24話 盛ってなんぼでしょ
本日も空は晴天なり。
俺は師匠であるビスマルショットに担がれ、ものすごい速度で森を抜け野を駆け馬を抜かす。これぞ超特急飛脚便。道路整備されていない場所に車なんぞいらんのだ。
すれ違う馬車の中から子供が手を振ってくるので見えてるかどうかわからないけど振り返す。
そんなこんなですぐに帰ってきました我が祖国。
懐かしき建物に感傷に浸りたかったのもつかの間、荷物は降ろされる物。
今回は優しくではあったけどもそれなりに転がされる力で放り投げられた。
「あがっうっぐぐぐ…」
ビクビクと震えながらも腕を地に立て体を起こす。
痛み。生きてる証。耐えれる痛み。こんな怪我大したことない。
クックックックッとニヤついていると声をかけられる。
「やあやあやあ、修行の成果が出ていると一瞬でわかる毒され方で帰ってきたね。お疲れ様でした。がんばったね」
「ボクスさん!」
俺がお世話になっている対魔防一班サポーターのボクスが出迎えてくれた。
「少し大きくなった。男子三日会わざれば刮目して見よってことかな。お帰り」
「チョチョコーネさん!」
同班であるエルフで美人なチョチョコーネも一緒に出迎えてくれたようだ。緑色の瞳が宝石のようで見惚れてしまう。
「ただいま戻りました!仕事途中で抜け出してすみませんでした!」
ボクスに出された手に掴まり立ち上がって帰還の報告をする。そして一番報告したかった事を告げた。
「聞いてください!俺魔素を使えたんです!まだちっちゃい豆粒サイズですけど魔素障壁を作れました。これからトレーニングを繰り返していけばいつかは火とか使えるようになれますよね!」
「それは…本当かい?すごいじゃないか。そうかそうか…うんそうだね、トレーニングを続ければいつかは魔法が使えるようになるさ」
歯切れ悪く考える素振りをしながらの返答ではあったが、トレーニングを続ければ魔法が使えるという確証がボクスからも得られたことに歓喜する。
「ボクス、約束通り返すとする。俺は孤児院に顔を出しに行くが持っていく物があるならついでに持っていくぞ」
「ハッ!確かに承りました!お疲れさまです。孤児院へは今朝行きましたので特にありません」
「ではな。トキ、筋肉は裏切らない。励めよ」
これで本当に修行が終わり解放されたということで、少し別れが悲しいこともあり最後にあれをやろうと言葉にする。
「なんだかんだでしたがとても為になりました!ありがとうございましたくそ師匠!」
さあくるぞ!左か右か…左だ!
しかしいつまで立っても蹴りは来ず、近づいてきた師匠は俺の頭に手をポンっとあてると「ボクス、教育しておけ」と言い去っていった。
最初はその行動に理解が出来なかったがすぐにやってしまったと気づき自分の愚かさに冷や汗をかく。
俺は弟子という立場から1班の管理下にある下働きという立場に戻った。その相手を蹴るという問題行動を2班の班長という立場の人がやるわけがない。だからボクスに教育を促したんだ。
「トキ君、今の発言―――」
「申し訳ございませんでした!失礼な発言をしてしまいました!修行の時のノリでつい…調子に乗りました……すみません」
「…自分でそこにたどり着けたのなら大したものだよ。うん。あれはくそ師匠だからもっと言ってやれ!ハッハッハッハッハッ」
今ならこれが冗談で言われてるのがわかる。立場を軽く見てしまうと俺達のような弱い者は一瞬にして圧倒的な力で殺されてしまうのは見たじゃないか。あの蹴りを防ぎたいという自分の感情を優先させてしまい調子に乗ってしまった。
(うぅ…気持ちがすげー落ち込む……)
するとチョチョコーネが肩に手を置いて励ましてくれた。
「失敗して、反省する。次に同じ過ちをしなければいい。考える知識を持っている。あと少し、がんばろ」
言って良いことと悪いことは場所によって変わる。考えのない発言は心を濁らし身を滅ぼす。最悪なのは他人を巻き込むこと…か。最後の補習修行、勉強させてもらいました。
「さあさあさあ反省はおしまいだ!とりあえず水浴びしてから着替えてそれからご飯にしよう!ポンドゴーは仕事が終わったら来るっていうことだからその時に修業であったことを聞こうかな」
「いつまでもこんな格好でいたらだめですよね。水浴び行ってきます!」
ここの施設は仕事をやりにくる場所で誰かが住む場所として作られてはない。俺は元々物置だった場所に住まわせてもらっている。湯を沸かすことはできるが土地柄水浴びでも少し我慢するだけで問題ないため、日が出ている時は水浴びで済ませている。
ギコギコと手押し式ポンプで水を出しひとっ風呂とした。
タオルで水滴を拭き部屋に戻るとハンガーラックがあり、そこには白のワイシャツと黒のスラックスが掛けられていた。
(本当に師匠は抜け目ないなぁ)
着替えながらベッドを見ると文字が書かれた紙が置いてあった。
真ん中に大きくおかえり!と書かれその周りにがんばって・負けるな・おかえりなさいなど寄せ書きをされていた。
孤児院の子供たちと1班の人たちからだろう。一週間という短い時間なのにこんな素晴らしい物を用意してくれることに感動した。一生大事にしよう。
恩返しか。いい言葉だ。相手が喜ぶだろうことを考えるのは楽しくて気持ちが暖かくなるな。さっき落ち込んでモヤモヤした心の闇が晴れていくようだ。
それからご飯を食べ1班班長のポンドゴーに報告する時間となったため会議室へと向かった。
「――――報告ご苦労」
会議室にはポンドゴー、ボクス、チョチョコーネに細めの男性、ビンベンがいて椅子に座って俺の報告を聞いていた。
(どこかで見たことがある人だと思ったら一緒に連れションした人だ。この人も一班だったのか。考えてみればあのトイレでしてるってことは1班か2班のどっちかだしな。後で助けれくれたことをお礼言わなきゃ)
報告した内容に何か思うところがあるのかそれぞれが考え込む。
(説明下手だったよなぁ…ぐわーとかババーンとか擬音語使いすぎたよ。だってそのほうが感情がのるというか話してて楽しかったし)
「まずは一週間の修行ご苦労さまでした。詰め込んだ感はるが短い期間だから合格ラインでいいだろう。…さて、魔素が使えるようになったそうだから基礎は学んだと思うが、生き物は必ず魔素を生産していてそれを利用して魔法やスキルを使う。ここまではいいな?」
「はい大丈夫です」
「ここからはなぜ君が魔法を使えないかもしれないと予防線を引いたかという説明をする。またなぜ君を秘密の存在にしたのかもだ。変な事を言うが落ち着いて聞いてほしい」
今からとんでもないことを言われる雰囲気が漂ってきて緊張が高まる。え、俺は変なやつなの?
「俺は魔眼といって魔素を見ることができるスキルを持っている。これはそのモノがどれだけの魔素量を保持しているのかも値として見ることが出来る。…あれはここにいる1班でグラトニートラップの調査に出たときの最終日だった。帰還準備をしている時に魔眼で警戒していたにも関わらずお前を見逃していた。たまたま違和感があり発見し救出したんだ。わかるか?発見時の君には魔素値がなかったんだよ」
「それは…どういう…ことになるんですか」
生き物は必ず魔素を生産する。俺は魔素がない。俺は生き物じゃないってことになってしまう。グラトニートラップではゾンビが出るという。ゾンビとはつまり死人ということだから生き物ではないと考える。つまり……
「混乱するのはわかるが早まった考えを持ってはいけない。君はこう考えただろう。俺はゾンビなのではないかと。しかし違う。ゾンビも魔素を生産している。ゾンビは毒によって人が変種したモノだ。君の状態に近いものでスケルトンがいるがあれでも魔素を蓄えている。全くの0の状態で動けるのは観測史上君が初めてだ」
そこまで言いポンドゴーからボクスに語り部が移る。
「僕たちは考えた。第一に考えなくてはならないのは国にとって驚異となる存在ではないのか、と。
グラトニートラップは毒が強くて耐性装備なしだとグラトニーゾンビ化をしてしまうんだ。トキ君を見つけた時は何も身に着けていなかった。それでもグラトニーゾンビ化をしている様子がない。つまり新種の魔物ではないかという疑いが真っ先に上がった。しかし助けた時に人らしく水を飲み会話も出来た。
そこで2つの仮説を立てたんだ。
まず1つ目は観測できる前に常に毒に対する魔素障壁を使っているため0の状態になっている。
2つ目はトキ君の母親がグラトニートラップで生活をしていて出産した。劣悪な環境下で過ごしていると稀に耐性を持って生まれてくる子がいるらしいと聞いたことがある。
どちらにしても修行の間腹をくださなかったところをみて毒耐性を持っていると考えていいんじゃないかな。チョチョコーネどうぞ」
ボクスがチョチョコーネに会話を回す。1人ずつ考えていたことを話していくようだ。
「私もトキは毒耐性を持っていると確定していいと思う。美味しいけど大量に摂取すると腹を下してしまう葉っぱをぱくぱく食べちゃうし。あと変な反応もして面白い。たまにすごい寝癖で面白い。庭に来ると木たちが喜ぶのが不思議。才能あるかも。次ビンベン」
ビンベンはトイレ以外で会っていないからどういう人か気になる。話を聞いてて色々思うところがあるがまずは黙って聞こう。
「ふ~む、私は過去に同じように魔素が0の者がいないか書物を漁ってみたが今だなしといったところだ。医師にもそれとなく聞いてみたが完全な毒耐性持ちはいないそうだ。しかしボクスが言ったように劣悪な環境下でも生きていける生物がいることから突然変異に一票だな。
なぜ君を秘匿にしなくてはならなかったのか。それは報告してしまうと間違いなく医療機関に連れて行かれて最悪解剖されてしまうと予想したからだ。ここで話していることは自分の身を自分で守れるようになるまで話すなよ。以上」
全員が考えていたことを出し終えたようだ。つまり俺はなんだ?毒になるのが嫌なので突然変異で生まれて魔素を毒耐性に極振りしてますってことか?そりゃ毒になるのは嫌だからいいけど変な体だったんだなぁ。記憶がないのと関係があるのだろうか。
「そうなると魔素障壁を作れたというのがおかしいってことですよね?」
魔素を毒耐性に極振りしてるなら魔素障壁に割ける魔素はないはず。皆が悩んでいた理由が分かった。
「そうだね、実はここに来た時に魔眼で見た結果君に魔素が溜まっている事が確認できた。しかし生産されているわけでもなく出ていってもない。先程話しに上がったスケルトン状態になっている。俺は話を聞いていてあることを思い出した」
確信に迫る話し声に変わり聞き入ってしまう。
「チョチョコーネが育てている木に魔素を微量だが蓄える特徴を持つ葉っぱがある。これは齧ると魔素を吸収することができる。トキ君がゴブリンを倒した方法は最後に首を齧っている。他の修行をした者たちは木や石に頭をぶつけて殺したり首を締めて殺す。ボクスは殴り殺したが。これは本能で動いた結果選択される行動だ。トキ君の本能は齧る事だな。
昔国内で暴れていた危険種がいた。夜が活動時間で闇に紛れて相手を襲い血を啜り眷属を増やす。しかし魔眼で見たところ血と一緒に魔素も吸収していたんだ。その凶悪な種族の名は、ヴァンパイアだ」
な、なんだ、と…まさか俺がヴァンパイアだったなんて…
毒になるのが嫌なので突然変異で生まれて魔素を毒耐性に極振りしてるヴァンパイアですが何か?って設定盛りすぎだろ!
色々衝撃的すぎ!
読んでいただきありがとうございます。
最近といっても結構前からですがサンキューカードとかサンキュー飴とか
人に対してありがとうを伝える道具が増えていまして初めて貰った時は
おいおい俺だけにか、これは社内ラブってやつかと少し思ったりしたりして…
では次回!新キャラ登場!!
お楽しみに♪