34話 トウコ道中記4
この山林は高木が密な状態で生えている山である。木に覆われる前は雑草が生えており緑色でいっぱいだっただろう。花畑だったかもしれない。しかし木で埋め尽くされると日光が当たらなくなり、草花は消え、腐葉土で地面は茶色く染まる。日陰でも成長する種類もあるため全ての山林がと言えないが、少なくとも今いる所はそんな木が密接・密集し腐葉土の密度が濃い三密山だ。
身を隠せる場所を言えば木の裏、盛り上がった根っこ、岩、倒木ぐらいだろう。かくれんぼの場合鬼が一人なため探すのに時間がかかるが、人海戦術で探索されたら地形的に不利だ。
しかしゴブリンの数を読み取れるヒントはあった。水くみの道具がヒントだ。革袋が8個でツボなどの大量に保水できる道具がない。サワガニも取れそうにない水の量をテリトリーにしていることから考えてかなりの小規模。逃げた二匹で全部かもしれない。そうなると戻ってくる可能性は0に近い。戻ってこないなら戻ってこないでしょうがない。だが俺はリーダー格を連れて戻ってくる方に賭けた。
確信があるとかじゃない、直感だ。直感勝負上等!!! しかしただ腕を組んで待ってるような馬鹿な真似はしない。神様が実践してくれたじゃないか。迎え撃つなら自分なりの策を張らせてもらおう。
頼むぞ……成功してくれ……神様ほとけ……ん?
「そういえば神様、神頼みってあるじゃないですか。こんなにも近くに祈れる存在がいらっしゃるなんてラッキーですよね。祈っていいですか?」
「おほ、いいわよー。あー、でも私の考えは祈りより決意派ね。汚い私利私欲をぶつけられても聞き流すだけだし。厳密に言えば耳に入れるのも嫌だからそれっぽい内容は全部オートでミュートでボッシュートよ。私がゲームするための貴重な時間を、無駄な祈りで邪魔しないでほしいと思ってたわね。あ、そういえばこの前の美少年がやった心の叫びは響いたわーぐへへへへへ」
この神様は包み隠さず余計なことを追加して話すなぁ。
「後半は聞こえなかったことにしてほしいでしゅ……」
それを聞いていたコッキが消火活動に入った。いつもこんな感じなんですよオーラを出しているようなないような。ご苦労さまです。
「そ、そっすか。じゃあ決意を。えー。俺は自分が戦えるという自信を付けたい。そしてこの困難な旅を共に乗り越えていける仲間としての絆を作っていきたい。がんばります! 勝ちます! よろしくお願いいたします!」
俺の決意表明を聞いた神様は満足げにうなずく。
「限りを~尽くせ☆」
顔の横で両手の親指・人差し指・小指を立てつつ満面の笑顔を挟みながらの神様の言動。星を作り出しそうなその仕草はまさに超時空シンデレラ。ボディラインは銀河の妖精に肉付けをした包容力を具えており、俺は目の前で新生星が爆誕したのを目撃した。あざとかわいいなぁ。屍套龍ヴァルハザクのような瘴気を纏った発言をしなければ完璧なのに。
さて、今回の作戦というか目標。俺が強くなるには強いやつと戦う。もしくは多数と戦う経験をしたい。
リーダー格がいれば俺はそいつと戦い残りをコッキに任せる、ゴブリンのみなら俺一人で戦い、手に負えなかったら助けてもらう。コッキの力は見たから次は俺の番だ。
一時が過ぎ、緊張の糸が綻びてきたころ、それらは現れた。数は4。ゴブリン3匹に2m40cmはあろうかという青色の巨体な豚が1匹だ。間違いなくあれがリーダー格だろう。見たことがないタイプによる情報不足と、その肉々しい体格から力の差は歴然だ。
「あれは……トロールでしゅ。こんなところを縄張りにするような下級モンスターじゃないはずなのに」
コッキが緊張の色を出しながら小声で話しかけてきた。
「そんなにやばい奴なのか? 強そうには見えるがコッキなら瞬殺いけそうだが」
「推定体重500kgを止めれる頑丈な根はまだ見つけてないでしゅ。それにトロールは自己再生能力が高く、心臓か脳の破壊、首を落とすぐらいやらないと倒せないと聞くでしゅ。相性が悪い相手……今回は諦めてこのまま隠れて見過ごすのが賢明でしゅよ」
戦力を計算すればコッキの言うことが正しい。あの体表を貫き心臓を止めることができる武器がない。俺の持っている武器は刃渡り20cmほどのダガーだ。脳に届くだろうが、果たして頭蓋骨を突破できるものなのだろうか。チャンスはあるが、無理して武器を無くすより無駄な行動はするべきじゃない……か。
諦めかけていたその時、閃きが雷となって全身を震え上がらせた。妙案だ。天啓だ。確かに薄っすらと違和感を感じたことだったが、実行したら間違いなく危険だと本能が察してセーブした。あれのリミッターを外せば、いける!
「コッキ、俺にいい考えがある。トロールが地面に足をつける瞬間、その足を思いっきり引っ張ってくれ。ほぼ確実に転ぶ。そうしたら両足を縛り上げてくれ。後は俺がやる。ゴブリンの処理も任せた。仕事いっぱいでわりぃ」
「それぐらいは大丈夫でしゅが、そんなことでトロールが止まるのは精々数十秒でしゅよ。危険すぎましゅ!」
「大丈夫だ。信じてくれ」
目の前にいる葉っぱモード状態になったコッキを説得する。
一度も試したことがなく、確証があるわけでなしに、だからこそ今確かたるモノにしたい。自分の最大の武器を理解するために。
興奮状態からの強がりでデタラメを吐いているだけなのか判断に難しく、かといって熟考する時間もない。迷った末に「――分かったでしゅ……」と、コッキは承諾した。
信じてくれたことに口角が上がる。
てな訳で策を変更する。
当初の策はこうだ。山水の場所に枝で骨組みを作り大きめの葉っぱを屋根にした簡易テントを作った。そこに倒したゴブリンを入れ、何かいるぞ? という気配を作る。そしてテントを囲い中を確認するかそのまま攻撃するだろう。そこを強襲する。これが第一の策で、警戒し近づいてこなかったら第二の策の隙きを見て攻撃するというシンプルなやつだ。第二第三の策とか凝ったものを考えたところで俺が覚えきれない。
この策を捨て、トロールの動き次第に変更した。親玉がすっ転べば動揺して動きを止めるだろう。俺は隙きができたトロールを叩く、コッキはトロールに注目している無防備なゴブリンを叩く。神様は現場指示。これでいく。
よし、開戦だ――!