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33話 トウコ道中記3

 神様を追いかけるのに出遅れた二匹のゴブリンは、慌てて逃げたようで、山水付近に革袋を残して姿を消していた。

 俺は倒したゴブリンから戦利品である黒い小さな角を剥ぎ取り、荷物入れにしまう。


 「水もあることだし、ここで休憩にしませんか?」


 手が汚れたし、戦闘による緊張で休みたい。何より


 「相談があるんです」


 そう、俺は気づいてしまったことがある。それを聞いてもらいたい。

 神様たちもここで休憩をとるつもりだったらしく腰を下ろし一息つく。


 ふぅ……しかし予定通りにいかないものだなぁ……道も、なにより自分の気持ちが。


 サンドローズ国から出る前は正直な話、旅なんて簡単だと楽観視していた。なにせ目的地である竜神の古戦場『クリスタルロマン』までの道は整備された道があり、そこを目指す馬車に声をかけ乗せてもらう。それだけなのだから。実際に途中までは順調だった。



☆三 ☆三 ☆三三



 三日前。俺たちは騒動に紛れ関所を通過し急ぎ足で離れた。あの時ビンベンが用意してくれた薬草採取依頼書を見せたら疑われることなく出れたけど、見えないところへ、見つからないところへ、早く早くと、本当は尾行されているんじゃないかって焦燥感に駆られながら急いだな。ゴブリンと戦ったときと同じように、単純に怖かった。心臓の音がうるさいんだ。こんなにも鳴っていたら気づかれてしまうんじゃないかって。耳と口から音が漏れているんじゃないかって両手で塞ぎたかったな。


 それからしばらく歩くと早馬を見かけるようになった。サンドローズ国方面、つまり後方からきた者は俺たちに目もくれず通り過ぎていくが、正面からきた者は足を止め「おい! お前たちは光の柱を見たか!」「こっちであっているか!」と急き立ててくる。

 今急いでいる者たちは大体が光の柱の情報収集と拡散で動いているのだろうと察した。こんな近くで見ていないと嘘を言っても怪しまれるだけなので、素直にあっちの方角で見ましたと告げ別れる。

 ここは暑い地域なため、ほとんどの者が日光を防ぐための外套で身を包んでいるから、俺たちも相手に不自然な行動だと思われずに顔を隠せるのがありがたい。

 顔を隠す理由は2つある。いたという印象を残してしまうと足取りを追われる可能性。そしてなにより神様が可愛すぎる。経済的に疲弊しているため働き手は痩せ気味が多い。その中で神様のような肉付きの良い女性が少人数パーティーで歩いていたらどうなるか想像に難くない。森の精霊コッキも強そうな見た目じゃないし、性別を悟られないほうが安全に旅をすることができるだろう。


 そもそも、護衛役の俺はゴブリン一匹倒したぐらいだから、守れるほどの力がないんだよなぁ。師匠との修行が短すぎたのが悔やまれる。あのまま続けていれば俺だって……クソッ

 持ってきた武器はボクスのダガーと保存食を作ったときに使った包丁。このチョイスよ、シビレルだろ。

 双剣のように振り回してみたら自分の腕を斬りそうで怖くなりすぐにやめた。

 水と食料も二人と一匹ならすぐなくなる量しか持ってこれなかったが、ありがたいことにお金を貰ったから、行く先々で購入していけばいい。


 そんな事を考えながら進んでいくと、神様が「疲れたからもう動けない、動かない、動きたくない。ついでに働きたくない」と足を止めへたり込んだ。これまでもちょくちょくと小休憩を挟んできたが、ついに限界が来てしまったようだ。俺はなるべく早く先へと行きたいんだが……カーッしょうがないなー。動かなくなったならしょうがないなー。そりゃー体に重そうなもの二つぶら下げてたんじゃ、足への負担も相当だろうしなー。カーッしょうがないなー。

 国から出た当初は砂だった地面も硬みを増し、やがて雑草が所狭しと競争する土へと変わった。日も落ちてきたし野営するにはいい場所とタイミングだ。見渡したところ、日や風を遮る良物件の木が数本生えている場所は、先客が野営の準備を始めている。やり方を盗み見ていたら警戒されたのか、視線を向けてきたので慌てて「む、向こうで野営しまう!」と告げ、一本木の場所まで移動した。しまうってなんだよ恥ずかしい。あああああああああああもう! 疲れてたから口が回らなかっただけだしっ。


 「顔を赤くしてどうしたの?」


 様子がおかしかった俺に神様が心配して聞いてきた。


 「いえ、何でもないですよ。ほんと、ははははは。さって野営の準備をするかなー」


 ごまかせたのか分からないが、もうこの話はお終いにしたくて話を切る。神様は首をかしげたがまあいいかと腰を上げた。


 「そうね、じゃあ野営の準備をしまうねー」


 ん? 今なんて?

 ドキリと胸が鳴り神様のほうを見ると、コッキが「しまうーしまうー」と続けて言った。


 「ちょっちょっとちょっと! 聞いてたんですか!! 聞いてたんですか! も―!」


プッと吹き出し笑いが起きる。恥ずかしさで顔がアッツイ! 今すぐに瞬間冷却スプレーで冷やしてくれー!


☓ ☓ ☓


 歴史が積み重なってきたのだろう。ここが野営地だ! と言わんばかりに使用跡があり、焚き火の風よけ石を集める作業を省けるのがありがたかった。

 後は燃やせる木を集めるだけだなと話したら、コッキがやると言ってくれたのでありがたいと受け取りドッと腰を下ろす。正直めっちゃ疲れた。足ガクガクです。神様が休憩しようって言ってくれないかと我慢しながら歩いていたんだ。しばらく立ち上がれないなこれ。なんならこのまま寝ちゃいたいまである。

 俺と神様は荷物入れから取り出したパンと、水が入った革製水筒を持ち、木に背を預けて座って食べる。気持ちのいい風が体を癒やし、頭上で揺らぐ葉の音が精神を癒やす。神様とコミュニケーションを取るべきだろうけど、ちょっとボーっとしていたい、そんな気分だ。

 そんなこんなでぐったりしながらコッキを見ていたら、これが精霊の力かと驚かされた。

 まず薪になりそうな低木に近づき枝を数本切り戻ってきた。次にもぞもぞしたかと思ったら足元から根っこが出てきて地面を掘り起こし先程の枝を刺していった。そして体を傾けたら、頭にある花からじょうろのように水がシャーっと出て枝にかかり、みるみると成長し低木が生え揃った。生えた低木に根を絡ませたら、みるみると乾燥していき、折ってバラバラにした。最後にヒモギリ式の要領で火種を作りあっという間に焚き火が完成した。

 俺の心情を察したのか神様が自慢げに語りだした。


 「どう? 私のコッキちゃんはすごいでしょ。枝や種があれば増殖し放題よ。水もすくい上げる過程で濾過されるから飲水に困ることはないわ」

 「水があるところまで深く潜らないといけないから大変だったでしゅけどね。川とかで濾過するだけのほうが楽そうでしゅ」

 「え、そうなの? 知らなかったな」

 「神界とこっちでここまで差があるとは思わなかったでしゅ」


 やってみてびっくりしたでしゅと手をあげ驚いた風にコッキは言う。神の世界との差……? 神の世界だから生活しやすいのは当たり前と考えるべきか、それとも……嫌な想像と結びつけそうになって頭を振りさっさと食事を終わらす。


 「精霊ってすごいことできるんですね―。この力を使って商売をしたらすぐに大金持ちになれるんじゃないですか! 大金持ちですよ神様!」


 いきなり勝っちゃったなガハハ! 札束ビンタでこの騒動をさっさと終わらせて心の平穏を取り戻したいね。

 神様たちも俺の提案に喜んでくれるかと思ったが、予想と違いニッコリと微笑んで


 「そーねー、あなたは召喚者、力の使いみちに気づいたなら好きにやればいいわ。でもね、それによってどうなるのか、あなたが深く傷つく前に気づけるといいわねー」


 と、否定気味な言葉を返してきた。引っかかる言い方にムッとした俺は「なんですか、知ってるならもったいぶらず教えてくださいよ」と少しだけつんけんとした態度をとった。


 「あーなんかごめんね。神は気まぐれで、言葉はいつもデタラメなの。それに悩むのがいつもあなたたちすがるもの。気にしてもしょうがないから、明日夢から覚めたら忘れてね」


 ぽんっと小さく音がなる。それは四本の指を手の腹に当てたときに鳴った音だった。片手で行われた不思議な動作に、神らしからぬ言葉。しかしその音を聞いた時、“初めから答えを聞くのでなく自分らしい答えを見つけなさい”という言葉がスッと頭に浮かんだ。それは確かに不思議としか表現できない体験だった。


 戸惑っている俺にコッキが声をかけてきた。


 「今日は疲れたでしゅよね? マッサージしてあげるでしゅ」

 「あ、え? マ、マッサージ?」

 「そうでしゅ、コッキのマッサージは天界にいても天に登る気持ちよさと評判なんでしゅよー。任せてくだしゃい!」


 度々出るな神様ジョーク。確かに疲れているしお願いしよう。


 「じゃあ、お願いしようかな。天にも登る気持ちよさっていうパワーワードめちゃくちゃ気になるし」

 「ノーノー。天界にいても天に登る気持ちよさ、全部言うのが大事なんでしゅよー」

 「職人特有の謎こだわりっ」


 譲れない何かがあるんだろうね。そのためなら命だって惜しくないみたいな。

 俺はうつ伏せになり受け入れ体制をとる。


 「あまりの気持ちよさにコッキちゃんに惚れないでよねー。コッキちゃんとの交際は認めません」

 「ちょっと何言ってるかわからなぬあああああああ!」


 コッキから伸びてきた無数の根が全身を包み込み、低・高刺激、微振動、高圧迫、あらゆる技で俺のツボを刺激してきた。


 「ひゃめええええ! ぬひゃひゃひゃひゃ! ぬおおおお!」


 こんなの何も考えられない……ッ頭がフット―しそうだよぉな高等テクニックによって俺はいつの間にか眠りについていた。子守唄は神様の爆笑だった気がする。


 翌日、神様が「おっはよー、ゆうべはお楽しみでしたねー」と笑いながら言ってきたのを軽く流し出発。歩いている途中で馬車に乗せてもらうことができたが、騒動により進めなくなり情報収集を目的とした野営をして二日目を終えた。得られた情報は目的地の場所と近くの人里、一般常識などで、中でも気になったのは精霊はとても珍しく一部では神と崇められていたそうだ。これは神様が危惧していたため、コッキを可愛いリュック風に偽装していて正解だった。


 そして今に至る。

 俺は逃げたゴブリンがこの山水に戻ってくるだろう、しかも確認と復讐も兼ねてリーダー格を連れてくるに違いないと告げた。神様は取り乱すことなく冷静に「それでどうする?」と聞いてきたので俺はつっかかっている心のもやもやを吐き出した。


 「俺は弱いのかもしれない。けど、足を引っ張るだけのお荷物にはなりたくない。ここで時間を食うのも馬鹿だけど、だけど、俺もやれるって自信をつけたい! 罠で倒すことを卑怯と思わない。けど、戦う機会がほしい」


 安全に旅をするならコッキに頼るのが正解。すごく便利でめちゃくちゃ強い。だが、俺がそのポジションに就きたかった夢があった。精霊様だ。神様と崇められてる存在に嫉妬するなんて恥ずかしい限りだ。でも、抱いてしまったんだから仕方がないじゃないか。


 「仲間はずれにしないでほしい……」


 一瞬でゴブリンを倒したのは素直にすげーと感心したけど、何も知らされていなかった事を考えた時、急に寂しさが湧いてきた。女々しくて言わないでおこうと胸にしまうこともできたが、ボクスが“最高のチームを作りたければ会話してお互いを知ることが重要だ。趣味、性格、得意な武器、利き手、魔法、思考理念。情報が蓄積すれば相手がどう動くのか察することができるようになる”と教えてくれたのを思い出し話すことにした。


 下を向き返事を待つ俺に、ジッと聞いていた神様が近づいてきて、何をするかと構えていたら力いっぱいの抱擁をしてきた。


 「ならば勝ちなさい! トキ・ワタリ!」

 「……はい!」


 驚愕からの柔らかい感触、熱い体温。アツイコトバ。この抱擁は勇気と自信をくれた。あとは期待に答えるのみ。

読んでいただきありがとうございます。

次話もよろしくお願いいたします。

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