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26話 見え方の違う運


 俺は噛むことによって『魔素吸収』ができる能力があることが判明し、その過程で国のトップから数えたほうが早い英雄級の者たちが編成された、対魔防一班メンバー4人分の魔素を体に溜めることができた。


 本来英雄級一人分の魔素を溜めるには長い時間を掛けてトレーニングを積まなくてはならず、かといってトレーニングを積めば誰でも英雄になれるほど溜めれるわけではない。経験の中で発見できるセンスが無ければ上達しない。この感覚は人それぞれ違うため参考には出来るが、真似をしたからといってうまくいくことは稀だ。


 この『魔素吸収』が分かったのだって班長のポンドゴーが『魔眼』を使えたからこそ発見できた偶然の産物みたいなもので、4人分の魔素を溜めれたのもたまたま庭がフィールドなのも魔法を会得できたのも全て運が良かった。


 しかし安易に使ってしまった魔法が発動に成功したのは、果たして運が良かったものだったのか。

全てが終わって振り返った時、ここがターニングポイントだったんじゃないかと思う。

もし…


        ★


 「こんな…ことって……本当に精霊様なの…?」


 チョチョコーネが信じられないとばかりに目の前で起きたことにただ呆然とする。


 俺も精霊召喚がこんなにも派手な演出をするとは思いもよらず、また召喚によって現れた女性が気持ちよさそうに寝ているというどうしようもない状況に戸惑いを隠せない。


 「どうした!」「何があった!」「何だ今のは!」と辺り一面が白色に覆われた異常事態にすぐに庭に駆けつける3人の男たち。

 ポンドゴー、ボクス、ビンベンは庭で寝ている女性に気づき説明を求める目線を送る。


 「俺が森から魔法を頂きまして、『森の精霊召喚』っていうんですけど、使ったらこうなりました」

 「精霊召喚だと!?そんな…!高名な魔法使いが大金をかけて数人規模で行っても成功する確率はかなり低いとされているのに…。ん!?魔素値が空に近い、あれだけの魔素をほとんど使ったのか。そうか!魔素をかき集めるより1人でまかなえたほうが効率がいいのか」

 「うっ」


 急に目眩と気持ち悪さでその場に座り込む。


 「魔素を一気に使ったらそうなる、休め」

 「は、い」


 乗り物酔いをしているかのようにズキズキと頭も痛くなる。吐きたい…


 「それより大変なことが起きた!光の線が天から刺さった!」


 チョチョコーネが精霊召喚の時に起きた出来事を、もっとも警戒しなくてはならない事を話す。


 「天から光の線だと…!?」

 「これはまずいよポンドゴー。世界が動く」

 「なんてことだ…まだ復興中のこの国の国力では…どうする班長!」


 サンドローズ国は300年前に起きた“神の怒り事件”の衝撃波によって、絶対に壊れない壁と城とその後ろにあった建物以外に甚大な被害を受けた。急速に国力が低下した状況下で各国からの勇者召喚責任の罪を問われ、身の潔白を証明するため復興予算を削り調査費用に充てた。こうした動きは先を見れる者には理解できたが、学のないものには理解されず内乱が起き、300年経った今でも国は復興のさなかである。


 「はう~~~コッキちゅわ~~~ん…ん~~…むにゃむにゃ」


 突如寝ている女性から声が発せられ一斉に注目する。

 どうやら寝言だったようで体をもぞもぞ動かし持っている草みたいなものに頬ずりをしている。

 すると草がプルプルと動き出しぽぽーんと手と足が出てきた。


 「んーーーー。よく寝たでしゅ。しゅ!?」


 伸びをして周りを見渡すと異常さに気づいたのか驚きの声を上げた。


 「しゅしゅしゅしゅわああああああ!?大変でしゅ!!ウインリーしゃま大変でしゅ!!」


 大声を上げながら寝ている女性の体を揺さぶり起床を呼びかける。

 すると半目を開け揺さぶる草を見つけると先ほどと同じ様に「はぅ~コッキちゃんかわいいでちゅね~、ん~ちゅっちゅっ」と愛情いっぱいに()でだす。

 やられている方は「そんな場合じゃないでしゅ!大変でしゅ!大変でしゅ!」と慌てて事態を知らせようと必死に抵抗している。

 やっと耳に届いたのか草から顔を離すとみるみる目が開いていき事態の異様さに気づいたのが誰の目からでも分かった。


 「ななな何?ここここここどこですかぁ?なんでわたしここにいるんですかぁ?ひぇぇ、うご、動かないでぇ!」

 「ウインリーしゃまぐるじいでしゅっ落ち着いてくだしゃいっ」


 動揺が見て取れる。そりゃー起きたら知らない場所にいて知らない人に囲まれていたら誰だって怖がる。考えてみたら『召喚』って極悪だな…。誰かさんみたいに落ちていたんならともかく普通に生活してた所を呼び出しちゃうんだからな。申し訳ないことをしてしまった。目の前の反応を見て自分にドン引きしちゃった…


 「チョチョコーネ、彼女に落ち着いてもらうように説明を」


 ポンドゴーが同性同士のほうが落ち着くだろうと判断したようだ。なるほど、たしかにここで男が出ていったらもっと怖がらせてしまう。


 「落ち着いてください精霊様。私達は貴方様に危害を加えようとは考えておりません。この通り何も手にしておりません。どうか、どうか、私達の話を聞いていただけないでしょうか」


 膝をつき手を広げ何も持ってないことをアピールする。


 (おお、ちょっと心配だったけど普通に言えている。普段のチョチョコーネさんで考えたらもっと簡素に言っていた。こんな一面もあるんだな。俺はまだ全然知らなかったんだな)


 少しの付き合いでその人を分かったように考えていた。自惚(うぬぼ)れというのか世間知らずというのか、まだまだ人間が小さいことに恥ずかしさを覚えた。


 説得が通じたのか彼女は徐々に落ち着きを取り戻し、周りを確認しているのをみると頭の中で状況を整理しているのだろう。

 草みたいなのを抱きながら「精霊…様?と言いましたか?」と確認してきた。


 「はい、そうです。この者が『森の精霊召喚』の魔法を使いまして精霊様に来ていただいた次第であります」


 俺達も一緒に膝をつき危害を加えるつもりはないアピールをする。


 「……」


 しばらく草みたいなのと見つめ合い考えを巡らせているようだ。

 自分の中で決心がついたのか姿勢を正し前を見つめ、口を開き衝撃の事実が明かされた。


 「精霊召喚には膨大な量の魔素が必要でしたね。よく1人で唱えることが出来ました。褒めて差し上げます。あなたが召喚した精霊はこちらのコッキになります」


 スッと持ち上げられた草みたいなのを精霊といいだした。


 「……え?」

 「えっと、つまり、そうなりますと、貴方様はいったい?」


 俺たちは誰もが今喋っている女性が精霊様で、草みたいなのは妖精とか眷属なのだと勘違いしていたようだ。じゃあいったい誰なんだ。


 女性は恥ずかしそうに口をもごもごしていたが意を決し再び喋りだす。


 「わたしは神ウインリー。この子と一緒に…えっと……抱いて寝てたら一緒に召喚されてしまったようです……」

 「うぅぅぅぅ、恥ずかしい」


 「「か、神様!?」」


 もうどう言って良いのか分からない空気が吹き荒れており、ここは一番いい判断をしてくれるだろう班長に全てを任せるしかないね!という視線が一斉に集まった。


 しかしこれは海老で鯛を釣るって言っていいのかな。

 神様、釣っちゃいました!!!って冗談で言っちゃいけねえな。

 どうしよう、やばすぎ。



読んでいただきありがとうございます。


運がいい事が起こってもそれがなかったらまた違った運命があったのだろうかと

考えてしまいます。

有名な方がよく人生のターニングポイントを振り返りますが、その時じゃなくてもいつかは気づけたのかもっと凄いことになっていたのかそうじゃないのか。


では次話で。

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