17話 百点満点の登場シーン
「ボクスさん!」
砂煙の中に見えたボクスの姿にいつもと違う雰囲気を感じて、これが彼の戦闘スタイルなのだと悟る。
動きに重視した黒い革製の左肩から胸部を守る胸当てと腰鎧、右肩にはサポーターのマークである握手を模したワッペンが印象的な全体を黒に染め上げた一式に身を包んでいた。
トキは助けに来てくれたことに感激し(これは俺が女だったら即落ち2コマですわー)とチョロインがなぜチョロインなのか妙に納得した。
ビスマルショットはボクスの蹴りを跳躍で躱し少し離れたところに着地し言った。
「はっ随分と早いお越しではないですかなーボォクスゥゥ?」
「あなたとトキ君が姿を消したと聞いたらここしかないでしょう。あなたはここがお気に入りですからね」
「ちげぇねえ。ここは環境が整ってるからなぁ。お前も随分ここで世話になったからわかるだろぉ、カッカッカッカ」
「ええそうですね、随分とお世話になりました。ここに立つと昨日のことのように思い出します」
ボクスは懐かしむように目を細め辺りを見回す。鼻から吸い込む森林の空気が脳を刺激し当時の映像が目に浮かぶ。
「そいつぁさぞかし感動の場面がいっぱい思い浮かんで涙しちゃうだろ。なんせ俺が修行をつけてやったんだからなぁ。ほれ、昔のように師匠と言って抱き着いてきていいんだぜぇ?」
「冗談は顔と筋肉だけにしてください」
蚊帳の外だったトキは二人の会話を邪魔しまいと黙って聞いていたがビスマルショットの言ったことについ口を挟んでしまう。
「え!? この人がボクスさんの言っていた師匠なんですか!?」
以前魔法の話をしているときにとんでもない師匠だったと言っていた。確かに俺を担ぎながら100km/hはあろうかという速さで走り、崖を飛び降り放り投げひどい怪我を負わせるようなことをするやつはとんでもない狂人だ。
てかこんな人いていいのだろうか。拉致に殺人未遂って過去にも同様のひどいことがあったっぽい話だったしお巡りさん仕事サボってませんかね。国に関わる人は捕まえることができないの? 事実があったとは到底いえないとか言っちゃうの? なるほどぅ、弁護人を呼んで逆転してもらうしかないな。
「意義あり! 俺はこの人をボクスさんの師匠とは認めない!」
「……ちょっと何言ってるのかわからないけど紛れもなく僕の師匠だった人だよ。過去は変えられないんだ。残念ながらね」
くそお! 師匠は長髪で胸が大きくて霊能力がある美人なお姉さんだろうが……! 胸板が厚くて大きいのは違うんだよ!
「残念とはひどい言われようじゃないかぁボクス。1班に入れるぐらいまで強くなったのはどこの誰のおかげだ? 俺だろうが俺だよなぁ」
「その点は感謝してますよ。確かにあなたじゃなければ僕はあのときから変わらず底辺ハンターをやっていた事でしょう。もしかしたらランク上げを焦り無理して死んでいたかもしれない。感謝はしてますがだからといってあなたの全てを肯定する気はない。さあ、トキ君を返してもらいますよ」
そう言って広げた左手をビスマルショットに向け、腰を落とし戦闘態勢を取った。
「おいおいいきなり蹴りを入れてきたときもそうだったがちと野蛮じゃねえか、ああ? 始めっから素直に返してくださいって言えば応じてやったのによお」
「ありえないですね。あなたはそんな性格じゃないことはよく知ってますよ」
「かっかっかっか、そうだなそうだよなありえないよな。こいつは落ちてたから拾ったんだよ。つまり拾った俺のもんだ。お前が持ち主だと言われても知らねえな。拾ったものは俺のもんだ。じゃあどうするかは昔っからこれだよなぁ」
久しぶりに弟子と力をぶつけ合うことが嬉しかったのか大きくニヤつきながら足を広げ両手を地面に置いた。まるでその様は相撲の仕切りの型にそっくりだ。
「おいワタリ、開始って言え」
俺は重要な開始の合図という役割を任された。
緊張と不安と期待が同時に押し寄せる。
俺の合図でこの二人が戦うことになるのかという緊張、弟子が師匠に勝てるのかという不安、負けたら俺はどうなるのかという不安、ボクスさんに勝ってほしいという期待、しかしその全てを払い除けてでも感じるこれは、どんな戦いが起こるのか楽しみという未知に対する欲求。
見てみたいこの二人の戦いを。ビスマルショットの肉体美から繰り出されるだろう狂人たる重たい一撃はどれほどなのか。地面をえぐる蹴りを軽々と放ったボクスの弟子たる力は師を越えるのか。
一度つばを飲み準備を整える。
「かい……し!?」
両者“か”の合図が発せられる前の時点で同時に動いた。
「『猛虎爆地震』!」
ビスマルショットが炎の虎を形どった姿で一直線にボクスに襲いかかる。熱風が衝撃とともに辺りに吹き乱れ通った道には炎の柱が立ち上がった。
「『シールド』!『ピンポイントシールド』!」
一方ボクスはシールドで迎え撃つ体勢に入るが、ビスマルショットの猛虎爆地震が二重のシールドを軽々しく破壊し突き進む。
直線攻撃に強い効果を発揮するシールド2重張りはボクスが考案したもので、最初のシールドを勢いで突破した者がそのすぐ後ろにある凝縮されたピンポイントシールドの硬さにぶつかり動きを止めた隙きを突いて反撃するという攻撃の間合いを計算に入れた戦法だ。
「フッ!!」
しかし猛虎爆地震に通用するとはなから期待していなかったためシールドを張ったすぐに左に飛び攻撃を避ける。
「追撃!『猛虎落撃』!」
猛虎爆地震が通った後に立ち上がった四本の炎の柱が虎の姿に変わり避けたボクスを追尾する。
「『ピンポイントシールド』! うらああああ!」
これを両手拳にピンポイントシールドを張り一瞬にして四体すべてを叩き落とす。
「ハッやるようになったじゃねえか!」
後ろに回り込んだビスマルショットが弟子の成長を褒めながら脇腹めがけて拳を叩き込む。
僅かに残ったピンポイントシールドで防ごうとするがかばった腕ごと砕かれ吹き飛び木を数本砕いていった。
吹き飛んでいった先に目線を送ると耳後ろにゾクリとした人の気配が現れ咄嗟に地に伏せると同時に足を後ろに蹴り上げる。
「……?」
首を狙われたことに対する行動だったのだが空を斬るだけでそこには誰もいなかった。
「『シールド』!『ピンポイントシールド』!」
「ぐっ」
背中に突如現れるシールドによって潰される形になり身動きが取れなくなる。
隙かさず挟まっている空間に麻痺玉が投げられることによって煙が充満する。
「うおおおおお!『猛虎大瀑布』!」
直後ビスマルショットの体から全方位に向けて熱風が溢れ出しあたり一面を炎に染め上げる。
(うわああああああちいいいいい)
木に隠れた俺の場所にも熱が伝わってくるほどの大惨事にビビりながらも目を離すことができずにいる。
(これが戦い……! すごい! 二人ともすごすぎるっ)
傍目から見てコンロに置かれた鍋に火を当てているような見た目にボクスの勝機を感じるが、シールドが砕け散り炎の中立ち上がる様をみて地獄の業火に君臨する魔神を想像させられた。
その姿に、恐怖するのでなく憧れを抱いてしまうほどに心がざわつく。
(強くなりたい。これほどの強さがほしい)
「おらあ! どうしたこんなもんかどうしたおい!」
叫ぶと再び耳後ろでゾクリとした気配が現れ首を守りながら裏拳をする。
ゴウゥ……巨大な腕から生じる裏拳は立ち上がる炎を切り裂き空を切る。
(今だ!!)
隙きが出来た瞬間を狙って『ピンポイントシールド』を張り全力の飛び蹴りで顔を狙って突っ込む。
その全力最速の飛び蹴りは落雷の如く空気を切り裂きながら当たったものを粉々にする威力を持っていた。
ガシッ
しかしこれを予測していたのか首を守っていた手が瞬時に動き、靴裏を掴み流れるように地面に叩きつけた。
「かっかっかっか! 惜しかったな甘かったなおら耐えろ耐えろ!」
燃える地面に何度も叩きつけられえぐられる土と共にボクスの姿が埋まっていく。
これで終わったかと思ったがビスマルショットが腕を上げた時ボクスは掴まれている足をナイフで切断し拘束から解放される。
(そんな!? 自分で足を!!)
決断力に驚愕する。
足を切断、ナイフを投げる、着地と同時に距離を取る。一連の流れが速すぎて理解しきれない。
すごいすごいと興奮しながら見守るのみ。
「いいじゃねえかちゃんと教え通りじゃねえか、師として嬉しいぞお」
「……く、僕も強くなったつもりだったんですがあなたは本当にふざけてますね」
「これが俺よ俺なのさ。だからこその猛虎魂! 羨ましいだろかっかっかっか」
「正直に羨ましいですよ。その力を僕も授かりたかった」
ビスマルショットは笑いながら構えをとき持っていた足を放り投げる。
「いいぜ満足した、俺がやらんでも自分でくっつけれるだろ。返してやる。そうだな、どうせ一週間後には戻らなくちゃいけない。それまではこいつを預かるってことにしてやるよ。それでいいだろ」
「……分かりました。残念ですがここは引きます。ただしこれ以上トキ君に聞いても何も知らないから問い詰めても無駄ですよ。その時が来たら伝えます」
「……あー? まあいいそうしてやる」
そう言うとボクスは自分の足を拾い上げ隠れているトキの方へとひとっ飛びで近づいた。
「すまないトキ君、僕の力不足で君を連れ出すことができなかった。一週間ここで彼と共にすごすことになる。挫けることもあるかもしれないが強くなれることは保証する。がんばって学んでほしい」
「そんなことよりボクスさんの足が!! どうしよう! 俺のせいで!!! ごめんなさい! ごめんなさい!」
自分の足が取れているのに他人の心配をするボクスに詫びることしかできない。見ているだけで痛々しいその姿に俺は一生罪を償っていかなくてはならない。
「ああ、大丈夫だよ。こんなものは元あった場所にくっつけて『ハイヒール』!……とやればこのとおりさ」
自分の手で切れた足をくっつけ回復呪文と思わしき魔法を使うと、徐々に切れた箇所が繋がっていき、やがて何事もなかったようにぷらぷらと動かしてアピールする。
「ゲェーッきめえ!」
その気色の悪さに顔面が硬直する。
「あばばばば」
驚きと心配が渦を巻き言葉にならない。しかしこれで納得した。
「はぁ……俺がここに来て死ぬような怪我をしたんですよ。今のを見て助かった理由がわかりました。俺もこうやって治ったんですね」
「怪我が治ったのであればそうだね。しかし死ぬような怪我ならハイヒールだと無理なんだ。彼だからこそ出来る神業……だね」
「あの人だからこそ出来る?」
「うん、彼は伝説の勇者パーティーにいた死人を復活させることも出来たとされる神官の末裔、猛虎炎帝ビスマルショット。職業はヒーラー(回復役)だ」
「はあ!? あれでヒーラー!?」
砂を掘り起こし火を消している姿を見ながらギャップに驚愕するしかなかった。
読んでいただきありがとうございます。
ROで殴りプリという面白いスタイルがありました。作って遊んだものです。
クリアサというクリティカルをメインに戦うアサシンも作って遊びました。
クリ鷹ハンターという鷹をメインに使ったのも楽しめました。
ちょっと違うプレイスタイルをするのが好きでした。
装備を揃えるのが地獄でしたが…
それでは次話もよろしくお願いいたします。