ゲオルグの結婚☆オスカール帝国
初登場の二人。
エドロンの伯爵令嬢とオスカールのダンテヴァル男爵のお話。
最強騎士のキャラは今はまだ出て来ません。
あるオスカール帝国のハイロという領地にゲオルグという
元軍人の男が住んでいた。
彼はこの国の皇帝から不興を買い、辺境の地に追いやられた。歳はまだ30歳。働き盛りである。
彼は鍛え上げられた大きな体と強面の顔面を持っていたが、その内面は基本とても穏やかで物静か。寧ろ、無口だった。そんな彼は自分の処遇を黙って受け入れた。
彼に国外から結婚相手を勝手に用意され押し付けられた時も何も言わなかった。
オスカールでは、深刻な子供不足が問題になっている。
実はオスカールで生まれた女性は、殆ど女の子を産めないのである。
オスカールはその事実を隠し長年他国との親交を深めるという名目で女性を他国から娶っている。
つまり、子供を沢山作れという事だ。
ゲオルグも、それが理解出来ていた為、顔も知らぬ女性と結婚する事を受け入れた。
しかし、ゲオルグはもう30代である。
相手の女性は恐らく行き遅れた女性の可能性が高い。
つまり、ゲオルグより歳上の可能性がある。
そうなると、子供を作るのは中々難しいかも知れないとゲオルグは考えた。
この世界では女性は大体10代後半に結婚する。
20代に入ると周りから早く結婚しろと口煩く言われる。
男も20代の内に家族を持つ者が多い。
つまりゲオルグは婚期を完全に逃している。
(可哀想な方だな、俺などに娶られるなど。せめて、不自由なく暮らせる様に配慮しなくては)
さて、此処からは少し視点が変わりその可哀想だと言われた女性。セリネの視点から物語をお送りしよう。
彼女はエドロン帝国に住む伯爵家の三女だ。
彼女の趣味は占い。
しかも、割と本格的なものである。
「む!むむむむ!!」
彼女は目の前に置かれた手のひらサイズの水晶を覗きこんだあとニッコリと微笑んだ。
「お父様! お母様!!」
「なんだいセリネ。騒がしいな」
彼女は息を切らして両親の下まで歩み寄ると綺麗な所作で深々とお辞儀をした。その行動にセリネの両親は顔を見合わせて微妙な顔で彼女に顔を戻した。
「何が見えたんだ?」
「オスカールには私が参ります。彼方から結婚相手を寄越せと言われているのでしょう?」
セリネの笑顔に2人は抵抗を諦めた。
大人しそうに見えるがこの娘、一度決めたら決して自分を曲げないのだ。そして、彼女の父親は呟いた。
「オスカールのお前の相手が不憫でならんな。自分で決めたのなら上手くやりなさい。此処にはもう帰って来れないと覚悟をもって」
その言葉に、しかしセリネは満面の笑顔である。
では、此処からは彼女がオスカールに入国し、自分の夫になる男性と始めて会う場面からお届けしよう。
****
これは意外だったわ!
私の運命の相手ってこんな大人の男性だったのね!
「・・・・・君が、エドロンからやって来た私の婚約者ですか?」
「はい。セリネと申します」
あれれ?
反応が悪いわ。
もしかして私、顔に何か付いてたかしら?
此処に来る前にちゃんと身だしなみチェックはした筈なのに。
「あの? 私の顔に何か付いてます?」
「いや。その、随分と若いのですね。申し訳ない。俺は貴女の歳を伺ってなかったもので・・・」
そうなの?
そんな事有り得るんだ?
自分の奥さんの事なのにちゃんと情報を確認しなかったなんてチャレンジャー。益々興味湧いて来た。
「もしかして、私相手ではお嫌でしたか?」
「とんでもない。ただ、貴女は俺で良かったのですか? その、俺とは一回りも歳が離れていますが?」
「はい。私はちゃんとゲオルグ様の事は存じております。元軍人の方とか? やはり第一線で活躍されていた方だけあって体大きいですね」
私、女の子の中では割と背は高い方だと思っていたけれど、この方と並ぶとやはり圧倒的にゲオルグ様が大きいわ。でも、声も表情も穏やかで、とても落ち着く。
「そうですね。俺が怖く無いですか?」
「え? 怖くないですけれど?」
さっきからずっと見つめられているけれど、そんなに見つめられると私恥ずかしい。
なんだか耳が熱くなって来たわ。
「あの、ゲオルグ様?」
「・・・そうですか。・・・困ったな・・」
ゲオルグ様どうしたのでしょう?
もしかして私、彼の好みの顔では無かった?
え〜? でも、そんな事無いと思う。
だって彼と私の相性はとても良い筈だもの。
私の占いは、今まで外れた事ないもの。
ゲオルグ様が、私の運命の相手だと示されたのだから。
「婚儀まで一ヶ月あります。その間にゲオルグ様の事、沢山教えて下さい。私の事も、知って頂けたら・・・嬉しいです」
キャ! 言っちゃった!
女性から積極的にアプローチするのは、はしたないと乳母が言っていたけれど、子供だと侮られたくないもの。
二人の明るい未来の為に・・・私頑張るわ!!
ゲオルグ様? 立ち上がって何処かに行かれるの?
あ、私の近くまでいらしてくれるの?
私の手がどうかしました?
わぁ〜ゲオルグ様の手、大きいわ〜。
「はい。是非貴女の事を俺に教えて下さい。セリネ様」
わ、わわわ〜!
ゲオルグ様の唇が私の手の甲に優しく当てられたわ!
私、男の人にこんな事されたの始めて。
は、恥ずかしい。でも、嬉しいな。
「すみません。お嫌でしたか?」
「いえ。嫌じゃないです。ゲオルグ様」
何故そこで固まるのかしら?
私もしかして何か間違った行動をとってるのかしら?
経験値が無さ過ぎて分からない。
だって私、今まで誰とも恋した事ないもの。
でも、今私凄くドキドキしてるわ。
「至らない事も多々あると思いますが、これから宜しくお願い致します。私、頑張ります」
「こちらこそ。無骨な男で申し訳ありませんが仲良くして頂けたら嬉しいです」
ふぁー!? 笑顔素敵!
それに、さっきからこの方からとても良い香りがするわ!
もっと側で嗅ぎたい!! ハッ! いけないわ・・初日にうっかり変態だと思われたら明るい未来が閉ざされるかもしれない。我慢しましょ!
「はい! 仲良くさせて下さい」
****
「エドロンから嫁いで来たのがあんなに若い方だとは。余りにも不釣り合いでは?」
ゲオルグはセリネとの初対面を終え別の部屋に執事と移動した。そして、頭を抱えた。
自分の下に嫁いで来たのは14歳も歳の離れた女の子だった。エドロンでは16歳で成人女性とされ、嫁に出される。しかし、相手もそれなりに若い相手の筈である。
そもそも、何故彼女がゲオルグとの結婚を了承して来てくれたのか彼には理解出来なかった。
彼女とは一度も会った事もなく、一目惚れという可能性も低い。何か、特別な事情があるのかも知れないとゲオルグは考えた。
「そうは言っても今更返す事も出来ない。彼女が嫌がらないのだから、このまま話を進める他ないな」
ゲオルグは溜息をつきながら先程のセリネの様子を思い出した。
伯爵家のご令嬢にしては少し日に焼けた肌と大きな瞳。
そして、人懐っこい笑顔が目に焼き付いた。
とても、可愛い女の子だという印象だった。
しかし、ゲオルグに課せられた子作りをする相手としては、やや不安が残る。
不安というか、ゲオルグには彼女が子供に見えるので罪悪感と背徳感が付きまとう。
何年かはその役目を果たす事は無理そうだとゲオルグは判断した。
「可愛らしい方だ。こんな所に嫁いで来てくれたんだから、大事にしなくてはな」
「本当に、大丈夫なのですか?」
この日、夫婦になると決められた二人はラブハリケーンがその後自分達に猛威を振るう事をまだ予期出来ていなかった。
かたや国の為、かたや占いの未来の為。
彼等の恋は、まだ始まっていないのだ。
「大丈夫だ。上手くやれるだろう、きっと」
大丈夫ではない。
しかし、それを知るのは彼等が結婚を終えた後。
神のみぞ知ると、いうやつである。