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13話.プレゼントの罠


 「やあやあやあトキ君、うれしいお知らせがあるよ」


 1人で掃除をしているときにボクスが満面の笑みで近づいて俺に話しかけてきた。


 「はいなんでしょう? ドキドキしちゃうなー」


 俺は返事を返しボクスが何を語るのか緊張と期待の中待つ。うれしいことだ。うれしいことだろう。期待が高まる。


 「じゃーん! これを君に渡してほしいと頼まれたんだよ! レモン漬けのお礼にとのことだよ」


 ボクスは手に持っていた緑色の風呂敷包みを渡し広げるのを促す。俺は掃除を中断し流されるまま行動した。


 「うわーなんだろうなー軽いし食べ物じゃないですよねー……こ、これは……!」


 入っているものを想像しながら結び目をほどいた中に入っていたのは白色のワイシャツに黒色のスラックスだった。肌触りは滑るように、また引っ張れば伸縮性がありそうなしなやかさを持っているのが見て取れる。それは中古品ではなく新品だと紛れもなく語っていた。


 「あ、あ、う」


 トキはここに来てから麻の服を渡され今まで着ていたのだが、子供たちを見て、買い物に出て、考えないように、仕方ないと、そういうものだと自分で納得して感情を押し込んで我慢していた。


 誰がどう見ても貧乏。


 髪は長くぼさぼさで紐で縛って纏めている。ベージュ色の麻の服、使い続けてボロが出ておりところどころ茶色く汚れている。

 ここにいさせてもらうために働いていて、それだけでありがたく。贅沢に注文するなんてありえなくて。


 ただたんに言われた仕事をしてただけなのに。こんな、こんな立派な物を、足を引っ張るだけの俺なんかに……


 「俺、こんな貰えません……立派な服を貰うようなことしてません。何か勘違いされてる。俺は、俺は!」


 嬉しいはずなのに、持ち上げて抱きついていいはずなのに、感情とは裏腹に出た言葉は贈った者が聞いたら悲しむ言葉だった。


 しかしこれはトキが自分の価値について評価した無意識の本音でもある。


孤児院の引率指導役であるユウキャンに“レシピより作った人が偉いから自分を誇れ”と学んだとしても早々に思考を切り替えれるように人間は出来ていない。何事も経験を積んで理解していくしかないのだ。

 それをボクスは経験から理解している。だからトキが今悩んで言った言葉の本当を知っている。


 「トキ君、いいかい、君は言われた仕事をしただけだとそう思っている。それは誰でもできる仕事で大人の自分より小さい子供たちのほうがはるかに出来ることも知っている。周りと見比べて自分のちっぽけさに感情が泣いている。そんな自分にプレゼントを貰う資格がないと怖気づいてしまった。こんな立派な物だ。自己評価が低いとそう思ってしまうのは仕方がない」


 評価と価値。家族、知人、赤の他人などいろいろな人から、それすなわち知恵を持つ全ての者から評価されて価値を付けられる。

 評価がなければダイヤモンドはただの透明な白い石であり、力あるものが価値有りと評価するからダイヤモンドは価値ある輝きを放つ。初めから輝いているわけではない、拾われ磨かれ自分を理解し輝く。評価あっての価値。


 「ただね、周りからしたら自己評価なんてどうでもいいし知らないよ。君がこのプレゼントをくれた人の好みの味を作ってくれた。それだけなんだ。それだけで感謝を形にしたいとこうやって立派な物をくれたりする人もいる。その気持を理解できたならありがたく貰いなさい」


 俺は言われている事を理解しようと頭をフル回転させている。泣く一歩手前の感情でうまく働かないが大切なことを言っていることだけは理解出来る。心に刻め、脳に刻め。


「勘違いしちゃいけないよ。プレゼントは絶対に貰うべきだと言っているんじゃない。今回のこの服は正真正銘感謝の気持ちそれしかないと僕が保証する。しかし中には見返りを要求する不埒な輩も存在する。絶対の保証がないなら疑問を持つこと。練習しているよね?立派になりたければ“なぜ”を忘れなこと」


「さあどうする、これを貰うかい?」


こんなみすぼらしい格好は嫌だ。立派な服が目の前にありすぐにでも飛びつきたい。今言える素直な自分の感情。


考えるために口に当てていた手が震える。落ち着くために大きく息を吸い時間をかけて吐き出す。まだ足りない、もう一度。


 考えよう。なぜこの服をくれるのか。前提条件として俺はボクスさんを信用している。助けてくれた1班の全員を信用している。裏切られたりしても、悲しいけどそれでいい。助けられていなければ死んでいたんだから俺は受け入れる。

 そのボクスさんが感謝の気持でくれたことを保証してくれている。これで何かあったとしても信用した俺が悪い。ボクスさんが悪いと言って攻める気はさらさらない。


 なぜくれるのかはレモン漬けを大層気に入ってくれたからそのお礼として。

 それだけで立派な服をくれるのか?それだけでくれる人もいるとボクスさんは言う。

 なぜ服なのか。俺の格好がボロがきている麻の服だったから。

 どこかで見られていたのか?それともボクスさんに何がお礼として最適か相談したのか。


 答えは初めから出ている。保証してくれているから受け取る。裏切られていても構わないと。


 だが思考を停止してはいけないと教えられている。なぜの追求。奥深く深淵で無限に考えることが出来るとされる。結局こんがらがって答えが出なくなり考えたって無駄とさえ思うこともあるし疑問を投げかけてみたこともあるがそれはそれとの答えだった。


 何も考えずに素直に受け取って騙されるより考え抜いて騙されたほうが相手の力量を計ることができ次に繋げれるしタダで騙されるなんてもったいないって言っていた。まあ次があればなと大きく笑っていた。


 「決めました。ありがたく頂戴します」


 考えた末に出た答えはやはり貰うことだった。


 「そうか、うん、貰うといい。贈った人もきっと喜ぶ」

 「ただし今回はボクスさんという絶対の信用があってこそで、本当は言葉でなく無償で提供するって書かれた書面で保証を取る。戴き物でそんなことしたくないですけどね。しらない人から物をもらう事ってそれぐらいの覚悟って言うんですか。今考えられる絶対の保証はそうなんじゃないかなーと。どうでしょうか」


 せっかくくれたプレゼントだから貰いなよっていう説得のために言った言葉だと思っていたけど、考えてみたら違和感があるといえばあって、言葉の強調というか今は上手く説明できないけど当たって砕けろで考えた答えを述べた。


 「おいおいおい、それは失礼ってものだよ。善意でくれた物にケチをつけるって言うのかい? まったく君ってやつは!……って言うのは冗談でよく考え抜いた答えだよ。立派だ! うん! いいね!」

 「ハァー、怖いこと言わないでくださいよーまじびびっちゃいましたよ」


 よかった。当たって砕けなかった。本当によかった。勇気を出して直感に頼ってよかった。その後の言葉は予想してなかったから変な汗が吹き出しそうだった。

 そうか失礼でケチをつけることになるのか。善意は恐ろしいな。


 「さあこれは君のものだ。受け取るといい。そして見せてくれないか、君の立派な姿を」

 「はい!」


 受け取るだけでも嬉しかったが、見せてくれと言われ恥ずかしさより自分をちゃんと見てくれることに答えたかった。


 部屋に戻り急いで着替え元の場所に戻るとボクスの他にチョチョコーネもいた。


 「立派な服を貰ったね。おめでとう。君は君が思っている以上に評価されているよ。自信を持ってね」

 「そうだね、そうだ。周りが優秀だと自己評価は低く見積もってしまうものなんだ。大事なのは一年前の自分よりも劣っていないか。やる気を出して取り組んでいるのか。成長してるかどうかなんだ。君はまだ一年も立っていない。自己評価を低くするなんて早すぎるよ。今は学ぶ時期だ。急いで転ばないようにね。まあ人生は常に学ぶものだけどね! はっはっはっはっは!」


 頭の後ろを掻きながら照れ隠しをする。

 隠しきれない雫がポロっと落ちる。

 焦りすぎてたのかもしれない。


 泣いてばっかだよ俺。



 仕事を終え部屋に戻り考える。


 「よし」


 捨てていいと言われた麻の服を丁寧に洗う。


 ズボンを大切に保管しようと引き出しにしまう。

 上着はエプロン代わりに使うことにした。


 タダで貰ったもの、捨てるなんてもったいない!





読んでいただきありがとうございます。


ただより高いものはないという考えがありますが過敏になりすぎて

すべてを疑うようになると近づきたくない人、勘違い人間と思われるようになる、かな。

愛情いっぱいで育てるのも大切だけどちょっとした勉強として苦しい思いをさせるのも愛情ですね。


通りすがりの超絶美女「あなた気に入ったからこれタダであげるわ」

俺「まじっすか好き!」

俺「お返しは何にしようかなー♪やっぱり彼女に似合う超高級バッグとかだよなー。他の男よりも出来る俺を見せつけないと」


では次話もよろしくお願いいたします。

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