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22話 猛虎炎帝による剣修行


 師匠のビスマルショットから渡された木剣を見つめる。普通の木剣というか木の枝だな。初期装備で渡されそうなやつだ。振り回してみるが空を切る音も普通。硬さもある。ザ・フツウ。

つまりかなり脆い木というわけではない。

 ではなぜ綺麗に木が()られているのか。馬鹿力でなぎ倒したら切り口は凸凹に見た目通り折られました感がでるはずだ。


 「ふんっ!」


 木剣を木に向かって横から思いっきり当てるがゴンッという鈍い音を立て()れることは出来なかった。

 それよりも当てた衝撃が手に響き結構痛い痺れが残る。殴るって殴ったほうも痛いんだな。前にスコップで鳥頭のチンピラを殴ったときは興奮してて気づかなかったのかな。


 俺の行動を見ていた師匠は何を考えているか察してなぜ木を()れたのか説明してくれた。


 「俺の小指側の側面には虎の牙を埋め込んである。こいつに魔素を送ると大抵のものは切れるようになる。自慢の相棒で最高の手刀だ」


 虎への愛情半端ねえ。すごいけど申し訳ないが若干引くよ師匠。

 ん? 待てよ。最初に会って握手したときに感じた寒気は、知らずのうちにナイフの刃を握らされていたってことになるんじゃないのか。もしあの時虎の牙に魔素を送られていたら俺の指がボトボトって……ひぃ


 「し、師匠……とんでもねえ人っす」


 青ざめた顔で褒めるしかなかった。それを聞いた師匠はいつもどおり笑い「秘密だぞ。みんな握手を拒絶してしまうからな」と念を押してきた。


 「さて、剣の修業に入るとする。木剣を持ってカカシに全力で一発だけ攻撃してみろ」

 「はい!」


 一撃必殺ってやつだな。空気を肺いっぱいになるまで吸い、腕を振り上げ、カカシに向かって力いっぱい叩きつける。当たった衝撃は強く右手に跳ね返ってきて手を離し痺れを飛ばすように振り回す。


 「いててててててて」

 「よし、次は拳で全力で殴ってみろ」

 「拳ですか!? 絶対痛いやつじゃないですか!」

 「いいからやれ」の声と共に左太ももからパンッと気持ちいい音がなり体が崩れた。

 「いってええええくっそ。余計痛くなるなら言わなきゃよかったよ……」


 俺は太ももをさすりながらカカシの前に行き、両腕を胸の前に上げるファイティングポーズをとり、絶対痛いやつだと確信しながら覚悟を決め、空気を肺いっぱいになるまで吸い、右拳を一直線に力いっぱいカカシにぶつけた。


 「ぎいぃ……いいいてえええええ!!!! ああいたいああああいたい!!!」


 左手で右拳を一所懸命さすり痛さを和らげようとする。


 「フッ思いきりが良いじゃねえか。武器を持ったときは威勢がいいのに拳になったとたん覚悟が足らず弱く殴るやつがいるから指導する気が失せるんだよ。気に入った! 合格だ!」

 「フ~~~フ~~~~フ~~~~……あ、ありがとうございます……」


 涙目で答え全力でやってよかったと、試されていたんだと理解する。


 「ワタリは、いやトキは木剣と拳で違う攻撃方法をしたんだがそれはなぜだ」

 「違う攻撃?」


 俺は木剣の場合振りかぶって攻撃した。拳の場合一直線に攻撃した。この違いに意味……


 「一番全力が乗りそうだったからです」

 「そうだな、武器を持った場合腕の振りと武器の重さが足されてより強いダメージを相手に与えることが出来る。拳の場合は全力で殴ろうと思ったらそうなる。両方で言えることだがこれは本能がそうしているんだ」

 「本能……」

 「そうだ、状況によって本能が体を動かす。お前はゴブリンにやられているとき足も動かず腕も使えずそれでも反撃しようと本能で口を動かした。そこには複雑な心境があったんだろう。死にたくない、生きたい、やられたくない、やられっぱなしは嫌だ、少しでも抵抗してやる。知ってるか、虫でも動物でも人間でも、一定の恐怖と痛みが貯まると脳が処理を拒否して意識を失うんだよ。だからその状況下でも意識を保てるのは生にしがみついている奴なんだろうな。

 お前は生きる気持ちが強い。それは強くなるための大切な条件だ」


 生にしがみついている。生きる気持ち。その言葉を聞いたとき胸の奥から湧き出す優しく熱い感情の波に押し流され、粒が川となって溢れ出した。


 「あれ……? あれ? あれ……」


 一度吹き出した感情はしばらく止まることはなく腕で顔を覆い時間を潰した。


 「すみません……もう大丈夫です」


 涙と鼻水を拭い向き直す。

 「飲め」と出された牛乳と卵とオレンジの特製ドリンクを飲み心を落ち着かせる。このなんとも言えない味が心を落ち着かせてくれるスパイスになってるのだろうか。


 「命からがらの生還は心にくるものがあるよな。俺も知っている」


 自分用に作った特製ドリンクをぐいっと一気飲みをして続きを話し出す。


 「本能で体を動かくという話だが拳でも腕を上げてから叩きつけたほうが威力が増しそうじゃなか? 武器は回転してから攻撃したほうが遠心力が合わさり強そうじゃないか? 他にも威力を増す行動があるかもしれない。しかし本能はそうしない。なぜかわかるか?」


 確かに攻撃方法は考えればいっぱいあると思う。拳でと言われたが全力なら蹴りのほうが強いと聞く。なぜやらないと言ったら……


 「慣れですか? 慣れないことをして失敗したら目も当てられないから確実を取って」

 「いい回答だ、立って木剣を構えろ」


 木剣2つ分ほどの距離をとり互いに向き合う。


 「好きなように打ち込んでこい。ただし全力でだ」


 師匠は少し腰を落とし両手をだらけたふうに下に落とした。

 それはふざけているようではあるが実際に対峙(たいじ)してみると打ち込めれる場所が見当たらず、迷った挙げ句カカシにやったように上段から叩き切ろうと大きく息を吸い、前に進みながら腕を上げた瞬間―――凄まじい殺気と共に師匠の突き手が喉を捉えていた。


 「……ッ!?!?」


 喉を貫かれたと錯覚させられたほどの恐怖に全身から冷たい汗が流れ出し体が硬直して動けないでいた。


 「死ぬかもしれない時に“隙き”をさらけ出すことを本能が嫌がるんだよ」


 説明しながら伸びている手をとん、と喉に触れその場を離れる師匠と、圧倒されスイッチを切られたかのように気絶する俺だった。


…… ……



 パチン、焚き火の音がする。それは目覚めるには丁度いい音で……


 「ハッ!?!?!?」


 体を起こし喉に手を当て確認する。


 「ハッハッハッハッハッ」


 まだ思い出される心臓を掴まれた感覚は、喉に穴が空いていないのを理解しても頭が受け入れるのに時間を有した。


 「よぉ起きたかよ。腹へったろ、食べろ」


 そこにはとてもおいし―――そうにないいつもどおりの幼虫などが盛られていた。

 分かっていたけども。


 二人で食べながら対峙したときの話をする。


 「意味がわかりませんでしたよ。こっちから攻撃を仕掛けようとしたら目の前にいるんですもん」

 「ビビったろ? かっかっかっかっ。人はな、攻撃するって瞬間は大きく息を吸ってから挑んでくるんだよ。そこでまず攻撃してくるタイミングを読み取ることが出来る。次に相手に隙きがない場合、全力で潰しに来るか隙きを作ろうと小出しの攻撃をしてくる。

お前は単純だからな。全力でこいって言ったら全力でくるだろ。お前の全力の斬撃は上段からの振り下ろしというのがカカシで分かったわけだ。その隙きを突いた」

 「そんな……そんな事が今までの流れで分かるって」


 ただの訓練だと思っていたのに自分の全てを見透かされていたと、分析されていたと驚愕する。


 「ま、読みが当たるのなんて5割ぐらいだがな。感だよ感。人の思考なんて突然変わったりする。ただな、1割でも成功確率が上がるなら考えることに損はないんだよ」


 皿の上にある食べ物を口に運びながらしみじみという。


 「1割の壁はそれほどでかい」


 大事な事を伝えようとしている。聞き流していい話ではない。

 師匠は食事の場で普段思っていることが出やすいのかもしれないとそう感じた。

 だから聞きたいことを聞いてみる。


 「師匠が思う強い攻撃ってなんですか?」

 「そうだな、魔法抜きで考えるなら……これが最強だと信じ込み弱点も理解し相手よりも鍛えた攻撃だな」

 「えー、なんか卑怯です! 分かりました。俺みたいに鍛えてないやつでも強い攻撃ってなんですか?」

 「鍛えてない者同士なら100%突きだな。避けれるものじゃない。喉に一突きであの世行きよ、お前みたいにな! かっかっかっかっ」

 「な、なるほど! じゃあそうなると武器は槍になるんですか? リーチあるし突けるし」

 「そうだな、一方通行の場所や開けた場所だと強いな。ただ武器は場所によるとしか言えない。どこでも使える剣か棍棒に落ち着くだろうな」


 槍は強いが狭いところだと突っかかる。剣だとどこでも持って行けれて取り回しが楽と。攻撃は相手よりも鍛えたほうが勝つ。どの武器も最強になるって考えは持たないほうがいいか。


 俺は何を使うべきか。


 ボクスとビスマルショットの戦いを見て興奮し、ゴブリンにやられた自分を考えて、ここで鍛えてリベンジしたいと思っていた。

 そしてできれば下働きじゃなく共に戦う仲間として一班の人たちの側にいたい。


 だから俺は自分が使う武器を探したい。


 「自分に合う武器は悩む。使ってみて最初は手応えを感じるんだが使っていくうちにちょっとした動きにくさが気になってくるんだよなぁ。だから俺が選んだ武器、これが俺にとっての最強の(けん)だ! かっかっかっかっ」


 月明かりに照らされた巨大な拳が天に向かって伸びていた。

 その説得力に笑う者などいないだろう。


 「師匠、かっくぃいい~~~」


 俺も自身を持って言える武器を見つけるぞ!



読んでいただきありがとうございます。


次話もよろしくお願いいたします。

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