18話 ショック!地獄の修行
師弟対決は両者生存のまま無事終わりまた一週間後に会おうと言い残しボクスは戻っていった。その顔はどことなくスッキリしたような。
さて問題なのはここからなんだが、なぜ俺はビスマルショットの預かりどころになったのだろうか。落ちていたから拾ったと言っていた。落ちてたって(笑
人を物みたいに(笑
思い出してみよう。
確かあのときは一睡もできなくて徹夜で仕事に行って眠気と戦いながらビスマルショットに会って握手をして会話したらドッと疲れてふらふら~として誰かにぶつかって……そこから記憶がないな。あれ?その場で寝ちゃったのか…?なるほど俺2つの意味で落ちてた(笑
だからといってこんな俺を拾って持ち帰るのか。
俺は道を歩いていたら好みの超絶美少女が偶然道に落ちていた。ほーん、なるほどこれは拾っちゃいますね。つまり俺はビスマルショットにとって超絶美少女だった。ほ~ん??? なるほどこれはかなり危険な状態なのでは?
あんな筋肉だるまに夜もちゃんとヒールしてやるぞとか言われたら…ひぇ恐ろしい!
まあ冗談はこの辺にしといて明確な目的はおそらく1班が俺を拾って囲ってるのが気になったってところか。
俺は設定で自分のプロフィールを偽っている。このほうが都合がいいからという理由で。
なぜ都合がいいのだろうか。災厄の腐海『グラトニートラップ』で倒れていたから。これは隠さなくてはならないことなのだろうか。
たしか俺はサンドローズ国の名簿に載っていなかったとのこと。そうなるとどこかの国の人間ってことになる。
正規のルートで災厄の腐海『グラトニートラップ』に行くにはサンドローズ国北門を抜けて行くしかない。その際に身元確認はされる。その記録にも俺のデータはなし。
怪しい存在だから伏せておこうねってことか。
そこまでして匿う必要があるのだろうか。いい人たちだからってだけで片付けていいのか?普通なら警察に届けて調べさせるような。そうか調査班だから自分たちで調べるってだけか。魔法の事もそう言ってたし。
そうなると同じ調査班の2班班長なら教えてよかったんじゃないか。後でボクスさんが教えるって言ってたし調査班には伝えていい内容と捉えていい気がする。
わからないな。相談しておけばよかった。こうなることなんて想像できないか。
あれ、そもそも何を考えてたっけ……なぜの追求は元々何を考えていたのかわからなくなるのが致命的だ。ノートがあればなぁ。
あーでもないこーでもないと考えていたら火消しを終えたビスマルショットが来る。
とんでもない人だからとんでもない事を言われるに違いない。身を構えて応じなければ。
「あー焼きすぎちまったな。手加減したつもりだったが気分がノッてしまった。かっかっかっかっ」
あれで手加減かよ……全力だといったいどれほどの力を見せるというのか。
「そう、ですか……はは。それでもすごかったですよ。なんていうか……すごかったですよ!」
おいいいい俺の語彙力ぅ! 違うんだ純粋に怖いんだよ化け物を前にして冷静でいられるか! 俺は下の下、ゴミに近い人間なんだよ。
「そうかそうだろそのとおりだ! 鍛えたこの力は誰よりも強いと自覚している。見よこの美しい筋肉を!!!」
そう言うやいなやぶっとい腕を前方に出し拳を合わせるようにし「フンッ」と力む。すると肩・胸・上腕二頭筋・前腕筋群・大腿四頭筋がパンっと弾けたように膨らみここに最もたくましいポージングをする筋肉美が完成した。ああ素晴らしきかなモスト・マスキュラー。筋肉の盛り上がり、所々筋肉に入る筋、無駄のないカット。シックスパックがギチギチと音をたて互いを押し上げているようだ。一級品の芸術を目の前に、ただ感嘆の声を上げるばかりだ。鬼が満面の笑顔でこっちを見てて恐ろしかったが。
「おお……」
ついつい肩にちっちゃい重機乗せてんのかいと合いの手を送りそうになる。
「やはり気に入ってくれるか! 俺は知っていたぞお前が筋肉を求めていた事を! 男の勲章を! 今回は一週間という短すぎる期間しかないがみっちり育ててやろう!! さあ共に筋肉の喜びを分かち合おう!!!!」
確かに俺には筋肉がなくげっそりとしたまるでミイラのような風貌だ。体力もなく力仕事をやっていて足を引っ張っている。筋肉を付けなくてはと考えていた。それを見抜かれたということか、あの筋肉センサーで。
仕事のことが気になるがボクスさんが許可してくれた形になってるから大丈夫だろう。学べって言ってたし。弟子だから師匠が何するのか分かってたのか。あれ? じゃああの戦いに意味があったのだろうか。まさか久しぶりに手合わせをしたかっただけなのか……?
まあ願ってもないことだ、大チャンスが訪れた、断る理由がない。
「はい! 俺筋肉付けたいです!」
「ぬぉおおおおお! はあ! 喜べ筋肉神よおおお! ふぅあああ! とぅあ! ワタリ! 美を手に入れよ!! 今日からお前は俺の弟子だ!」
両腕を上げフロント・ダブル・バイセップスのポーズをしたあと流れるように横向きになり左手首を掴みサイド・チェストのポーズをする。
筋肉勧誘と名付けるべきか。この人の喜んだときの表現方法なのかな。
ちょっと圧がすごいな……
「よしならば時間がもったいない! 早速始めるぞ! 覚悟はいいかぁ!」
「はい!」
パンッと俺の左太ももから音がなった。衝撃のまま足が右に持っていかれ体が崩れる。
「いてええええ!」
なに? なんなの? いきなり足を蹴ってきたんだけど!!
「師匠をつけろばかがばかかよ! 気合が足らんぞ!!」
そんな……理不尽すぎる。まず教えろよくそぅ。
「す、すみません気をつけます」
立ち上がりながら謝罪するとまた左太ももから音がなった。先程と同じ様に体が崩れる。
「ちょおおおお! いってええ! なんで!?」
「師匠をつけろと言っただろうがばかが! お前の頭は鳥並か」
くっそ、俺の頭が鳥並だとふざけやがって……!? 鳥……? だから俺の見た変な夢はチュンチュンだったのか……? いつか牙をむいてやるぞ! ぜっったいだ!
「すみませんでした師匠!!!!」
「わかったならよし!」
俺は全力の声で前にいるビスマルショット、今日から師匠になる男に向かって叫んだ。これが今の全力だ、満足だろうと考えたのだがまた左太ももからパンッと音がなって体が崩れた。
「あ痛い! ちょちょちょちょとおおおお! なんでだよ!!」
「おまけだばかやろう!」
こ・い・つ・ま・じ・で! まじこいつふざけてやがる! あああああ! 噛みつきてええ! その耳に噛み付いて引きちぎりてええ!! ぐぎぎぎぎぎ!
「よーし、よし、腹が減っただろ。こんがり焼けてるうまいものがある。いっぱい食え! 食って食って食って運動して食って食って食って寝て、そうやって筋肉を大きくしていくんだ! ほら食え!」
出されたのは皿の上いっぱいに置かれたまるまると太った幼虫にでかい蜘蛛にこれもまたでかいトカゲにこぶし大の卵だった。
「うっ」
卵はいいとして他がちょっと、いや結構遠慮したい食材の数々に胃から酸っぱいものが逆流しそうになったのを堪えた。
これは、噛みつけれませんね。くぅ~ん……
さっきまでの心の激流が負け犬のように落ち込みあるのは泥で汚れた水たまり。精神的ジェットコースターはハゲちゃうよ……
「土を掘ればこんなにもうまそうな食材が出てくる。森には探せば見つかるものがある。体に大切な貴重なタンパク源だ! しっかりと食べろ!」
早くしろとまた蹴られたのでとりあえず安心な卵を食べる。うん、やはりうまい。次にトカゲを食べたがこれもうまかった。問題は次だな。
ずっしりとした重みのある幼虫を手にとって勢いのまま行こうとしたが顔がビクンビクンと少ししか前に進まない。
もたもたしていると師匠が鬼の形相で睨みながら顔を近づけてきたので吐き気をもよおしながら噛み付く。ブチャァ。恐れながら噛んでしまったため口が閉じておらず幼虫の内臓が飛び出した。味と触感と飛び出した映像が合わさり先程食べた物が胃から逆流する。
ベチャチャチャチャベチャ
頭の中では綺麗なキラキラフィルターが映し出されていたが現実はお見せできるものではなかった。
ブェッブェッブェッと水で口の中を洗い流す。
「すみません師匠食べれませんでした……」
気持ち悪かったがそれよりも戻してしまったことを詫びる。いきなりこれを食べろは無理だよ。胃がまだキリキリと痙攣しているのがわかる。
「そうか。もったいないことをしたな。だがおかわりは十分あるから遠慮せず食べろ! 食べろ!!」
その話を聞き全部出したはずの胃からまた逆流する感覚を味わい苦しくなる。
…………
…
卵はうまい、とかげもうまい、幼虫は土と糞の味、蜘蛛は意外にもうまかった。
はー、つら。
用をたそうと森に少しだけ入ると見知った葉っぱを見つけた。
嬉しくなり数枚摘み食べる。
にがうまい。
チョチョコーネが教えてくれて助かった。本当に助かった。
口の中で葉っぱを転がすたび苦味で目に涙が溜まった。
読んでいただきありがとうございます。
私はものすごく乗り物に弱くてよく吐いてました。
もらいゲロもすぐします。
この話を思い出しながら書いてたときは少し酸っぱい状態でした。
でも大事な話なんです。食べるものがないときは食べないといけません。
蜂の子が導入には比較的楽なのでおすすめですね。
△△△
人は状況を用意してあげないとなかなか動いてくれません。
会社の上司とかがそうではないでしょうか。
部下からしたらそんなの自分でやれよって事でもやらなかったり。
今回の話とはちょっと違うんですけどね。
子供はその時その時で全力を出します。
大人は今日+次の日の事を考えて体力を割り振ります。全力を出したら何もしたくなくなりますもんね。
え?自分は違う?素晴らしいですね。尊敬します。そのままのあなたでいてください。
では次話もよろしくお願いいたします。