人間って感じだ。最初に会ったときに神具を着てこなかったことを悔やんでいたが、それだけ別世界で神として生きるには大切なものだったのだろう。

 神様が休んでいる間に大量の肉を調理することにした。といっても長けてるわけじゃないので思いつくのは焼くのと燻製ぐらいだけど。

 どの部位がうまいとかも分からないから、脂身が多いのを今食べるように厚めに切り塩を振って味付けをする。焚火台を精霊様に用意してもらい、調理した肉に枝を刺し炙り焼きにするのをお願いしたところ「火の側は燃え移りそうで嫌でしゅ」と言うので、確かに燃えそうだと納得し燻製用の肉を切ってもらうことにした。


 「うろ覚えですが、燻製肉は薄く切って塩を振って揉んでください。そうしたら焚火の煙で(いぶ)してカチカチになったら出来上がりです」

 「分かったでしゅ。どの肉を切ればいいでしゅか?」

 「そうですね……肉の量と種類が多いのでそれぞれちょっとだけ切って燻製に適した肉を見つけますか」


 この手探り感が楽しいと感じる俺は料理が好きなのかもしれない。今度得意な人に教えてもらうのもいいかも。孤児院の指導役だったユウキャンが得意そうなイメージがあるなー。みんな元気にしてるだろうか。

 そんな感じでよそ事を考えていたら炙っていた肉が少し焦げてしまった。集中しなくては!


読んでいただきありがとうございます。

小さい頃魚をさばいたときあまりいい気分ではなかった記憶があります。

内臓を取り除いたときの感触、頭を落としたときの骨を砕く感触。これの拡大解釈が動物であり人なのかと想像させられました。


それでは次話もよろしくお願いいたします。

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