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16話.立場


 感謝しろ……? 何を言っているんだこの男は。


 「あんたがあのゴブリンたちから助けてくれたってことか?」

 「そうだぜ、糞尿垂れ流して血泡吹いて実に勇ましい姿だったじゃないかよ。ゴブリンの耳を噛みちぎったところはよかったぜえ」

 「……ッてめえ見てたのかよ!! だったら早く助けてくれたってよかったじゃないか!!」

 「ハッ勝手に逃げておいて死にそうだから助けてってどれだけおめでたい頭してるんだ? 逃げなかったらここで安全にいられただろ。違うか?俺が悪いのかそれともお前が悪いのか、どっちだ?」


 ぐ、たしかにそのとおりだ。俺はビスマルショットから逃げるためにここから立ち去った。森の奥に行かなければゴブリンなんかに負けなかったのは事実だ。


 「いや、そんなことより俺は死んでいてもおかしくない状態だったはずだ。なぜ生きているんだ? それも二回もだ」


 初めは投げ飛ばされ全身から折れた骨が飛び出ていた。次はゴブリンに殴り殺されたはずだ。どっちともなんの怪我もしてない状態でこうやって生きているなんて考えられない。何か想像もつかないことが起こっているに違いない。

 混乱している内容を知りたく、確実に何かをしたビスマルショットに問いただす。だが返ってきた返事は周囲の空気を震わせる怒号だった。


 「俺は俺が悪いのかお前が悪いのか聞いてるだろうが!!! 痛いところを突かれたからって質問をはぐらかしてんじゃねえぞガキ!! 答えろガキ!!! どっちだ!!」

 「うっ……それは……俺が」

 「ああ? 聞こえねえぞしばくぞやるぞこら!!」

 「あれは俺が悪い! しかしそもそもお前がここに連れてきたのが悪いんじゃないか!」


 一方的に悪者にされるのが癪に障り元凶を作ったビスマルショットに責任があることを責め立てる。


 「バカやろうが! バカかてめえは!! 俺は2班班長だぞ。なんだその口の聞き方は。下っ端風情が楯突いていいと思っているのか。お前が起こした問題は1班の責任だぞ!! 分かって言ってるんだろうな!?」

 「はあ!?“なぜ”そこで1班が出て……」

 (しまった……ッ)


 “なぜ”、その言葉を自分で言ってハッとなって慌てて続く言葉を止めた。

 売り言葉に買い言葉、熱くなって相手のペースに巻き込まれていたことに気づく。


 冷静に考えよう。とりあえずなぜ俺が起こした問題、つまり暴言が1班の責任になるということについてか。

 俺の立場は下の下、下働きとして1班の人たちのおかげで働けている。ビスマルショットは2班班長、俺から見たら目上の人間。1班が雇った下働きが2班の偉い人に楯突いたのだから責任は1班にあるという流れになるのか。俺のせいで1班に迷惑をかけてしまうのは絶対に避けたい。

 謝罪し改めれば許してくれるだろうか。

 くそ、最初っから冷静にしていればこんなことには……なんで俺はいつもいつも。


 「いや、いえ、申し訳ございません。立場を(わきま)えておりませんでした。非礼を詫びます。改めて申し訳ございませんでした」


 粛々とたどたどしく知ってる言葉をなんとかひねり出し謝罪の言葉を告げる。今できる最大限の謝罪とばかりに。


 「あー、なんだその気持ち悪い言い方は。なんだお前貴族の出かなんかかオイ」


 よし、上手くやれたんじゃないのかこの流れは。

 先程までこの場を占めていた怒りの雰囲気は薄れ生い立ちを気にしてきたのを許しと捉えてホッとする。

 

 「いえ実は孤児でして、しかも恥ずかしながら記憶がなく困っていた所ポンドゴーさんに拾っていただきました。とても感謝しております」

 「ほう孤児……ねぇ……記憶がねーってのはどれぐらいだ」

 「自分の名前、年齢、両親、出身といった過去のことは全てです」

 「そのわりには物を知っている気がするのはどういう訳だ」

 「しゃべってるうちにポッと思い出すときがありますし1班の皆様に良くしてくださってますのでそれでかと」


 嘘は言っていない。実際に思い出すから真実として話す。また誤解を招くことをしてせっかく作った流れを無駄にしたくない。


 「しかし、だ。それで1班がお前を特別に雇うとも思えないんだよ。ゴブリンに負けるぐらいだしな。俺たち調査班は孤児に仕事を与えているが孤児院の子たちにだからな。直接あそこで雇うってのはどうもおかしな話に聞こえないか?」


 困ったことになってきた。確かにボクスが国が孤児院に支援金を与えその見返りとして国が管理する施設で子供たちは仕事をしていると聞いた。俺が孤児だというならそこから一緒に来て一緒に帰るのが当然であり直接寝泊まりをしていうのは話が変に見えるのもしかたがない。


 「それは孤児院の子供たちが仕事に入ってくれるのが三日に一度だからです。二日間は誰かがやらないといけなかったのでそれで私が……と」


 苦し紛れの言い訳だったが実際に二日間は子供たちが来たときに手を付けていない場所を清掃していたし嘘は言っていない。

 しかしビスマルショットは首を振り俺の話を聞き流し


 「なあお前……どこにいた? 何か重要なことを隠してるだろ?」


 と確信めいた物言いで詰めてきた。


 一瞬たじろぐ俺の態度に隠している何かがあると踏み、再度怒気を混ぜながら問いただす。


 「お前はどこにいたんだ?ああ!? どこにって言ってるんだろうが……ちい!!」


 このまま詰めれば白状すると責めていたところに背後に感じ取れた僅かな気配を察し、座っていた場所から素早く跳躍する。

 その直後すごい勢いで飛んできた何かが音を立て地面をえぐった。

 砂煙が舞い視界が悪くなっているところから声が発せられる。


 「避けましたか。まあ避けますよねあなたなら……迎えに来ましたよトキ君」


 そこにいたのは1班サポーターのボクスだった。


読んでいただきありがとうございます。


力が上の人だからこそできる二者択一は恐ろしいです。

ハンターハンターのねずみはそこがうまく表現できていてやはり超一流漫画家は格が違いますね。


では次話もよろしくお願いいたします。

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