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23話 長かった一週間。そして。


 俺は1週間この森で筋肉に覆われていて格闘家と言われても誰もが納得するヒーラーで師匠のビスマルショットから修行を受ける事になっている。

 1日目は(さら)われてきて(拾われてきて)崖から落ちたと思ったら投げ飛ばされ死を見る。目が覚めて逃げ出すもゴブリンに囲まれて死を見る。またまた目が覚めたら今度は対魔防1班のサポーターであるボクスと2班の班長ビスマルショットの師弟対決が始まる。勝負の結果賞品である俺は1週間ビスマルショットの預かりどころとなり修行が始まる。最初は筋トレだった。全力ダッシュをした後スコップでひたすら穴を堀りストレッチをして終了。

 2日目は筋肉痛に苦しみながらの魔法座学が最初にあった。ボクスから魔法が使えないかもしれないと言われていたが修行の結果魔素を操ることができ魔法を使える事が証明された。そんなバナナーと叫んだ時がなつかしい。過去の俺よ、使えたぞ安心しろ。午後に筋肉痛が和らいだため剣の修行をした。相手を攻撃したら自分も痛い、呼吸で攻撃のタイミングが読み取れるかも、突きが強い、師匠は次元が違うバカ強さというのが分かった。

 これの繰り返しで4日目が終わり、問題の5日目が始まった。


 「悲しいことを告げなければならない。食料が尽きた」

 「え……」


 これには若干驚きはしたが3日目の穴掘りで幼虫をあまり見つけれなかったためもしかしたらという危惧はしていた。


 「大丈夫だ安心しろ。俺がひとっ走りサンドローズに戻って調達してくる。トキは筋トレが終わったら向こうの森の中に昔俺が作った檻がある、そこで身を隠しているんだ。水は置いていく。すぐに戻るさ」


 そう言い残し消えるような速さで走り去っていく姿を見送った俺は筋トレをして檻に向かった。

 そこには6畳ほどの大きな檻があり中に藁が敷かれていた。


 (でっか、何を捕まえようとしてたんだろう)


 その獲物を想像するだけで身震いするが檻に入っておけば安心だろうと若干空いている隙間から体を滑らすように入りしっかりと閉じる。

 中を散策するとチェーンと南京錠が檻の中にあったのを発見し先程の入ってきた場所に巻きつけ鍵をする。


 (すぐに戻ってくるって言ってたし筋トレと魔素の修行をして待っていよう)


 1人修行をして待つこと6時間が過ぎた頃、鼻と胃を刺激する肉が焼ける強烈に美味そうな匂いが漂ってきた。


 グゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!


 全神経が反応した結果腹の虫から出た音に驚いた。


 しかしそれよりも匂いの元を探ろうと檻から鼻を出し方向を確かめる。


 (あああ…ああああ…肉ぅううううううッッ! ここに来てからまともな物を食べてなかったからめちゃくちゃ食べたいぃいいいいいい!!! なんて美味そうな匂いなんだあッッ)


 口の中でよだれが大量に生産されてくるため喉に流し込む音がひっきりなしに鳴る。


 (出たらまずいだろうか。ニオイのもとを探るだけなら大丈夫だろうか。だめだ今は師匠がいないからここから出てまたゴブリンに見つかったら今度こそ死ぬぞ。我慢だ我慢)


 自問自答を繰り返していると肉の匂いがなくなり気持ちが大分落ち着いてきた。


 それから丸くなり続けるといつの間にか眠っていたようで目を覚ました時には日が落ちていて辺りは暗く静まり返っていた。


 いつものパターンだと焚き火の音が聞こえ師匠が笑いながら飯を用意してくれたのだが、聞こえたのは自分の腹の音と木の葉が風に揺れる音だけだった。


 (遅いな…何かあったのかな)


 水で空腹を紛らわしながら帰りが遅いことを心配する。


 (もしかしたら違う檻があってそっちに行ってるかもしれない。よく調べてなかったな。確かにこの檻は大きすぎるしなぁ)


 考えることしかやることがないため可能性をひたすら思考する。

 するとまた美味そうな肉が焼ける匂いが漂ってきた。


 (ぐうううぅうぅううあああああああ! やめろおおおおお!!! 胃がっ胃がっ気持ち悪い…ッ)


 空腹で胃が引き絞られる思いを受け続けよだれを飲みそれを吐きそうになる。


 (水はもう残り少ない。耐えるしかない。耐えるしか…)


 敷かれている藁を集め中に潜り匂いをなるべく遮断するようにする。


 しばらく耐えていると葉を踏む足音が聞こえ師匠が戻ってきたと歓喜し藁の中から飛び出す。

 だがそこにいたのは無数の光る眼だった。


 「ウゥウウウウウウウウ……ガゥガゥガゥガゥ!!」


 吠えるモノ、体当りするモノ、周りをぐるぐる回るモノ、睨みつけて動かないモノ。無数の鋭い牙をむき出しにして檻の中にいる獲物を威嚇する。


 「うわあああ! あっちいけ!」


 恐怖しすぐに藁の中に戻り目だけを外に向け警戒する。


 (早く戻ってきてくれ……ッ)


 願い続けて今日が終わり、次の日も終わり、最後の7日目となった。


 空腹で藁でも食べようかと口を開いては閉じてを繰り返していたところまた美味そうな焼いた肉の匂いがまたもや漂ってきた。

 胃が肉を求めて痙攣してくる。

 匂いから逃れるため急いで藁の中に入り込むとどんどん匂いが強くなってくると同時に人が出す足音が近づいてくる。


 (間違いない! 人だ!!)


 文字通り飛び跳ねて音のほうを見ると、師匠がでかい肉を持って檻の外に立っていた。


 「ししょおおおおおおおおおおおおお! ししょおおおおおおおおおおおおおお!!」


 嬉しすぎて涙を流しながら檻にしがみついて名前を連呼する。


 「いよぉ生きてっかよ。かっかっかっかっ。檻から出てこい、最終試験だ。これをクリアーしたら肉を食わせてやる」

 「試験! 肉!!! やる! 肉!!!! 肉食う!!!!!」


 急いで鍵を開けチェーンを取り入り口をこじ開け近くに寄る。


 (くあああっ目の前に肉が! これは塩とコショウで焼かれてやがる……バターだ! バターの匂いもするぞ!)

 「早く! ああああ早くぅぅ!!」


 まだかまだかともどかしさにイライラする。頭がおかしくなりそうだ。


 「最終試験は武器を使わずこいつを殺せ。それでクリアーだ」


 師匠は持っていた袋を開けると耳が切れたゴブリンが入っており、気付け薬を嗅がせ目を覚まさせた。


 「!?!? ゴッゴブ!?!?」


 状況が理解できないゴブリンは辺りを見回しひたすら混乱する素振りを見せるが俺の姿をみてニヤリと笑った。


 「こいつは! こいつは知ってるやつだ!!! こいつは俺を殺そうとしたゴブリンの一匹だ!!」


 刻んでやった噛み跡にあの時の記憶が蘇る。体が一瞬で熱くなり恐怖を吹き飛ばす。


 「やれ」


 俺は合図とともに飛びかかる。頭の中には肉と復讐で埋め尽くされていた。


 自分でも早く動けていたと思う。

 勢いを全て乗せた右ストレートを顔面にぶち当て、進行方向に転がりながらも相手を目で追い、獣のように手と足で地面を蹴り上げ、起き上がろうと頭を上げたゴブリンの顔面にもう一度全力の右ストレートをジャンプをする形でぶち当てる。ゴブリンは地面に頭を打ち付け鼻血と切れた口から血を撒きながら唸り声を上げる。


 「ゼハァーゼハァー…」

 「ギャギャギャギャアアアギャギャギャ」


 右手が歯や骨に当たり血が出ている。数本の指が折れていて曲げることもできない。それでも痛みはなくトドメを刺しにゴブリンに近づき体を抑え喉に噛み付いた。


 ギジジジジ…ゴキッゴキッゴキッ


 歯が折れるぐらいに噛みつき犬のように首を振る。喉にある骨を外すように、噛み砕くように、引きちぎるように。


 バキッ…


 やがて抵抗はなくなり生命が失われていく感覚を感じた。


 「よくやった。これにて一週間の修行を終了とする。がんばったな」


 拍手をされ傷を癒やされ水で洗われ、なすがままの状態で俺はゴブリンを見つめ続けた。

 そこにあったモノはなんだったのだろうか。殺され殺し返した達成感なのか、生命を奪った罪悪感なのか、後からあれはああだったのかと思い返すもので今はただ


 「疲れた……」


 それだけが俺の初勝利の感想だった。



☓ ☓ ☓


 初めての巨大な肉は絶品で、塩とコショウとバターが口の中で広がり、肉の歯ごたえと一つになり噛めば噛むほど味が溢れ出してくる。喉を通る固形感がまた最高で胃が天を拝んでいるかのように迎え入れている。食べても食べても飽きることなく、顎が疲れを知らず咀嚼する。

 ドラゴンテイル、品質はA5。世に出回ることはそうそうないと言われる部位で屋敷が買えるほどの値段だという。


 「俺の修行で誰もが通る道だ。生きるためには殺さなくてはならない。美味いものを食うためには必死に努力しなくてはならない。耐えて耐えて耐えて、やっと辿り着く。ただ与えられて食う物と自分で掴み取って食う物では価値が違う」


 ガサゴソと袋から取り出された瓶を置き中身を皿に盛る。

 俺は受け取り匂いを嗅いでから食べる。


 「どうだ美味いだろ。美味いんだ。自分で作った物でも生きて掴み取った今は最高に美味いんだ」

 「うめぇ…うめぇ…」


 コクリコクリと噛み締めながらこんなにも美味かった物だったのかと感動した。


 「さ、もうレモン漬けは全部空になった。帰って作れ。今度は5瓶だ」


 ああ、なるほど。全てを理解してしまった。やけに冴えた頭は状況を理解できた。

 俺は立ち上がり


 「くそ師匠」


 と涙声で嫌味をこぼした。


 スゥ…

 師匠が息を吸う音を確認し俺は攻撃がくるであろう左太ももをガードする。

 ついでに魔素障壁もおまけだ! さあこい!

 

 狙いの通り師匠は太ももに蹴りを入れてきたがパアンッと鳴った音は右太ももからで俺の体は地面に崩れた。


 「いてええええええええええええ!!! くっっそッ! 右かよ!!」

 「かっかっかっかっ! だから単純なんだよお前は」




読んでいただきありがとうございます。


勉強でも運動でも全てにおいて優秀な師に巡り合うというのは大切ですね。

ちょっとしたことで目をかけてくれたり肩を持ってくれたり。

趣味や好きな事は隠さず言ったほうがいいほうに転びやすかったり。

巡り合うきっかけは自分でアピールしないと見つけてもらうことなんて不可能です。


「私の気持ちを察してよ!!」

「そんな~~言ってくれないとわからないよー」


では次話もよろしくお願いいたします。

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